地方は中央の2軍じゃない!   作:小魔神

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第40話

「やって来ました、トレセン学園!」

 

 東京都府中市、東京レース場に程近い場所にトレセン学園はある。すごい場所だとはグリンさんやサウスヴィレッジさんから聞いていたけど、見ると聞くとじゃ大違い。

 ここと比べると金沢の設備が悲しくなってきちゃうよ。

 

「全く、本当に来ることになるとはな」

 

「トレーナーさんのおかげですよ。まさか、トレーナーさんに伝手があったなんて」

 

 なんでも、トレーナーさんの古い知り合いがここで働いているらしい。詳しいことは教えてくれなかったから、よく分からないけどね。

 とにかく、トレーナーさんのお陰でこうして簡単にトレセン学園に侵入、もとい見学することができたわけだ。

 

「まぁ、長いことトレーナー業をしていると知り合いの1人や2人はいるもんさ。で、お前の方も大丈夫なのか?」

 

「任せてください! 今日の私は中央転入希望生です、ちゃんとエルちゃんにもそう話していますよ」

 

 そう今日の私は、中央転入を検討している期待の地方ウマ娘。実際に中央の重賞レースを制したわけだし、このこと自体は何もおかしくはない。

 

「と、噂をすれば」

 

「カナメちゃーん、遅くなりましたデス」

 

「全然大丈夫だよ、こっちこそ色々お願いしてごめんね」

 

 現れたのは、何を隠そう中央G1ウマ娘エルコンドルパサー、もといエルちゃん。今日は彼女が私たちを案内してくれることになっている。

 

「うーん、この人がカナメちゃんのトレーナーデスか」

 

「あぁそうだ。うちのカナメが世話になってるみたいだな」

 

 ジロジロとトレーナーさんを見つめるエルちゃん。いや、確かにトレーナーさん、見た目はあれだけど変な人じゃないからね。まぁ、面白そうだから言わないけど。

 

「ふぅーん。カナメちゃんはいいトレーナーさんを見つけましたネ」

 

「お前にそう言って貰えると光栄だよ、エルコンドルパサー」

 

「え、エルちゃん。一体、どこを見てそう思ったの? ぱっと見だと冴えないおじさんにしか見えないと思うんだけど」

 

「おい」

 

 トレーナーさんが抗議の声を上げるけど無視無視。それともトレーナーさんって、エルちゃんの目から見てもすごいトレーナーさんなのかな?

 

「だって、カナメちゃんのトレーナーさん、エルの脚をチラチラ見てましたから。いいトレーナーさんはウマ娘の筋肉を見て、走るかどうか分かるらしいデスよ」

 

 いやいや、それはまずいでしょ。

 ということは今まで私の脚もジロジロ見られてたってこと? 私は別にいいけど、他の娘のを見るのはちょっと。

 とにかく問いたださないと。

 

「ちょっとトレーナーさん、それって本当ですか」

 

「いや見てない見てない。適当なことを言うなエルコンドルパサー」

 

 必死に否定するトレーナーさん。そこまで強く否定すると返って怪しい。どうやって問い詰めようか、そんなことを考えていると。笑いを堪えた様子のエルちゃんが声を掛けてくる。

 

「ハハ、すいませんデス。カナメちゃん、冗談デスよ。それじゃ、張り切って案内するので付いてきて下サーイ」

 

 そうしてエルちゃんに連れられた私とトレーナーさんは、トレセン学園の設備の凄さをまざまざと見せつけられた。

 なにあのプール、あんなのずるいでしょ。金沢なんて普通の25mプールしかないんだからね。

 ジムの設備もすごいし、ライブの練習場も充実してた。  

 とにかくすごいし、すごい!

