地方は中央の2軍じゃない!   作:小魔神

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第31話

「というわけで、特別ゲストの登場だ」

 

 ジャパンダートダービー後、初めての練習で開口1番トレーナーさんは言い放つ。

 

「特別ゲストですか‥?」

 

「あぁそうだ。お前、この前のレース後に俺が言ったことを覚えているか?」

 

「例の脚質転換の話ですか? 正直に言って抵抗はありますけど」

 

 捲りをやめて先行してみろって言うのがトレーナーさんの意見だけど、はっきり言って先行が向いていないことが私が1番分かっている。

 個人的にはあまり乗り気じゃないんだけど。

 

 けど、トレーナーさんは私の様子に構わず話を続ける。

 

「まぁ、物は試しだ。それに俺も向いていない戦法を押し付ける気もない。とりあえずお前の次走は今月末のMRO金賞だ。ここを勝てば菊花賞トライアルへの優先出走権が手に入れられる」

 

「でもそれだと、MRO金賞から次のレースまで2ヶ月近く間隔が空いてしまいます。できればレース間隔はあまり空けたくありませんね」

 

「個人的には一度、間隔を開けるのも悪くはないと考えているんだけどな。まぁ、お前が走りたいというなら止めはしないが。ただ、走れるレースがないんだよなぁ。金沢の一般戦を走っても仕方ないだろうし」

 

「できれば強い相手と走りたいですね。しばらくダートが続いたので早い流れも経験しておきたいです」

 

 ダートと芝では道中のペースがまるで違う。追走に苦労しないためにも一度速い流れを経験しておきたいところだ。ただ、トレーナーさんの言う通り身体を休めることも大事なのかもしれない。まぁ、そこら辺はトレーナーさんに任せよう。きっと私以上に私の身体については詳しいだろうし。

 

「分かった。それはこっちで考えておく。とりあえず今はMRO金賞だ。が、正直に言ってここは通過点、負けてもらっては困るレースだ。それにお前が出走するとなれば間違いなくメンバーは集まらない」

 

「心配いりません。はっきり言って負けるとは思いません」

 

 ここでは、私と他のウマ娘ではレベルが違う。レースには絶対はないとは言うけど、ここで私が負けるとは想像できない。

 

「頼もしい限りだな。ところでそろそろゲストのやつを呼んでもいいか? 向こうも律儀に待ってくれていることだした」

 

「あ、そうですね」

 

 ゲストって一体誰なんだろ? まぁなんとなく、サウスヴィレッジさんなんじゃないかなぁって気はしてるんだけど。

 

「おーい来てくれ」

 

「はーい。どうもグリンフォレストです。って、どんだけ待たすんですか?」

 

 予想に反して、現れたのはグリンフォレストさん。サウスヴィレッジさんと鎬を削る、押しも押されぬ金沢のトップウマ娘の1人だ。ただ、私はほとんど面識がないので、少し気まずい感じにはなるけれど。ちなみにシャインちゃんはグリンフォレストさんとすごく仲がいいらしい。

 

「すまなかった。こいつがしつこくてな。改めて今回のゲストのグリンフォレストだ」

 

「わ、私のせいですか?」

 

 グリンフォレストさんとは、ほとんど面識がないんだから、あまり変なことを言わないでほしいんだけど。

 

 

「別にいいんですけどね。それより久しぶりに話しかけてきたと思ったら一体なんなんですか?」

 

「悪いな。こいつにちょっと先行のコツを教えてやってほしくてな」

 

「コツですか? 私に教えられることなら構いませんが」

 

「いやいやちょっと、トレーナーさん。なんでグリンフォレストさんがここに居るんですか!」

 

 なんか当たり前に受け入れてしまっていたけど、グリンさんがここにいるのはおかしいよね?

 

「だって、シロヤマのやつは差しタイプだし適任とは言えないだろう? サウスのやつも前目でレースはするが、あいつはスピードの差で前に立ってるだけだ。金沢のトップウマ娘で適正があるのはグリンだと思ってな」

 

「いや、そういうことじゃなくて」

 

 どうも、トレーナーさんの返事は的を外している。いやまぁ、シロヤマさんやサウスヴィレッジさんか来ても緊張しちゃうんだけど。

 

「でも、どんなことを知りたいんですか? 今のカナメちゃんは、正直に言って私でも勝てるか分からないですし」

 

「簡単に言えば序盤の位置取りだな。今のこいつは出たなりにしか位置が取れていないが、今後はある程度前目でレースをさせたい」

 

「そうですねー。金沢のレースでしたら内がポッカリ空くのでどうにでもなるんですけど、そういうことじゃないですよね?」

 

