おそらく、後二話の予定
突如として始まった、打倒カナメのトレーニング。
その内容は、はっきり言ってむちゃくちゃなものだった。
「違う、それだと遅いよ」
「はぁはぁ」
一体、何度コースを走っただろう?
唐突に現れた目の前のウマ娘、シャインスワンプはひたすらに私に走ることを命じる。
「疲れた振りはもう十分だよね。さぁ次行くよ」
可愛い顔しているがこいつは悪魔だ、間違いない。大体、言葉のチョイス一つ一つに棘がある。
「ッ、たかだか地方のウマ娘のくせに」
小さな声で悪態をつく。これくらいなら聞かれないだろうと高を括っていたのだが。目の前のウマ娘にはしっかり聞かれてしまっていたようだ。
「あれれ―、私、中央のレースでも勝っているんだけど? あなたなら、その時の相手も知っているよね」
それを言われると何も言い返すことはできない・・・。
彼女が打ち破ったのは世代有数の実力者のスペシャルウィーク。はっきり言って、私が勝てるような見込みは全くないような相手だ。
「で、結局このトレーニングは何が目的なんです? 教えてくれてもいいじゃないですか」
「そうだねー。まぁあと何本か走ったら教えてあげるよ」
その後・・・・・
「ハァハァ、もうこれ以上は無理!」
あれから何本かの単走を繰り返した後、遂に私は倒れこむ。自分で言うのもなんだけど頑張ったと思う、うん。
そんな私を見下ろすように悪魔、もといシャインさんは顔を見せる。その、にっこりと笑った表情を見て、釣られて私の顔にも笑みが浮かぶ。どうやら、私はこのトレーニングをやり切ったようだ。
「お疲れ様。それじゃあ、最後に一本走ってみようか」
・・・へとへとじゃなかったら手が出ていたんじゃないだろうか? だから、せめてこれだけは言わせてもらう。
「鬼か!」
「いいからいいから」
「本当にもう無理だから」
駄々をこねる私をシャインさんはスタートまで引きずっていく。
この人ケガしているはずなのに力強いなぁ。疲れ果てていた私は、そんな頓珍漢なことを考えていた。
そこから先のことはあまり覚えていない・・・
「よく頑張ったね。最後の走りのフォーム、あれを忘れないように」
あのトレーニングの後、クールダウンしている私にシャインさんが話しかけてくる。
「フォーム?」
最後の方は走ることに一生懸命でそんなことまで頭が回らなかった。正直、いつもの走りとは全然違っていたような気がするけど。
「そう。さっきまでのあなたのフォームだと地方の砂に適用できていなかった。それでも地力がある分、普通のレースなら勝てるとは思うけど」
「それ口で言ってもらいたかったんですけど」
「あなた、変にプライド高そうだし。それにこういうのは限界まで追い込むと体が勝手に理想のフォームを見つけてくれるからね」
余計なお世話だ。でも言っていることは一理あるのかもしれない。プロ野球の選手も、ギリギリまで追い込むことで理想のフォームが体に身につくと言っていたような記憶がある。
シャインさんはそう言うと、いつ撮影していたのか映像の入ったメモリーを私に渡す。
「ところであなた、カナメちゃんとは喋ったことあるの?」
唐突にシャインさんが話題を変える。そういえばシャインさんは、中央でもあのカナメと同じレースで走っていたはず。
「・・いや、ないですけど。シャインさんは仲がいいんですよね?」
「まぁそうだね。どうせだし明日、話しかけてみるといいよ。相手を知っておくのも悪くないしね。あと、話題は石川ダービーのことにするといいよ?」
その時のシャインさんの顔は何ともいえない、嫌な笑顔が浮かんでいた。。。
翌朝、座学の授業の合間に私は意を決してシャインさんに言われた通りカナメに話しかけることにした。
余談だが、この金沢の座学のレベルは中央のトレセンに比べてレベルが高い。というより、中央がレースやライブの方に注力しているだけなのかもしれないが。
話は逸れたが、目的のカナメは教室こそ違うが直ぐに出会うことができた。
「カナメちゃん、この前の皐月賞残念だったねー。私もテレビの前で声出ちゃったよ」
「次は石川ダービーに出るんでしょ? 私も出るんだけど止めてよー」
「また中央に挑戦するの??」
当たり前だが、彼女はここ金沢ではかなりの人気のようだ。まぁ無理もないだろう、なんて言っても残した結果が頭一つどころではなく抜けている。とにかく、そんなもみくちゃにされている彼女だが困惑している様子はなく一緒に盛り上がっている辺り、本質的に彼女も社交的なのだろうけど。
しかし、これは困った。端的に言うと凄く話掛けにくい・・・。
えぇい、いくしかないか。
「あのー・・・」
「ん? 私に用かな?」
お、これはラッキー。直ぐに私に気づいてくれた。
「はい。私も次の石川ダービーに出るので挨拶をって思って」
「あ、そうなんだー! よろしくね」
そう言ってカナメはニコニコとこちらに手を差しだす。なるほど、私の見立て通りフレンドリーなウマ娘のようだ。
「カナメちゃん、この子すごく強いんだよ? 転校生なんだけど、この前のレースは大差勝ちだったし」
その時、周りのウマ娘がカナメに私のことを伝えてくれる。確か、あのウマ娘は前走一緒に走った娘だ。そんな相手に、こうして素直に褒められるのは悪い気はしない。
「転校生ってことは、もしかして中央からきたの・・・?」
「えぇ一応」
「わぁ、すごい! 私も何度か中央で走ったけど、結局勝てなかったからなぁ。でも、秋にはまた挑戦するつもりだけど」
勝ったと言っても未勝利クラスだけどね。いや、それでも自慢できることではあると思うけど。普通にあなたの皐月賞出走の方が実績としてすごいですからね。もしかして嫌味か?
「そうなんですね。私もこの前の皐月賞みてましたよ。ちなみに、カナメさんは石川ダービーの後はどこに出走するつもりなんですか?」
「ん? JDDに出走するつもり。去年の川崎よりは勝負になると思っているんだけどね」
考える素振りもなくカナメは答える。どうやら彼女の中で、そのレースに出走することは確定事項のようだ。
「ちなみにカナメちゃんは石川ダービーでも後ろからレースするの?」
「そうだね、捲っていくつもりだよー! だから、あんまり早く逃げないでね」
「えぇー。どうしようかな?」
カナメが他のウマ娘と盛り上がっているのを見て、私は教室を出ていく。挨拶はこのくらいで十分だろう。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「どうだったカナメちゃんは?」
廊下に出た私にシャインさんが話しかけてくる。そう言えば、シャインさんとカナメは同じクラスだったはず。ということは一部始終を見ていたのか。
「最初は凄い明るくて友達も多そうなウマ娘かなって思いました」
「ふーん。最初だけなの?」
「えぇ。きっと彼女は私のことなんて何にも思ってませんよ。現に名前の一つも聞かれなかった。それに彼女の次走はJDDですって、これがどういう意味か分かりますか? 石川ダービーは勝つ前提なんですよ。あげくに戦法もベラベラ喋るし」
「まぁ、カナメちゃんはナチュラルに見下してくることあるからなぁ。悪い子じゃないんだけどね。実際、私も仲良しだし」
「金沢に来てここまでイラついたのは初めてです。絶対に石川ダービーでぎゃふんと言わせてやる」
決意を新たにし、私は自分の教室に戻る。
シャインさんが浮かべていたにやけ顔には気付かないままで。