地方は中央の2軍じゃない!   作:小魔神

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第26話

『さぁ、やってきましたjpn1ジャパンダートダービー。クラシッククラス最強のダートウマ娘を決める一大決戦、地方、中央から16人のウマ娘が集まりました』

 

 東京ダービーの上位3人が出走を回避、ジュニアのチャンピオンは姉と同じく芝のスプリント路線に進んでしまったこともあり、今年のジャパンダートダービーは、はっきり言ってメンバーレベルが低い。

 が、1人だけ纏う雰囲気が違うウマ娘がいる。ユニコーンS、名古屋優駿を連勝してきたこのウマ娘は間違いなく今回の大本命だ。

 カナメも今回は人気を集めているが、果たしてどうなることか。

 

『各ウマ娘、返しウマでゲートに向かいます』

 

「で、お前らはどう思う?」

 

「まぁ、なるようになるだけだろ。それよりも、あいつ4番人気になってるぞ」

 

「彼女は芝のリステッド競争で2着。この実績だけ見れば一番人気のウマ娘よりも上だからね。ファンの中には、そういうところに着目している人たちもいるんだろう」

 

 今回一緒についてきたのはお馴染みのサウスと、どういう風の吹き回しかシロヤマだ。まぁ、場所は違えどシロヤマもかつてはクラシック期の地方No.1ウマ娘になったわけだしな、思うところもあるんだろう。 

 あとはシャインのやつも一緒には来たんだが、とある理由でグリンと2人で違う場所で観戦中だ。

 

「シロヤマの言う通りだろうな。それにあいつは一応、ダートで行われた共同通信杯でも4着。前走の石川ダービーを見てもこのメンバーじゃ上位と捉えられてもおかしく無い」

 

 実際に共同通信杯の上がり3Fは大したものだった。いくら湿ったバ場で最後方からと言っても、あのタイムを出せるウマ娘はそうはいないはずだ。レース自体は完敗だったがな。

 

「なるほどな。確かにこのメンバーならそうなってもおかしくはないか。まぁ、1人だけ別格っぽいやつもいるが。どう思うシロヤマさんよぉ」

 

「一番人気のあのウマ娘は、はっきり言ってこのメンバーの中では実力は抜きん出ているだろうね。正直なところ私と比べてもそうかもしれない。ただ、レースっていうのはやってみるまで分からない部分もある」

 

 どうやら、この2人も気づいたみたいだな。仮にも金沢ではトップクラスのウマ娘、流石に力量は見誤らないか。

 

「そりゃそうだ。で、今回はあいつにどんな指示をしてやったんだ?」

 

 今回あいつに与えた指示は一つ。まぁ、いつも通り特段大したことは言ってない。

 

「別にいつもと変わらん。行けそうな時に行け、これだけだ。下手に指示を出してもカナメは考えすぎちまうからな。それに皐月賞の時のあいつの仕掛けのタイミングは悪くなかった。だったら、その本能に任せて見ようと思ってな」

 

 そういう意味では、俺がここまで出張る意味も本当はないのかもしれないな。まったく、トレーナーの仕事をさせてくれないウマ娘だ。

 

「ということは今回も後ろからのレースにはなるわけだね」

 

「そこは俺もカナメも大前提だ」

 

 ついさっき本人とも話したが、そもそもあいつは前に行けない。本音としては、あいつの先行策も悪くはないとはおもっているんだが‥。どちらにせよ、それができるのはもう少し先の話しだな。

 

「あいつスタート下手だしな」

 

「まぁな。だけどあいつはスタートが下手な代わりにいいところもある。本人には言ってはいないが」

 

「いいところ?」

 

「あぁ。あいつはキックバックを気にしないんだ。だからバ群の後ろで中でもすんなりとつけることができる」

 

 キックバック、簡単に言えば前のウマ娘が走ることで後ろに飛び散る砂のことだ。芝と違いダートでは大きな影響を与える。目に入れば当然、視界は塞がれるし、何より砂そのものが体に当たるのは単純に痛いらしい。考えてみれば当たり前だが。

 

「それはダート戦においては大きな利点だね。キックバックを極端に嫌がってダート戦だと力を出せない娘もいるくらいだし。基本的にジュニアやクラシック期のウマ娘はそういう傾向が大きいものだが」

 

