「逃げですか?」
「そう。カナメちゃんに勝つにはそれしかない。少なくとも直線に入る前に捲られてしまえばそれでお終い。だったら、それをされないように差をつけるしかない。実際に私がカナメちゃんに勝った時はそうしたしね」
「・・・まぁ逃げ自体は妥当だと思いますけど。問題は逃げられるかですね」
金沢に限らず、基本的に地方のレース場は圧倒的に逃げが有利。実際に前走は私も逃げきって勝利しているわけだし。ただ、逃げはどうしても他の娘との兼ね合いがでてくる。
「あぁ、それなら大丈夫。あなたの実力なら間違いなく前は取れるはずだよ。展開も向きそうだしね」
ん? 少なくとも展開は向かないような気がするけど。他に逃げたい娘も多いだろうし。
そんな私の考えが見透かされたのかシャインさんは続ける。
「他の娘はカナメちゃんに一度は土を付けられているからね。だから、基本的にはカナメちゃんをマークするはず。ただカナメちゃんのスパートには誰もついてはいけない。だったら、みんなが取る方法は二つしかない」
「スパートしても届かない位置を取りにいくか。展開待ちの後方待機ですね」
勝ちにいくなら前者一択だとは思うけど。実際にそのために私も逃げるわけだし。
それに出走する娘のレベルを考えれば、展開待ちもなにもカナメに追いつけないに違いない。
「そう。ただ展開的にはあなたが逃げることは、みんな予想しているはず。だから、あなたの番手に付けたい娘は多いだろうね。あなたはまだカナメちゃんとの勝負付けが済んでいないから。前に付ける娘は、あなたに直線まで連れていってもらって最後にちょい差しを狙うはず」
着狙いの娘もいると思うけどね、とシャインさんは付け加える。ただ私の後ろに他の娘が密集してくれるのはありがたい。
「それは好都合ですね。カナメも外を回して捲ってこないといけないでしょうし。ちなみに、他の娘が無理して逃げる場合は競ってでも前に行った方がいいですか?」
「基本的に前は取り切ってしまった方がいいとは思うけど。まぁ、向こうが絶対に引かないようだったら行かせるしかないよね。共倒れが一番残念な結果だし。けど、あなたのテンの速さなら問題ないはずだよ」
やっぱりそうか。私も多少の無理をしてででも前は取るべきだと思っていた。他の娘を行かしてしまうと、どうしてもペースのコントロールは難しくなる。それに前の娘が垂れてきた場合、距離のロスも考えられる。
あとの懸念事項は、
「カナメはどこら辺で仕掛けてきますかね?」
「うーん、基本的には最後の直線には先頭で入りたいだろうから、逆算して最後の向こう正面くらいから進出してくるんじゃないかな? だからあなたもそこまでにはある程度、カナメちゃんを離しておく必要がある」
確かに、金沢の小回りコースならば最後の直線入口では先頭に立ちたいはずだ。あの短い直線で追込一気とは考えにくい。そうならと私も色々と対策する必要がある。
「ですね。本当はスローで逃げたいところだけど、それだと捲られてしまいますよね。ある程度速いペースで脚を使わせないといけないか」
「そうだね。速いペースで逃げること、これが前提条件。後はカナメちゃんとの、もがき合いだね」
Hペースの逃げ、一歩間違えればあっさりと後ろの娘に差し切られてしまう可能性もある。が、今回の面子ではその心配は少ないだろう。あくまで相手はカナメ一人。驕りかもしれないけれど、警戒すべきは彼女だけだ。
とにかく捲られないこと、これが一番重要。おそらく彼女はコーナーでは外を回されるはず、だからコーナリングの差で彼女を押さえ込む。
「もがきあい・・・。とはいえ、直線での競り合いは私に不利ですよね。だから私にも作戦があります」
「作戦・・・?」
「金沢のインコースは砂が深いですからね。彼女にはそこを走ってもらいましょう。直線入口まではコーナリングの差で前を守って、直線入口で外に進路をとります。もし、彼女が私より外を回すなら距離をロスしますし、内を回すなら深い砂の上で走ることになりますから」
これが私の作戦。昔、とある3冠ウマ娘が実際にされた作戦でもある。もっとも、その3冠ウマ娘は圧倒的な実力で完勝したわけだが。
「なるほど。多分、外から捲ってくるカナメちゃんは勢いを殺したくないだろうから外を回すだろうね。けど、あんまり外に突っ張ったら内を掬われる可能性もある。そこは気を付ける必要があるよ」
「もちろんです。シャインさんの分も戦ってきますよ」
作戦は決まった。後は本番でその通りに走るだけ。そうすれば自ずと勝利も付いてくるはずだ。
さぁ、後は本番を待つだけだ。