 

「トレーナーさん、中央ってすごいですね」

 

「あぁ。なんせ資金力が違いすぎる。地方との差が開くのもしょうがないのかもしれないなぁ」 

 

「トレーナーさんがそれを言いますか」

 

 金沢大好きなトレーナーさんがそれを言ったらおしまいでしょ、全くもう。

 

「いやそう思っちまうのも無理ないだろう。大体、なんだあの坂路。あれに比べれば金沢の坂路なんて平坦と一緒だぞ」

 

 確かにあの坂路はすごかった。普段からあれでトレーニングしていれば中山の急坂にも対応できるようになるかもしれない。

 まぁ、そもそも地方のレース場は基本的に平坦コースが多いから、坂路自体は筋力トレーニング用でしか使われないんだけど。

 

 それに色々と見学した結果、金沢のトレセンの方が優っていることも見つかった!

 例えばこれなんてそうだ。

 

「でも、学業なら私の方ができますよ。というより、金沢の方がレベルが高そうです」

 

 そう学力。おそらく中央の娘たちはトレーニングを重視するあまり、勉強をあまりしていない!

 つまり、金沢のウマ娘の方が賢いってこと!

 ただトレーナーさんの返答は芳しくない。

 

「地方のトレセンっていうのはどこもそんなもんだ」

 

 まぁ、そうなんだよね。結局のところ地方の娘っていうのはレースで活躍して身を立てるレベルに無い娘が多い。要は早期引退も多々あるということ。だからある程度勉強の方も重視しておく必要がある、ただそれだけのことだ。

 

「あのー2人とも、エルのこと忘れてませんか? 取り合えず、一通りは見て回りましたけど、他に行きたいところはありマスか?」

 

「俺は別にいい。カナメは行きたいところあるんだろ?」

 

「そう言えばエルちゃんってセイウンスカイさんと仲がいいんだよね。ちょっと会いたいんだけど、会えるかな?」 

 

 さて、いよいよ今回の1番の目的、セイウンスカイとの対面だ。エルちゃんがセイウンスカイと仲がいいのはウマスタで聞いてるし、会えるといいんだけど。

 

「セイちゃんですか? 連絡してみますけど、会えるかは分かりませんよ?」

 

「その時はその時でいいよ。お願い!」

 

「分かりました。えーと、『セイちゃんへカナメちゃんが会いたがっています。』送信したデース!」

 

 いやいやエルちゃん、セイウンスカイは私のこと知らないでしょ。カナメって誰? ってリアクションになっちゃうよ。

 

 と、そんなことを考えていると、ピロンと、エルちゃんの携帯が鳴った。

 

「お、カナメちゃん。セイちゃんが会ってもいいって言ってるデス」

 

 返信早! いや、こっちとしては大歓迎なんだけど。

 

「それじゃあエルちゃん、案内してくれる? トレーナーさんはどうしますか?」

 

「俺は校門のところで待ってるから、終わったらそこで集合でいいだろ。オッサンがついて行っても会話が弾まないだろうしな」

 

 トレーナーさん、絶対にさっきのこと根に持っている。いい大人なのに。

 まぁ、元からセイウンスカイと会うのは私1人の予定だったし別にいいんだけどさ。

 

「じゃあ、カナメちゃん行きマスよ!」

 

 そう言うなり、エルちゃんは私の手を引いて駆け出す。

 いや、別にそんなに急がなくてもいいんだけど。

 

 そうして駆け足で集合場所まで向かっていると、何やら視線を感じた。いや、エルコンドルパサーに手を引かれて走ってる見知らぬウマ娘がいたら注目されるのも当然かもしれないけど。が、どうやらそういうわけでもないようで。

 

「あの、カナメさんですよね?」

 

 声をかけてきたのは、見知らぬウマ娘。いや、どこかで見たような気がしないでもない。

 とりあえず、エルちゃんも気を遣って一旦止まってくれて何よりだ。

 

「どこかで会ったことは…ないよね?」

 

「えぇ、私はありません。ただ私の姉があなたと走ったことがあります」

 

 私と走った娘? 目の前のウマ娘に似てる娘だよね。うんうん考えていると、ふと思い出した、あの冷たい衝撃を。きっと彼女の姉というのは、あの娘だろう。

 

「あなたの名前は?」

 

 名前は聞いておくべきだと思った。

 彼女の姉とはもう走ることは無いだろうけど、彼女とは走るかもしれない。だったら覚えておくに越したことはない。

 