 レースに慣れていないウマ娘はキックバックを嫌がることが多い。そのため、逃げや追い込みといった極端な戦法をとるウマ娘もいれば、外枠でしか好走できないといったウマ娘もいる。

 

「私は普段から、前でレースするからあまり気にしたことはないな。逃げない場合でも真後ろではなく外目につければいいだけだ」

 

 サウスは確かに金沢では常に前目のポジションをとっている。もちろん、それがレースに勝つためには一番の方法なのだから当たり前だ。だが、こういうタイプのウマ娘ほどバ群に揉まれた時に好走できなくなるものだ。わざわざ、口には出さないが。

 

「金沢ならそれでいい。実際に内ラチ沿いは砂が深いしな。ただ、大井は違う。ここで走るなら内ラチ沿いのポジションは押さえておきたい。さっき大した指示はしていないといったが、仕掛け所までは内ラチ沿いを走れとは指示をしている」

 

 人によっては大井のレースは内ラチを取るゲームだと言うくらいだしな。流石にそれは言い過ぎにしても、内ラチをとった方が有利なのは間違いない。

 

「だがそれだと、彼女が得意な捲りが難しくなるんじゃないかい?」

 

 シロヤマが、どうなんだとばかりに質問を投げかけてくる。確かに普通に考えればバ群の内側から位置を上げるのは難しい。前にも横にも壁ができるからだ。

 

「おそらく、それは問題ない。はっきりいってこのメンバーなら道中のペースにもついていけないやつも多いはずだ。実際のところバ群に囲まられるようなことにはならない」

 

「なるほど」

 

 どうやら納得したようだ。

 もっとも、こいつの場合は、初めからこの答えは予想していたような気がするが。

 シロヤマ自体、ある程度後ろからもレースをするウマ娘だからな。そこら辺はなんとなく分かるだろう。

 

「まぁ、このメンバーならそうなるかもな。ただ一番人気のあいつも後ろからの脚質だろう。逆にペースが落ち着いて一団になることはないか?」

 

 サウスの疑問はもっともだ。ただ、そのペースでもついていけないウマ娘は多いはずだ。それほどまでに、実力差は大きい。

 

「ペースが落ち着くにしてもバ群は縦長になるはずだ。ごちゃつく場合は前にでるしかないがな。ペースが遅くなるなら捲りも決まりやすくなるだろうし、そこは歓迎だ。まぁ問題は、カナメが前のウマ娘を掃除した後で、後ろから一番人気に差される可能性の方だな。こればっかりは考えても仕方ないが」

 

「ただ、予想される展開ではあるね。おそらく彼女もレース展開は想定済みだろう」

 

 カナメはここまで捲りを見せすぎたかもしれない。捲りっていうのはある種奇策みたいか面もあるからな。

 

「結局のところは出たとこ勝負ってわけか」

 

 珍しくサウスが良いことを言ったな。カッコつけて言えば既に賽は投げられたってやつだ。レースの展開は始まってみるまで分からない、結局のところ運っていうのもある程度は必要なのは間違いない。

 

 さぁ、そろそろ時間だ。

 あいつの実力と運を改めて見させてもらうとしよう。

 

 

『さぁ、いよいよファンファーレです』

 

 jpn1ジャパンダートダービーが始まる。

 

 

 ◇  ◾️  ◇  ◾️  ◇

 

「グリンさん、どうしてみんなとレースを見なかったんです。サウスさんと仲が悪いからですか?」

 

「シャインちゃん、意外とはっきり言うわね。まぁ、それもあるんだけど、どっちかと言うとシロヤマさんの方ね」

 

「あー、シロヤマさん。シロヤマさんの前だと緊張しちゃいますもんね」

 

「そっかぁ、シャインちゃんたちは知らないのね。今のシロヤマさんはそうだけど、昔のシロヤマさんって凄い怖かったのよ? 殺されるって思うくらいにはね」

 

「え、そうなんですか?」

 

「シロヤマさんも丸くなったから。それでも、未だに苦手意識があるのよね」

 

「なんだか意外です」

 

「それ以外にも理由はあるんだけど。でもシャインちゃんと2人で見る方が楽しいのは間違いないしね」

 

 

6〜8話冒頭に取り上げた金沢の名ウマ娘の元馬わかりましたか?

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