「よーし、メテオよくやった! 流石の末脚だ、俺の目に狂いはなかったな」
「はい! あれもこれもトレーナーさんのおかげです。トレーナーさんは嬉しいですか?」
「当たり前だ。教え子の活躍を喜ばないトレーナーがいるわけがないだろう?」
「そうですよね。私も頑張りました」
「あぁ知ってるよ。メテオの努力が俺が一番知っている。というわけでじゃじゃーん!」
「…これは?」
「せっかくこんな大レースを勝ったんだ! 何かご褒美がないわけにはいかないだろ」
「あ、ありがとうございます。って、またこれですか?」
「…なんだ、あまり気に入らなかったか?」
「いえ、最高です!!!」
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「ッ、また勝てなかった…」
確かな手応えがあった。
今日こそは勝てたと思ったのに、あと数秒しのぎきれなかった。周りから見れば一瞬の出来事だっただろうが、私には永遠とも思える瞬間だった。
「あぁ、そうだな」
トレーナーさんはいつもと変わらない様子で私の言葉に答える。ただ、一緒に来ていたはずのシャインちゃんたちの姿は見えない。でも、その方がいい。負けた姿を見られることほど惨めなことはないんだから。お陰で言いたいことも言える。
「トレーナーさん、私には一体何が足りないんですか? 今日のレースも全力でやりきりました」
「確かにな。お前が持ってる力は全て出しきれていた」
「じゃあ、これが私の限界なんですか?」
「そうだ。それは間違ってはいない」
これが私の限界‥。確かにそう言われても、否定する材料は何もない。ただ、もしそれが事実なら示す事実はただ一つ。
「だったら私は一生大レースに勝てないってことですか? レースの前にも言いましたけど、私は負けると分かってるレースはしたくありません」
「まぁまてまて。誰も勝てないなんて言ってはいないだろ?」
私を宥めるようにトレーナーさんは言う。
なぜか、少し笑みを浮かべているのも腹立たしい。
「でも、この走りが私の限界なんですよね」
「今のところはな。大体、お前は勘違いしている」
「一体、何をですか?」
「そもそもレースなんて、個人の能力差だけで決まるもんじゃあない。その時の状況次第でいくらでもひっくり返るもんだ」
「でもそれって結局、自分の力だけじゃ勝ちきることはできないってことですよね」
人のミスを待つことでしか勝利を得られないなら、勝てないのと同じじゃないかと私は思う。
「そう卑屈になるなよ。だったら良いことを教えてやる」
「良いことですか?」
「あぁ。今日のレース、お前があと4秒仕掛けを待てればお前の勝ちだった」
「‥何を言ってるんです急に」
あと、4秒? その意味が咀嚼できずにいた。それに何より、勝てたレースを落としたという事実が受け入れ難い。さっきまで全力を出して勝てないことが悔しかったのに、勝てたレースを落としていたとなると素直に受け取れないのは、自分でもどうかとは思うけど。
「冗談だと思うか、まぁいい。ところでお前は今日のレース、何を考えて走っていた?」
「え、内ラチをとったあとはいつ仕掛けるかとか、あとはそう、捲りを打つ仕掛け所を探っていました」
「それは勝つための仕掛けか?」
「あ、当たり前じゃないですか」
勝つために走って、勝つために捲りをうっているんだから当然だ。
「違うな、今日のお前の仕掛けは前を潰すための仕掛けだった。あぁ、勘違いするなよ、良いとか悪いとかそういう話じゃないんだ」
「何が言いたいんですか?」
「今まで俺は、お前に全力を出させることに注力していた。そういう意味では今日のレースは素晴らしいものだった。お前は全力を出しきって、僅差の二着だ。だけどここから先はそれだけじゃあダメだ」
「じゃあ何が必要なんですか」
中々、結論を言ってくれないトレーナーさんに少し苛つきを覚えつつ発言を促す。もっともトレーナーさんも察したのか、宥めるような仕草をしつつ発言を続ける。
「おいおい怒るなよ。このレース、俺もシロヤマもサウスもレースが始まる前から、お前が捲られた後に直線で差される展開を予想していた」
「え?」
「そして結果そうなったわけだ。俺たちはこのレースで一番の強敵はメテオディレクターだと確信していた」
だったらどうしてレース前に言ってくれなかったのか、なんて疑問は当然でてくるけど、その答えはなんとなく想像がつく。さっきも言っていた全力を出させるというのがそうだろう。
けど、それを知ってでも私にも言い分はある。
「でも、その結果になったのは結果論に過ぎないじゃないですか? ドスローの展開で前が残ることも十分考えられたはずです」
「それはお前の言う通りだ。だが、結果的には逃げウマ娘が早めに垂れてしまったせいでお前が単騎で抜け出す形になってしまった」
「つまり私の早仕掛けだと」
「簡単に言うとな。だからさっきも言ったろ、もう4秒仕掛けを待てばお前の勝ちだったと」
「あぁ、それって本気だったんですね」
確かに単騎で抜け出すのが早かったのは、レース中の私も感じていたことだ。もう少し追い比べの形になれば直線も粘れただろうし、何より、勝った娘の仕掛けのタイミングも変わっていたはず。
「今日の仕掛け所も悪い訳じゃなかった。ただお前はどうしても前しか見えていない。逃げてるウマ娘が強ければお前の捲りのタイミングは完ぺきだ。だが実際のレースは必ずしも前を潰せば良いってものでもないからな」
「だけど前を潰さないと勝つことはできません」
「それはその通り。だが、潰して後ろから差されれば意味がない。前のウマ娘を可愛がってやる必要もあるってことだ」
「難しいですね」
元々わたしの捲りはエルちゃんを、言ってしまえは前を走る娘をズブズブの消耗戦に持ち込むために考えたものだ。だから、後ろから差される可能性はハナから考えてはいなかった。ただ若葉Sの時もそうだけど、この戦法はどうしても後ろの瞬発力のある娘相手には厳しくなる。
「そうでもないさ、要は力の割り振りだ。今のお前は中段から常に全力でスパートしている状況だ。正直大したものだとは思うが、結果として末が甘くなっている」
「つまりどこかで息を入れる必要があるということですか」
「それも手ではあるな。だが、そろそろ新しい戦法に取り組むのも悪くない」
「新しい戦法‥。捲りを止めるってことですか」
冗談で前に行くとは言ってみたことはあるものの、今更捲りを止めるのは少し思うところがある。実際に私の成績は、このロングスパートを始めてから良くなったのは間違いない。
「あぁそうだ。考えてもみろ、歴代の名ウマ娘と呼ばれる連中で捲り一本で活躍したやつなんてほとんどいないだろう? それだけ捲りっていうのは不合理な走法なんだ。だがそれはしょうがない。お前には一流の瞬発力もなければ出足もないからな」
言われてみればそうだ。そもそもレースは前の位置で運べる方が有利、それくらいは分かっている。先行が王道のレースと言われるのはそれが理由だ。
「今更、そこには文句は言いませんよ。それで新しい戦法っていうのは?」
とはいえ、私の持っている武器で今更新しい戦法なんてあるかな?
共同通信杯でやったような直線一気のレースなら辛うじて可能性はあるかもしれない、いやそれだと瞬発力勝負になった時に明らかに分が悪い。馬場がかなり重くなれば可能性はあるだろうけど。
だから、この後のトレーナーさんの発言には心底驚かされた。
「そんな大したことじゃない。お前、次のレース先行してみろ」
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6〜8話冒頭に取り上げた金沢の名ウマ娘の元馬わかりましたか?
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