地方は中央の2軍じゃない!   作:小魔神

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第29話

『3~4コーナー中間点、ここで一気にペースアップ。後続のウマ娘たちが前に迫ってきた!』

 

 よし、前のウマ娘がスピードを上げる前にポジションを進められた。捲りを打つ上で一番大事なことは中途半端にならないこと。下手に息を入れるタイミングを作ったらジリ貧になってしまう。だから、

 

「ここで前のウマ娘は潰す!」

 

『ここでアルンドーファイタが進出を開始、しかしそれを一気に叩いてカナメがポジションをあげていく!アルンドーファイタも負けじと応戦する。先頭のラフモデレイションまでは約2バ身』

 

 と、内の娘が応戦してきたね。外に張られると厄介だけど、でも速度の乗った私に対抗するなら内を回さないと厳しいはず。ここは一気に捲り切って直線入口で先頭の娘を捕まえる。

 

 大井の直線は約390m、この距離をしのげば私の勝ちだ!

 

『直線に向かったところでアルンドーファイタとカナメが先頭にピタリと並んでくる。さぁいよいよ勝負は最後の直線へ!』

 

 逃げている娘は内ラチを空けて走っている。コーナーで速度を上げればカーブの際には膨れてしまうので当たり前ではあるけど。問題なのは私の進路取り。本当なら内にもぐってラチ沿いを走りたいところではあるけど、内に併せてきている娘もいるのでちょっと厳しい。だったら、

 

『直線を向いてカナメがラフモデレイションを捉えたか、アルンドーファイタは内に潜り込む。その後ろは3バ身、ポワドーベーカリーは少し踏み遅れたか、代わって上がって来たのはメテオディレクター』

 

 っ、思ったより逃げウマの娘が垂れるのが早い。できればしばらくは併せて欲しかったけど、このまま単騎で抜け出すとどうしてもレースがしにくい。もう少し、逃げた娘を可愛がるべきだったか? だけど、今さらどうすることもできない。脚は使っだけれど先頭は私。だったら後は、死ぬ気で走りきるしかないでしょうが!!!

 

◇  ◾️  ◇  ◾️  ◇

 

 悪い予感は当たっていた。

 

『3~4コーナー中間点、ここで一気にペースアップ。後続のウマ娘たちが前に迫ってきた!』

 

 コーナー中間点付近では慌てる必要はなかった。完全なスローペース、間違いなく勝てる流れだ。ハナをとりきった私はそう確信していた。

 

 ただそれは大きな過信だった。

 

『ここでアルンドーファイタが進出を開始、しかしそれを一気に叩いてカナメがポジションをあげていく!アルンドーファイタも負けじと応戦する。先頭のラフモデレイションまでは約2バ身』

 

 私に並びかけてくるそのウマ娘、ハッキリ言ってスピードが違った。これは完全に私を潰すための捲りだ。

 

 こいつらはバカなのか、どうして後方の連中にチャンスを与えるようなことをするんだ。こんな急激なペースアップで脚が持つわけがない。

 

 でも、抜かせるわけにはいかない。少しでも抜かされれば私が抜き返す可能性は限りなく少ないのは分かっている。だからここは外に張ってでも抜かさせない。

 

 

「勝つのは私だ!」

 

 少しでも自分を鼓舞するために声を出す。

 さぁギアを上げろ、腕を振れ!

 

 横に並んでくるのは一際小柄なウマ娘、つれてもう一人のウマ娘もつ

 さぁくるぞ、脚を使え合わし切れ!

 向こうは確かに速い、でも内をとっている私の方がコーナーでは圧倒的に有利なんだ。

 

『直線に向かったところでアルンドーファイタとカナメが先頭にピタリと並んでくる。さぁいよいよ勝負は最後の直線へ!』

 

 辛うじてリードは保ててはいる。保ててはいるが脚を使い過ぎた。このままだと間違いなく差される。でも諦めるものか、少しでも脚を残すんだ、そのためにはラチ沿いをとって真っ直ぐ走りきるしかない。 

 

 ドンッ!

