『今年のMRO大賞の勝者はやっぱりこの娘、断然人気のカナメがぶっちぎりでゴール!!!』
「ふう、とりあえず前哨戦は勝ちましたねトレーナーさん」
結果は完勝。正直この相手関係なら、何度レースを繰り返しても負けることはないはずだ。
「あぁ、中々上手く先行もできてたじゃないか」
「スタートは若干、出負けしましたけど上手く挽回できました。グリンさんのおかげですね」
今回のテーマの先行だけど、グリンさんのアドバイスのおかげか道中は好位の3番手でレースを進めることができた。実際のレースでやってみて思ったことは、先行の方がレースをしていく上で非常に楽だということ。捲りの時とは違って、レースに対して余裕を持って臨めるし。
さて、ステップレースを快勝したところで問題は次走だ。
「ところで、次走はどうしますか?」
「そうだな、お前はレースを挟みたいと言っていたが、俺としては直行でトライアルに向かいたい」
以前、話した時もそうだったけどトレーナーさんはどうもレースを挟むことに消極的だ。
「理由を聞いても?」
「簡単に言えば適レースがないからだ。今のお前が出走できて間隔的にちょうどいいのは小倉日経OPあたりなんだが、このレースは小回り1,800mのシニア混合戦。はっきり言って、今のお前には走らせたくはない」
小倉レース場の特徴といえば中央の全レース場で1番直線が短くて、平坦なこと。だから、先行争いが激化するしハイペースになりやすいとトレーナーさんが言っていた。そしてクラシック路線のレースは基本的にスローになる傾向がある。特に本番の菊花賞は3,000mという距離の問題もあってその傾向が顕著だ。
「なるほど。分かりました、トレーナーさんに従います」
「どうした、えらく素直だな」
「私も正直なところ、走った方がいいのかそうじゃないのかが分からなくて。だったら、経験のあるトレーナーさんの言うことに従いたいと思います」
要はトレーナーさんは、私のペース感覚が狂うことを心配しているんだろう。私としても、下手に早いペースを経験すると本番に引きずってしまうのは否定できない。だったらトレーナーさんのいうことに従っておくべきだろう。
もっとも、トレーナーさんはなぜか不服そうではあるけれど。
「‥まぁいいか。なら話は早いな、次走は菊花賞トライアルの神戸新聞杯もしくはセントライト記念に出てもらう。俺としては出走するならセントライト記念の方を推したい」
「どうしてですか?」
「まずは中山で好走した実績があることだな。神戸新聞杯自体は阪神レース場で行われるが本番の菊花賞は京都だ。だから、敢えて阪神で走る必要はない。それと、これが大きな理由なんだが、セントライト記念の方がメンバーレベルが低い」
「何というか後ろ向きな理由ですね」
「そうは言うが、今回のレースで大事なことは3着以内に入って優先出走権をとることだ。地方所属のお前はそうしないと菊花賞に出走すらできないからな。なら、当然その確率が高い方を狙っていくのが道理だろう? 力比べは本番の京都でやればいい」
「それは確かにその通りですね」
私としてもそこに関しては異論はない。ただ、このトライアルレースである程度の目処をつけられる走りをしておかないと本番で好走できるわけがないのも事実だ。だから、菊花賞で歯牙にも掛からないウマ娘と走っても意味がないと思う気持ちを少しはあるのは否定できない。
「それと、ある程度ここで先行の形も試しておきたい。神戸新聞杯はそのコース形態上、ドスローからの瞬発力勝負になりがちだ。そこもセントライト記念を推す理由でもある」
「だったらセントライト記念に出走しましょう。敢えて神戸新聞杯に出走する必要もないでしょうし」
ドスローのレースで先行の練習をしても意味はないだろう。それに瞬発力勝負も本番に結びつくとは思わないし。なら、相手関係を考えてもセントライト記念の方が実のあるレースになりそうだ。トレーナーさんはきっとこの辺りも考慮にいれていたんだろうし。
ただ、トレーナーさんは急に真剣な声色になって私に言葉をかける。
「一応、聞いておくが白山大賞典に出走はしなくていいんだな? 白山大賞典からジャパンカップのローテーションもできなくはないが」
「‥そうですね、迷いましたけど。白山大賞典は確かに金沢で1番の大レースですし、ある意味菊花賞より憧れの舞台ではありました。でも、白山大賞典は来年も走れますから。ただ、ファンの方には申し訳ないですけどね」
いつか、白山大賞典を勝つようなウマ娘になりたい。そう言って、トレーナーさんと契約を結んだのがはるか昔に感じる。実際は2年も経っていないのに。それだけ中身の濃い時間だった。
小さい頃の私にとって大レースと言えば、日本ダービーでも有馬記念でもなく白山大賞典だった。だから私にとって1番勝ちたいレースは何かと言われれば、白山大賞典が上位に入ることに間違いはない。
そして何より、交流重賞となってからの白山大賞典では金沢のウマ娘が勝利したことはないのも大きい。だから、私が初めて金沢のウマ娘として勝利したいという気持ちも嘘じゃない。そして少なくないファンの人たちがそれを期待しているのも知っている。
けれど今の私は同じくらい中央のクラシックレースを走りたい気持ちもある。金沢所属の私が地元の大レースを捨てて、そっちを取るのは見方によっては裏切りのようなものなのかもしれないけれど。
「そうか分かった。まぁ、そっちの方は頼もしい先輩方に頑張ってもらえばいいさ。とにかく約1ヶ月半、次走に向けて準備をしていくぞ」
私の葛藤を知ってか知らずか、トレーナーさんは笑いながら軽口を叩く。だったら私もそれに明るく答えるべきだろう。
「はい。まずは何からしましょうか?」
「そうだな。とりあえず、どこか遊びにでも行ってこい」
6〜8話冒頭に取り上げた金沢の名ウマ娘の元馬わかりましたか?
-
1人
-
2人
-
3人
-
全員分かった
-
1人も知らんわ