地方は中央の2軍じゃない!   作:小魔神

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第37話

 彼女は天才だった。

 

 どれだけ離していてもゴールする頃には必ず抜かされていた。

 踏み込みの力強さ、追い縋ることもできないスピード。

 デビュー前から数えて何度戦っただろうか。ついに私は彼女に先着することができないままに現役を退いた。人によっては早すぎるという人もいたかもしれない。でも、私は十分に満たされていた。どうあがいても彼女に勝てないのは分かっていたし、それに彼女を真剣に応援したくなったのだ。そう私は、その小柄な身体をいっぱいに使った走りに、すっかり魅了されていたのだ。

 

 そんな彼女が遂に日本を代表する大レースで走ることになった。しっかりと魅了されていた私も当然テレビの前で観戦することにした。小さなころ一緒に走った彼女が、こんな大舞台に出走していることが誇らしくもあった。

 テレビに映る彼女はいつもと変わらない様子に見えた。

 そしてレース本番。

 テレビに映る彼女は私の知っている天才ではなかった。そう、そこにいたのはバ群に沈みながらも必死で食らいつき少しでも上の順位を目指すただのウマ娘だった。

 

 そう彼女は天才"だった''のだ。

 

          ------あるウマ娘の独白------

 

◇  ◾️  ◇  ◾️  ◇

 

『先頭はまだグランドサクセス、その後ろにリオコウウがピタリとマーク。その後ろにフソウタイカとカナメがピタリと併走。ワールドカップは苦しいか。そして、1番人気のロイヤルキングに未だ動きはありません」

 

 この時点で私フソウタイカには勝ちの目が見えていた。

 うちの地方の娘との併走が続いているが、道悪を考慮しても今回は明らかにスローペース。これならペースアップの時に外を回っている私の方が優位。

 それに前を走るリオコウウはこのメンバーでは格落ち。おそらく垂れるはず。そうなればあの娘に進路はない。私に喧嘩を売ったことを後悔させてやる。

 

『4コーナーを迎えてグランドサクセスのリードは1バ身』

 

 よし、ここだ今日のバ場なら後ろからの追い込みは効かない。早め先頭で押し切る!

 そう思って進路を外に切り替えようとしたとき、私の視界には1人のウマ娘の背中が見えていた。

 

『ここでリオコウウが仕掛ける。直線入口を迎えるところでグランドサクセスに並んだ。グランドサクセス抵抗できるか』

 

 リオコウウの仕掛けが早い。

 でも、彼女と私なら私の方が力は上。グランドサクセスともがきあって体力を使うなら、なおさら私が負けることはない。

 ここは様子見だ。

 

 けれどこれは間違いだった。リオコウウが仕掛けた時点で様子見を決めたなら、私は内で我慢するべきだったんだ。

 進路を外にとったところで、彼女にスペースが生まれてしまった。

 

『グランドサクセスここで後退。リオコウウが代わって先頭。おっと、狭い進路をこじ開けてカナメが内を割ってきた』

 

 まさか、あの狭い内を突くなんて。完全にしてやられた。それでも内の馬場は荒れている。私が外から抜けないはずがない。

 

 大丈夫、勝てる! なんて言っても私はダービー3着。このメンバーで負けるはずがない!

 

 

◇  ◾️  ◇  ◾️  ◇

 

 勝った!

 このレース、ここまで私リオコウウにとっては最高の流れだ。ハナを取られたときは少しヒヤっともしたけど結果的には大正解。

 グランドサクセスは最高のペースで走ってくれた。後ろにつけていた私にとっては風よけにもなってくれたし、まさに様々だ。

 

 脚は溜まっているし仕掛けようか。どうせこの馬場だ、瞬発力もかなり削がれるはず。それなら直線入口で先頭に立って押し切ってしまえる。

 

『ここでリオコウウが仕掛ける。直線入口を迎えるところでグランドサクセスに並んだ。グランドサクセス抵抗できるか』

 

 抵抗できないでしょう。私と彼女じゃ使った脚が違う。ただすぐには交わさない。あくまで先頭に立つのは直線に入ってからだ。

 このレース最大の敵はフソウタイカ。早目に抜け出せば彼女の目標にされてしまう。それにフソウタイカが動けば、後ろのロイヤルキング辺りも動きだす。彼女の末脚も怖い。

 

 まだだ、まだ抜かない。

 

 今だ!

 

 一気にギアを上げる。

 中山の直線は310m。

 後はこの距離を走り切るだけ。

 でも、私は知っている。このまま楽には勝てないことを。

 

 誰が来る?

 フソウタイカか? ロイヤルキングか?