「私はナリタトップロード、デビューはまだなんですけどね。今年の冬ごろの予定で。それよりも今度の菊花賞、見に行きます。すごく、すごく応援します! 頑張ってください!」

 

 応援してくれるなら期待に応えないとね。とくに死力を尽くして戦った彼女にされるなら。

 

「任せて、あなたのお姉さんが1番強かったってみんなに伝えられるよう頑張るよ」

 

 

 

 

「カナメちゃん、トップロードさんと知り合いだったんデスね。にしても、さっきのセリフカッコいいデスね。あれって勝つ自信ないと言えないデスよ。それ以外のところも含めてカナメちゃんらしいデス」

 

「いや、初めて会ったよ。ただ、色々と縁があってね。あとさっきのは我ながらカッコつけすぎたと思わなくもないなぁ」

 

「エルはそういうのは好きデスよ。と、ここがセイちゃんの約束の場所です」

 

「ここ?」

 

 連れてきてもらったのは、なにもないただの広場。てっきり、どこかの部屋だと思ってたけど。

 

「ハロハロー。あなたがカナメちゃん? 皐月賞以来だねー」

 

 と寝転がってたウマ娘が突如起き上がりこっちに向かってきた。あんまり記憶にないけど、彼女がセイウンスカイだよね?

 

「えと、セイウンスカイさん?」

 

「そそ。で、一体私に何の用かな?」

 

「次の菊花賞よろしくお願いします、っていう挨拶をさせてもらいにね」

 

 別に嘘じゃないよね。挨拶は挨拶だし、お願いはお願いだ。

 

「へー。それってどういう意味のお願いしますなのかな?」

 

 あれ、勘付かれてる? やっぱり一筋縄じゃいかないかぁ。

 一応カマをかけてみようかな。

 

「どういう意味だと思う?」

 

「質問を質問で返すのは良くないなぁー。まぁ、条件次第なら乗ってあげなくもないよ」

 

 あ、完全にバレてますねこれは。まぁでも、そっちの方が諸々交渉しやすいしいいか。 

 

「へぇー。私が何を言いたいのか分かるんだ。じゃあ、単刀直入に次の菊花賞先頭で逃げてもらえない?」

 

「それはどうしてかな。言われなくてもセイちゃんは逃げるとは思わなかったの?」

 

「ペースコントロールならあなたが1番得意でしょう、私はそういうの辛っきしだから。そのかわり私が番手を守りきってあげる」

 

 これは嘘じゃない。実際、私に長距離のペースコントロールは無理だ。信頼できるペースメーカーが欲しいのは間違いない。

 その点、トレーナーさんも言っていたけれど、目の前のセイウンスカイのペースコントロールはピカイチだ。

 

「つまり、セイちゃんが逃げるの援護してくれると。でも、それだけだとわざわざ私に言いにくる必要はないよね? 勝手に番手を取り切ればいいんだから」

 

「確かにその通り。だから私があなたに求めるのはハイペースの逃げ」

 

「長距離でハイペースで逃げるって、セイちゃんにメリットないですよね? スローで逃げて脚を残した方がお得ですし」

 

「スローの瞬発力勝負に持ち込めば私もあなたもスペシャルウィークの末脚には敵わない。特にバ群が密集してしまえば」

 

 そして、バ群を密集させるには、番手の私が先頭との距離を詰めればいいだけ。

 もちろん、セイウンスカイはそんなことは分かりきっているはずだ。つまり、ハイペースで逃げなければ自滅覚悟の私に潰されるということを。

 

「なるほど。それでカナメちゃん、私がハイペースで逃げるとして、どんな見返りをくれるのかな?」

 

「他の娘が競りかけるのを阻止するだけじゃ足りない?」

 

 これで済めば1番楽だけど、そうはいかないよね。さて、どんな条件が出されるかな。

 

「足りないですねー。それだけなら私にだってなんとでもできますから。10バ身、坂の頂上の段階でそれくらいの差は欲しいところだね」

 

「10バ身は足下を見過ぎじゃない?」

 

