「芝・・・ですか?」
ダッシュとウォーキングを交互に繰り返すインターバルトレーニングを行っていると、唐突にトレーナーさんに呼び止められた。
ちなみに、この練習はトレーナーさんの指示でやっているんだけど、めちゃくちゃキツイ!! なんでも、心肺機能を鍛えるためみたいなんだけどね。
「そうだ。カナメ、次のレースでは芝を走ってもらう。お前はテンも遅いし、コーナーリングも下手、おまけにパワーもないからな」
確かに、トレーナーさんの言う事も分かる。
私はここまで8戦して、5勝2着2回それと着外が1回。前回のレースを除いて、基本的に負けたレースは逃げた子を捕まえ切れなかったからだ。
けど、流石にトレーナーさんの言い方は、
「ちょっと、言い過ぎじゃないですか?」
「まぁ、落ち着け。要はお前は今まで自分の適正からかけ離れたステージで戦っていたっていうことさ。地方のダートじゃ、お前の良さはでない、それこそ雨が降って、バ場が軽くなってもだ」
トレーナーさんは私を宥めるように、両手をかざす。
まぁ、どっちにしてももう少し言葉を選んでもらいたかったけど。けど、地方の深い砂は向いていないというのは、今までの私にはなかった考えだ。だって私の走るコースは基本的にそういうところしかなかったからね。
「じゃあ、盛岡に遠征でもするんですか?」
金沢もそうだけど、基本的に地方には芝のコースはないんだ。けど、唯一の例外が盛岡。私は、そもそも盛岡に行ったこともないんだけどね。
「違う。お前が走るのは、1月の京都。そこの1勝クラスの特別戦に出走してもらう。距離は1600Mの内回りだ。この時期のレースには余り人数も集まらないからな、気軽に走ってこい」
き、京都! 金沢から距離も近く、昔私もレースを見に行ったことがある。そんな舞台で走るんだ。
でも、思ったよりも数倍早いタイミングだなぁ。
「いきなり、中央挑戦ですか・・・。流石に緊張するなぁ。私が通用するかな?」
「カナメ、甘い考えは捨てておけよ。いいか、今のお前じゃ99.9%勝てない」
99.9%・・・。それってつまり、勝てないっていうことだよね。それじゃあ、何のために私は走りに行くんだろう。もう少し、トレーニングをしてからでもいいと思うけど。
「カナメ、お前の今回の出走の目的は芝の適正を試すのと同時に、中央の雰囲気に慣れてもらいたいからだ。まぁ、お前一人だと心細いだろうから頼りになる助っ人を連れてきたぞ。おーい、来てくれ!」
「ハイハーイ。来ましたよ! カナメちゃん、一緒に頑張ろうね」
やって来たのは、シャインスワンプちゃん。さっき言った、私の2敗は逃げたシャインちゃんを捕まえ切れなかったからなんだ。
「シャインちゃんも、一緒に走るの?」
「そだよー! カナメちゃん一人じゃ寂しいでしょ? それに私も中央で走ってみたいもん」
にこりと笑顔を浮かべてシャインちゃんは言う。シャインちゃんの笑顔はずるいよね、可愛い過ぎるもん。ちなみに私の中でシャインちゃんは、金沢で一番可愛いウマ娘だ。
「まぁ、そういうことだ。基本的に京都の内回りっていうのは逃げが圧倒的に有利だ。けど、この時期のクラシッククラスのレースっていうのは基本的にスローになりがちだ。そこで、シャインには逃げを打ってもらおうと思ってな。スローになればシャインに有利だし、流れればカナメに流れが向くだろうからな」
トレーナーさんはキメ顔でそう言った。いつも思うけど、トレーナーさんのキメ顔って全然決まってないんだよね。
けど、そんなことよりもトレーナーさんの発言には引っ掛かるものがあった。
「トレーナーさん、それってズルくないですか? なんだか、2人がかりでレースをするなんて・・・」
「なーに言ってるの、カナメちゃん? 別に協力している訳じゃないでしょ? カナメちゃんはカナメちゃんの、私は私のベストを尽くすだけ」
「あぁ、シャインの言う通りだ。カナメが負い目を感じる必要なんてない。シャインが逃げるなんて、新聞を読めば誰でも分かることだからな。あと言っておくが、こんなこと程度でレースに勝てる程甘くはないからな? 地方と中央の格差っていうのはそれほどのものなんだ」
この日は、トレーナーさんの最後の一言が胸に残ったままだった。
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「また、えらく早いタイミングで挑戦させるんだな?」
「なんだサウス、もう情報を聞きつけたのか? まぁ、あいつがここで折れるようなら所詮、中央に挑戦するなんて無理だってことだ。けど、あいつはそうはならないだろうな」
「あぁ、私もそう思う。あいつは強いよ、結果は知らんが何かしらは学んでくるだろう」
「あいつのこと気に入っているんだな」
「あぁ、個人的に期待させてもらっているよ。けど、どっちかというともう一人の方が気になるかな・・・」
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「私が逃げる・・・かぁ。別に金沢だと逃げが有利だから逃げてただけで、そんなに拘りはないんだけどなぁ。それに、私がカナメちゃんの添え物になっているのも気に食わないし・・・。ねぇ、どう思うグリンさん?」
「うーんそうね、シャインちゃんのしたいようにすればいいと思うわ。結局それが一番後悔しないもの」
「そっかぁ、うんそうする。なんて言ったって尊敬する先輩のお言葉だもん」
「あらあら、でも頑張ってね。私も中央では2戦して入着もできなかったから、シャインちゃんには私の分も頑張ってもらわないとね」
「でも、グリンさんはJBCクラシックでも4着になっているし、私にとっては偉大な先輩だよ」
「うふふ、ありがとう」