G1皐月賞。クラシックの登竜門にして、最も速いウマ娘が勝つとされているステージ。そして多くの伝説が生まれたレースである。
地方のアイドルホースが制し、日本に大レースブームを巻き起こしたこともあった。
皇帝がライバルを蹴落とし、皇帝たる所以を見せつけたこともあった。
そして、昨年は11番人気のウマ娘が大波乱を起こして見せた。
今年はどのウマ娘が伝説を波乱を巻き起こすのか。
『さぁ、各ウマ娘ゲートに入って体制完了。皐月賞発走です』
ゲートが開く。私の枠は17番、決していい枠じゃない。ぞれにバ場も良、今週は雨が続いていたからせめて稍重くらいにはなって欲しかったんだけど。でも、泣き言を言っても仕方ない。とにかく勝つ! それだけだから。
『さぁ注目の先行争いは内からセイウンスカイ、更に内からテンカムソウが出てこのウマ娘がハナを奪いそうです。セイウンスカイは控えて2番手。そこにキングヘイロー、エモーションが続きます』
いつも通り位置取りは後方。だけどこれでいい。すぐ横にはあのスペシャルウィークがいる。彼女は私より一つ外の大外枠、これはラッキーだ。トレーナーさんが言うには今回のレースで一番の強敵はこのスペシャルウィーク、だったら絶対に内には入れさせない。
『バ群固まって、テンカムソウが2バ身のリード。セイウンスカイがその後ろに付けて内にエモーション、外にはキングヘイロー。スペシャルウィークは最後方から3人目、カナメと並ぶ形』
っつ、やっぱりG1はペースが速い。前走と同じコースのはずなのに、スピードが全然違う。でも、大丈夫。必ずどこかでペースは緩む、そこまで我慢しないと。
◇ ◾️ ◇ ◾️ ◇
横一線のスタート。開けた視界を遮るものはない。なんて思っていたら1人のウマ娘が飛び出していった。
残念、逃げられなかったなぁ。前の子が飛ばしてる、私はその後ろに付ける。うんうん、グリーンベルトは確保できたね。
さてさて、他のみんなの位置取りはっと。キングも私の直ぐ後ろ、スペちゃんは分からないけど、きっと後ろの方かな。
確かに私は弥生賞では後ろの2人に差された。けどねスペちゃん、弥生賞とは違うんだよ? キングは流石に分かっているみたいだけど。
でもこのペース。どうやら風は私に吹いているみたいですねぇ。
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私は最初から敵は2人だけだと見定めていた。
私はキング、キングに土を付けたのだから、今度はやり返してやらないと気が済まないわ。
レースは予定通り、前に行ったスカイさんを見る格好。グリーンベルトをキープしながら、4コーナで仕掛ける。前走は4コーナの仕掛けどころで置いてかれてしまったのが敗因だ。
同じ失敗は二度としない。それが一流の証よ。
◇ ◾️ ◇ ◾️ ◇
よし、スタートは綺麗にでれた。ここで後ろに下げてっと。
弥生賞と皐月賞のコースは同じ、だったらやることも変わらない。最後の直線でまとめて交わす。先頭をみるとセイちゃんが逃げていない。キングちゃんとならんで2.3番手の位置だ。
トレーナーさんは一番警戒するべきなのはセイちゃんだって言っていたけど、逃げていないなら取りあえずは安心かな。
さぁ内に入って・・・え、内に入れない。一つ隣の枠の子が私のピッタリ横についている。うぅ、でも大丈夫!
さぁ、待っててねお母ちゃん。絶対に勝つから。
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『さぁ、向こう正面に入って1000mの通過は60.4秒。よどみない流れです』
ここまでは早い流れ。そろそろ仕掛けを探らないと、ってここでペースが上がってる。これじゃあ仕掛けられない。
だったらどうする?
・・・
・・・
よし! 覚悟は決めた。3コーナーだ、3コーナーから仕掛ける。もうペースも何も関係ない、どうせ私が勝てるとしたら全力を出し切った上で運を味方に付けた時だけなんだだ!