「あぁ。ある程度汎用性のあるところで頼む」

 

 いつも思うけど、トレーナーさん顔が広いよね。金沢のトップウマ娘の知り合いも多いみたいだし。でも、本人曰く成績はそこまでいいわけじゃないみたいだけど。

 

「ですよね。じゃあカナメちゃんに一つ質問」

 

「な、なんですか?」

 

 予期していないところで話しかけられたので、少し虚をつかれてしまった。グリンさんに気づかれてなければいいけど。

 

「なに、緊張してるんだお前。私はG1で2着ですけど、あなたはどうなんですか? くらいの意気込みでいけ」

 

 トレーナーさん、うるさい。

 そんなのできるわけないのに。大体そんなこと言ったら、グリンフォレストさんだってJBCクラシック4着の実績があるわけで。

 

「あそこのおバカさんは放っておいて、カナメちゃんは内枠と外枠だとどっちの方がレースがしやすい?」

 

「外枠ですかね、前に被されることがないので。あと道中でも動きやすいですし」

 

 内枠だと、場合によっては動けないこともあるし。特に私は後ろからレースをするから、詰まる危険性もある。

 

「それだけ? カナメちゃんはキックバックは平気なんだ」

 

「はい、別に気になりません」

 

 そこに関しては私は全く気にならない。同期の娘の中にはすごい嫌がる娘もいるんだけどね。そういえば、シャインちゃんも痛いって言っいてたかな?

 

「だったら、ある程度前でレースができると思うわ。いいカナメちゃん、先行ウマ娘にとって大事なのは内枠を引いた時なの。特にカナメちゃんみたいにスタートが苦手な娘はね」

 

「本当ですか? 一体、どうすればいいんでしょうか」

 

 正直に言って、今の段階では先行できるビジョンが見えてこない。

 

「そうねぇ。基本的にポジション争いは最初の1コーナーで決まるの。逆に言えばそこまではある程度真っ直ぐに引かずに走れていれば外側の娘も内を閉めには来にくいはずよ。安全に進路を取るなら2バ身のリードは欲しいところだし」

 

「なるほど」

 

「だからカナメちゃんはスタート直後から押して上がっていかないといけないの。逆に言えば2バ身離されなければ前を取られないわけだから」

 

「つまりいつもは温存している脚を始めから使っていくわけですね」

 

「そう。カナメちゃんくらい脚がある娘は勘違いしがちだけど、普通は位置を取るためにある程度みんな脚を使っているの。中にはスピードが勝ちすぎて、楽に先行できちゃう娘もいるけど」

 

「ただそれだと、最後に脚が残らなくなっちゃうかもしれませんね」

 

 バ群に揉まれて走るというのも、余計に体力を使ってしまいそうだ。ただ、そこら辺は慣れの問題もあるんだろうけどね。

 

「そこは、内を回れるっていうことと、前のウマ娘が風よけになるっていう先行のメリットとのトレードオフね。ただ個人的には先行の方がメリットは大きいと思うわ。それに先行しててもカナメちゃんの得意な捲りは打つことができるわけだし」

 

「確かにそうですね。皐月賞の時みたいに捲り切れないリスクを考えると前につけた方がいいかもしれません。強い相手がいれば早めに動いて消耗戦に持っていくこともできそうですし。でも実際にはどうすればいいんでしょうか」

 

 なんとなくのイメージは湧くんだけど、実戦に移ったときにできる自信は‥。けど、グリンさんはそんなことを分かっていたとばかりに。

 

「ふふ、大丈夫ちゃんと教えてあげる。まずスタートになったらガッといって、少しでも前を目指すら後はこうバッと張り出す感じで次はーーー」

 

 ん? まぁやってみればわかるかな?

 それにいつの間にか、先行を試してみたい気持ちもでてきたし。

 

「‥そういえばこいつ、講師には向いていないタイプだったな」

 

⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎

 

「こうですか、グリンさん」

 

「そうよカナメちゃん、いい感じ! じゃあ、もう一本行きましょう。次はもっと踏み込みをバンって感じで」

 

「これでどうですか?」

 

「カナメちゃんすごいすごい。私も色んな娘にアドバイスしてきたけどカナメちゃんはその中でも飲込が1番早いかも」

 

 グリンさんの教え方っですごい。イメージでしか分からなかったものが身につくって感じ。

 

「‥まぁ、アイツにはあのくらいの教え方の方がちょうどいいのかもしれないな」

 

6〜8話冒頭に取り上げた金沢の名ウマ娘の元馬わかりましたか?

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