 

「え!?」

 

 その衝撃が私の体から起きたものだとはすぐには気づかなかった。目の前には遠ざかる二つの背中。近づいてくるのは一際力強い足跡。

 

 その衝撃の正体と自分の置かれた状況に気づいたときには、既に私に勝ちの目は残っていなかった。

 

 

◇  ◾️  ◇  ◾️  ◇

 

 前のウマ娘が動きだした。だったら、彼女はどうだ?

 

『ここでアルンドーファイタが進出を開始、しかしそれを一気に叩いてカナメがポジションをあげていく!アルンドーファイタも負けじと応戦する。先頭のラフモデレイションまでは約2バ身』

 

 やっぱりカナメは動いた。そしてアルンドーちゃんも応戦すると。

 

「絶好の展開だ」

 

 ボソリと声が漏れてしまう。

 あとは精々、2人で脚を使いあってもらおう。あとは直線で捕まえるだけでいい。仕掛け所を見誤らなければ私の勝ちだ!

 

 位置を上げる。

 並ぶものはいない。

 見据えるターゲットはただ一人。

 

 

 あぁ、走るのは楽しい。そして誰かは抜き去るのは格別だ。

 でも、一番嬉しいことは…

 

「あぁ、トレーナーさん。あなたの愛バがG1ウマ娘になったら、一体どんな顔を見せてくれるんだろう?」

 

 想像するだけで体が震える。

 私に全てを教えてくれたトレーナー、その指導が間違っていないことをここで示す!

 

『直線を向いてカナメがラフモデレイションを捉えたか、アルンドーファイタは内に潜り込む。その後ろは3バ身、ポワドーベーカリーは少し踏み遅れたか、代わって上がって来たのはメテオディレクター』

 

 ポワちゃんはタイミングを逃したみたい。

 アルンドーちゃんも接触したのか少しふらついている。

 やっぱりターゲットはカナメ、彼女一人だけだ。

 

 まだまだ脚は残っている。上手く捲りに乗ってスピードを上げられた。だけどまだ、私のギアは残っている。

 

 さぁ、勝利の矢を放つ時がきた。

 

 

◇  ◾️  ◇  ◾️  ◇

 

『直線早々、カナメがラフモデレイションを捉えて単騎先頭。二番手はアルンドーファイタが内に潜り込んで伸びてくるか? ラフモデレイションは苦しくなった。おっと、ここでラフモデレイションとアルンドーファイタが接触。ラフモデレイションは完全に後退』

 

 背筋がぞくぞくするこの感覚。

 間違いない、誰かが私を狙っている。

 感覚で分かるこの相手に並ばれれば間違いなく飲み込まれる。

 

 かつて夢見たG1の舞台。

 レベルの高さを見せつけられた昨冬、あの時は回ってきただけの8着。でも今は違う、私は堂々とこのレースを走っている。

 

 脚は重い、肺は痛い、心臓は今にも飛び出しそうだ。

 だけど走ることは決して止めない。

 体を心を魂を燃やして走り切る!!!

 

 あぁ、そうしてあのゴール板を1着で駆け抜けた時、どんな景色が見えるんだろう…?

 

『直線残り100mの地点でメテオディレクターがすごい脚で前に迫る。先頭のカナメのリードは1バ身、飲み込むかメテオディレクター』

 

 残り100m、秒数にして5秒足らず。この僅かな時間、リードを守れば憧れのG1ウマ娘だ、だけど今の私にはその時間が果てしなく長く感じる。

 

 

『メテオディレクターがここでカナメに並びかけ…いや並ばない並ぶ間もなく交わし去る』

 

 私の横を一人のウマ娘が抜き去る。

 若葉ステークスと同じ、冷たい衝撃が私に伝わる。

 

 後数秒、どうして後数秒が粘れないんだ。

 

「待って…」

 

 思わずそのウマ娘に手を伸ばす。

 だけどその手は届かなくて…。

 

『体勢決した。メテオディレクター、圧巻の差し切り勝ちで今ゴールイン! 2着は直線粘ったカナメ。3着はアルンドーファイタがそれぞれ入選』

 

 

 

6〜8話冒頭に取り上げた金沢の名ウマ娘の元馬わかりましたか?

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