ったら、まず全力を出し切らないとね。
『残り800を切って先頭はテンカムソウ、セイウンスカイガッチリと2番手、先頭に並びかける。キングヘイロー、エモーションも進出を開始』
スペシャルウィークは乗って来てくれるかな? ちらりと目線をやる。どうやら向こうも分かってくれたみたい。さぁ進出開始だ。
◇ ◾️ ◇ ◾️ ◇
ちらりと私の内にいた子が、私を見る。レースを走るウマ娘ならその意味は分かる。これは挑発だ。私についてこれるかっていう。
私の夢は日本一のウマ娘になること。だったら、ここで逃げる訳にはいかない。さぁ、受けて立ちます!
『後方はどうか、17番カナメが外を回って上がっていく、連れてスペシャルウィークも進出開始』
走っていて分かったことがある。最初はセイちゃん、キングちゃんだけが相手だと思っていた、勝つためにはこの2人のことを抑えればいいんだって。それは正しいけど間違いだった、レースに出走する全員が敵なんだ。この娘も全力で私を潰しに来てるんだ。
けど、負けない。日本一のウマ娘になるためにはここで負けられない。
絶対に勝ちます!
◇ ◾️ ◇ ◾️ ◇
3コーナーに入っても、セイちゃんの余力は十分。にゃは、これは来てますねー! 後は4コーナー直線入り口で先頭に並んで交わす。出来る限りリードを開いておかないとスペちゃんやキングが飛んできちゃうもんね。まったく、2人のあの脚は勘弁してほしいよ。セイちゃんにはそんな武器ないんだからね。
けど、レースは脚の速さだけじゃ決まらないんだよね。位置取り、ペース、仕掛けどころ、何も足りない私はそこを磨いてきた。
さぁ、大物を釣っちゃいますか!
◇ ◾️ ◇ ◾️ ◇
作戦通りスカイさんの後ろに付けてここまで来れた。
仕掛けどころは間違いちゃダメ。早すぎたらスペシャルウィークさんに差される。遅すぎるとスカイさんを捕まえられない。だったらどうする? えぇ、答えは決まっているわ。勘よ、自分がここだと決めたタイミングで仕掛ける。一流は自分の判断を疑わないしどんな結果になってもそれを受け入れる。
今こそキングの走りを見せて上げる!
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「カナメちゃん、覚悟を決めたみたいですね」
「そうだな、迷いのない仕掛けだ」
目の前のウマ娘、シャインスワンプがぼそりと呟く。前走で怪我を負いしばらくは走ることのできないこいつが、レースを見に行きたいと声を掛けてきたのは意外だった。
「でも、驚いたよ。まさかお前がレースを見たいなんて言ってくるとはな。カナメの方はともかく、お前はあいつのことが苦手なのかと思っていたよ」
「確かに・・・。前までは思うところが無かった訳じゃないですよ。あの娘、ナチュラルに私のこと見下してたし」
本人は意識してはいないだろうが、それはあいつの悪い癖だな。まぁ、レースで走るウマ娘は多かれ少なかれそういう傾向はあるが。
「でも、分かったんです。あの娘、要は子供なんですよ。真っ直ぐにものを見ている。そう思うと、何だか可愛いじゃないですか。私に嫉妬していたところとか」
「何だ、お前知っていたのか」
「そりゃ、同じクラスですからね。でも、トレーナーさんが立ち直らせてあげたんですよね」
おいカナメ。お前の恥ずかしいところ全部ばれているぞ。というかこいつ、本当にカナメと同い年か? バカそうなあいつとは比べてやるのも失礼だな。
「さぁな。それよりレースだ。カナメのやつ最後まで脚が持てばいいが、厳しいか・・・」
「トレーナーさんから話を振ってきたんじゃないですか。でもそうですね、私も厳しいと思います。あの早いペースで強引に仕掛けて行きましたからね。しかもかなり外を回されてますから」
流石にこいつはレースの流れが分かっているな。惜しむらくは能力が足りていなかったところだな。こればっかりはどうしようもないが。
「でも・・・」
シャインが続ける。
「私たちに出来ることは一つだけですから」
「それは?」
「決まってます、応援ですよ。 スゥーー、カナメちゃん頑張ってーーー!!!」
なるほど、これは一本取られたな。俺も自分の愛バを応援してやらないと。
「「頑張れーーー!!!」」