今回からしばらく一人称が変わります。
第17話
「トレーナーさん、次のレースなんですけど私が決めてもいいですか」
皐月賞の惨敗後、私の腹は決まっていた。
「なんだ珍しいな。言ってみろ」
「はい、次走は石川ダービーに出ます。そして次はJDDを目指します」
まずは原点に立ち返ろう。金沢の大一番、このレースを取りに行く。そしてその後は地方の祭典JDDだ。今まで金沢のウマ娘がここを勝ったことはない、それどころか好走も。だからこそ、ここに挑戦する。石川ダービーを勝てば、このレースの優先出走権を手に入れられる。
最も、そんな私を見てトレーナーさんは思うところがあったみたいだけど。
「・・・ダービーはいいのか? 望み薄だがトライアルレースを使えば出走の可能性も0ではないぞ」
「何言っているんですか? ダービーなら出るじゃないですか、それも2つも」
なんて、冗談めかして言ってみる。残念ながら、トレーナーさんは笑ってはくれなかったけどね。
「そういう意味じゃないのは分かっているだろ? 俺が言いたい・・」
「いいんですよ。今の私の実力はあんなものです」
そう、前走の皐月賞で自分の実力がはっきりとした。自信のあったロングスパートもあっさりと打ち破られてしまったし。とにかく、今の私だと中央のトップレベルには全く太刀打ちできない。
「中央挑戦は諦めるってことか?」
「へ、何でですか?」
「だって、石川ダービーに出るんだろ・・・」
「そうですね。でも秋にはまた挑戦しますよ! 次の目標はジャパンカップです」
ジャパンカップの舞台は東京芝2400m、日本ダービーと全く同じ舞台だ。そして、レースレベルは此方の方が上。そんなジャパンカップだけど、過去には地方のウマ娘が2着に食い込んだこともある。古くから地方のウマ娘にも門戸が開かれていたレースだ。だから、このレースには絶対に出走したい。
「それは大きく出たな」
「いけないことですか?」
もちろん答えは分かっている。そう、あの時と同じドヤ顔でトレーナーさんは言う。
「いーや、最高にカッコイイ選択だよ」
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金沢に移籍した初戦。舞台はD1400m、スタートしてからの直線が短くコーナーも4つあるため圧倒的に逃げ、先行が有利なコースだ。中央時代でも前目でレースをしていた私にとってはうってつけのコース。それにこのメンバーなら楽にハナも取れるだろう。
そして結果は・・・圧勝。まさに一人舞台だった。
まだ一線級のウマ娘とは走っていないけど、このレベルなら石川ダービーを取るのも難しくはないだろう。現にタイムを見ても例年の石川ダービーウマ娘に比べても全く劣っていない。うん、多分いけるかな。
「お疲れ様。今日も頑張っているね」
トレーニング中、こちらでお世話になっているトレーナーさんが話しかけてくる。もっとも、練習メニューは中央時代のトレーナーさんのものをそのまま使っているので、本当に名前だけ貸してもらっているだけなんだけど。
「お疲れ様です。いえ、当然のことですから」
「この前のレースで地方の砂にも対応していたし、今のところ私が教えることなんて何もないなぁ。それはそれで困ってしまうけどね」
「ははは、私なんてまだまだですよ」
お互いに気を遣ったやり取り。まぁ、それもしょうがない。お互いに利益があると思って手を組んだ打算的なパートナーに過ぎないのだから。私は賞金を、彼はそこにプラスして名声を。私的にはこんな低レベルなダービーの肩書なんて、もらってもしょうがないと思うけど。
「ところで知っているかい? 石川ダービー、あの娘が参戦するらしいよ」
「あの娘・・・ですか? すいません、名前を教えてもらえませんか」
「おっとごめんね。カナメちゃんさ。彼、あぁ彼女のトレーナーが言っていたから間違いないはずだよ」
カナメ・・・、クソッ金沢のエースじゃないか!!!
若葉S2着、皐月賞にも出走したウマ娘。ふざけるな、話が違う。あの娘は中央挑戦するから、ダービーには出ないって話だったじゃないか。
ここの連中は分かっていないんだ。あの娘の残した実績を凄いの一言でまとめている。中央で走っていた私には分かる、はっきり言って格が違う。
「ようやく感情を出したね。さて、どうする??」
「どうすると言うと・・・?」
「分かっているだろう? 今の君だとはっきり言って相手にならない。君の方が分かっていると思うけどね」
「それは・・・」
そんなこと言われなくても分かっている。あの若葉Sのレースは私も見た。あのスパートは驚異的だ。皐月賞では不発だったがあれは相手が悪すぎた。この金沢で彼女のスパートに突っ張っていけるようなウマ娘はいないだろう。
「彼女の金沢の戦績を知っているかい?」
「いいえ、知りません」
「7戦して5勝2着2回。さて君はこの戦績を聞いてどう思った?」
「・・・ほとんど完璧な戦績だなって」
連対率100%。まぎれの多い小回りのダート戦でその戦績は彼女の実力が、この金沢では抜きん出ていることの証明だ。
「違う、そうじゃない。彼女は2回負けているんだ、しかも同じウマ娘にね。そして、そのウマ娘のトレーナーは君の目の前にいる」
「え?」
「そして、実際に彼女を負かしたウマ娘もここに居る。なぁ、シャイン?」
そう言って、トレーナーさんが顔を向けた先には、制服を着たくたびれた様子のウマ娘がいた。
いや、彼女には見覚えがある。・・・そうだ、あのスペシャルウィークを破った地方ウマ娘として一時期はそれなりに取り上げられていたウマ娘。確か、次走で怪我をしてしまったはずだけど。
なるほど、あのカナメを負かしたというのも納得できる。
「はいはい。いきなり呼びつけたと思ったらこのためですか?」
「なんだお前、キャピキャピキャラは辞めたのか?」
「あーもう、うるさい。それで用件はなんですか?」
完全に私が蚊帳の外に置かれているような気がする・・・。
どうやら、この2人の付き合いはそれなりに深いようだ。
「そうカリカリするな。何とかこの娘をカナメちゃんに勝たせてやりたい。協力してくれないか?」
「うーん、それだけですか? それだったら足りないですね」
「本当に嫌なやつだな。私も石川ダービーの肩書が欲しい、だから手伝ってくれ。これでいいか?」
「ニヒッ、だったらしょうがないですねー」
完全に置いてけぼりではあるが、何やら色々決まったようだ。ただ、私に説明もなしで進めるのは止めてほしい。
大体、トレーナーさん、私といるときとキャラ違いすぎだし・・・。どうやら、仮面をかぶっていたの私だけではなかったようだ。