 

 この馬場だ、警戒するのは外!

 そう思っていた時、内からバ体を併せるウマ娘がいた。

 

 グランドサクセス、まだ脚が残っていたのか。

 いや、違う。

 それにフソウタイカでもロイヤルキングでもない。

 併走している相手はそれより一回り小柄だ。

 

『おっと、狭い進路をこじ開けてカナメが内を割ってきた』

 

 まさかまさかの地方の娘だ。

 いや、むしろ大穴ウマ娘の相手にはピッタリだ。

 さぁ最後の直線、もう後ろの子たちは関係ない。この地方の娘にかつだけだ。

 

◇  ◾️  ◇  ◾️  ◇

 

 今日の私はついていた。

 2番手の娘が外から仕掛けてくれたこと。

 逃げている娘が2番手の娘に身体を併せて抵抗してくれたこと。

 3番の娘が仕掛けどころを見失って私へのマークを緩めたこと。

 この全部が私の追い風になった。

 

 逃げている娘とラチの間のスペースは、とても広いとは言えないけれど、抜け出すには十分だ。

 

 内から身体をねじ込み併せる。

 

「ッ、、」

 

 接触を気にしたのか、前を走っていた娘が外にふくれた。

 今しかない!

 さぁ、私の肝心要の末脚を見せてあげる!

 

『おっと、狭い進路をこじ開けてカナメが内を割ってきた』

 

 完璧だ。もしかしたら、デビュー以来1番のレースかもしれない。

 だったらここで勝たないわけには行かないでしょ。

 

 この馬場だ、きっと後ろの娘たちは外を回すはず。

 でも、それじゃ間に合わない。

 私のJDDの上がり3Fは37.0。最後の1Fは12.2。

 この馬場でも、大井の砂よりは軽い!

 

 なら私の敵は並んでいるこの娘。3番の子はもう盛り返せないはず。

 

『直線迎えて、カナメとリオコウウが身体を併せての追い比べ。その2バ身後ろにグランドサクセスとフソウタイカ。その他は離れた。中山の直線は短いぞ、後ろの娘たちは間に合うのか』

 

 抜ける、抜かす! 

 馬場を考えれば少しでも外を走っている彼女の方が有利。

 それでも末脚比べなら負けるわけにはいかない。

 

「さっさと潰れろ! 勝つのは私だ!」

 

「ふざけるな、お前が潰れろ!」

 

『カナメとリオコウウの追い比べがまだまだ続く! 3番手はフソウタイカで固そうだ』

 

 長い長い追い比べが続く。

 中山名物の急坂、相変わらず壁みたい、本当にこのコースの設計をした人は性格が悪い。

 この坂を見ると若葉ステークスの時の2着を思い出す。あの時の悔しさを思い出せ。

 

 もうちょっとだけ頑張れ私! 

 絶対、隣の娘に負けない、踏ん張れ! 

 

『坂を駆け上がったところで、カナメが先頭に立つ。リオコウウはわずかに遅れをとった』

 

 行ける!

 まだ、脚は残っている。あの時感じた冷たい衝撃も今日はない。

 だったら、私が負けるわけがない!!!

 

『カナメが先頭。リオコウウが2番手。カナメが突き放してゴールイン! 鬼気迫るレースぶりを見せたカナメが5度目の挑戦にして遂に中央初勝利! 地方ウマ娘初のクラシック勝利に向けて、金沢の雄カナメが菊花賞に向かいます!!!』

 

 勝った‥

 勝ったんだ‥

 ハハ、やればできるじゃないか私。

 

 そしてそんな勝利の余韻を味わう間も無く、私の耳は大きな音を捉えていた。 

 

『そしてお聞きください、この声援! 偉大な挑戦をするウマ娘を後押しするかのように多くのファンが祝福の声をあげています』

 

 私の耳に入ってきたのはカナメコール。多くのファンの人たちが私に声援を送ってくれていた。

 そして、その中には涙を流して声を出すあの女の人もいた。

 

「なんだ、しっかりファンだったんだ。だったら悪いことしちゃったな」

 

 思わず笑みが溢れる。

 

 そして噛み締める。

 菊花賞トライアル、セントライト記念を買ったのは金沢所属のウマ娘カナメだと。

 

 セントライト記念 確定

 1着 カナメ

 2着 リオコウウ

 3着 フソウタイカ

 

 1着のカナメ、2着のリオコウウ及び3着のフソウタイカには、G1菊花賞の優先出走権が与えられます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

6〜8話冒頭に取り上げた金沢の名ウマ娘の元馬わかりましたか?

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