 セイウンスカイがどれだけのペースで逃げてくれるかは分からないけど、おそらくはそこまでハイペースにはしないはず、10は厳しい。

 

「いやいや、ハイペースで逃げるんですよ。それくらいのリードは必要じゃないかな。じゃあ、おまけして8バ身、これでどう?」

 

「分かった。ただしあなたがペースを緩めでもしたら一気に詰めるからね」

 

 とりあえず楔は打ち込んだ。後は彼女の作るペース次第。仮に遅ければ遠慮なく潰しに行く。

 

「にゃは、そこは信用してもらわないと。とりあえず有意義な話ができてよかったよカナメちゃん。それじゃあエル、しっかりカナメちゃんを送ってあげてね。怖い人に捕まらないように」

 

 私もセイウンスカイもお互いが本当に約束を守るとは思っていない。ただそれでも、お互いに利用できることは理解できたようだ。少なくともセイウンスカイもある程度のペースでは走ってくれるだろうし。

 後はお互いにどのタイミングで裏切るかだけだ。

 

 

 

「それじゃカナメちゃん帰りますよ」

 

 セイウンスカイがお昼寝に戻ったところでエルちゃんが声をかけてくる。なんでもエルちゃん曰く、彼女はいつもそこで寝ているんだとか。

 そういえばエルちゃん、私とセイウンスカイの会話には一回も入ってこなかったなぁ。

 

「あ、うんそうだね」

 

 来た時と同様にエルちゃんに手を引かれて駆け足で、校門に向かう。どうもトレセン学園では駆け足がデフォルトのようだ。なんでも廊下は静かに走りましょうっていう決まりがあるんだとか。

 ともかく、数分ほど走ると校門に寄りかかるトレーナーさんが見えてきた。

 

 ということはエルちゃんともそろそろお別れかぁ。おっと、別れを惜しむ前に言っておかないといけないことがあった。

 

「エルちゃん。さっきの話は…」

 

 できればスペシャルウィークには言わないで欲しい、そう続けようとした私を遮ってエルちゃんは。

 

「大丈夫デス、エルは何も聞いてませんから」

 

「ありがとう、エルちゃん」  

 

 意外とエルちゃんって気を遣えるんだよね。基本的に自分が1番強いと思っているからかもしれないけど。トレーナーさんが私によく言う、無意識に見下すってやつに近いのかもしれない。

 

「どういたしましてデス」

 

 こうして円満に私の1日は終わるはずだったんだけど、それはある栗毛のウマ娘の乱入によってそれは叶わなくなってしまった。

 

「ちょっと待ってください。エル、このまま何も言わずに彼女を帰すつもりですか?」

 

「あー、グラス。聞いてたんデスか?」

 

 現れたのはグラス?というウマ娘。どうやらエルちゃんの知り合いみたいだ。

 ただ、どうもエルちゃんもバツの悪そうな様子だ。もしかして仲があんまり良くないのかな?

 

「そこのあなた。エルが知らないウマ娘と走り回っていると聞いて様子を見にきたら。さっきのセイちゃんとの話、あれはなんですか」

 

 まぁ、あれだけ視線浴びてたしね。やっぱりエルちゃんって有名人なんだなぁ。

 とにかく、あの話があんまり出回るのはまずい。とりあえずお願いしておかないと。

 

「もしかして聞こえてた? できればスペシャルウィークには秘密にしておいてくれる?」

 

 エルちゃんとの友達ってことはスペシャルウィークの友達ってことでもあるよね。何とか秘密にしておいてくれないかな。

 

「恥ずかしいとは思わないんですか! 正々堂々、勝負に挑もうとする他の娘たちに対して」

 

 私のお願いを聞いたグラス?の雰囲気が変わったのが分かった。端的に言って怒っているねこれは。

 

「ちょ、グラス落ち着いて下さーい」

 

「エルは黙ってて下さい。それでどうなんですか」

 

 エルちゃんが宥めようとしているけど、グラス?は私に対する怒りを抑えようともしない。

 あとエルちゃん、本気で宥めようとしてないでしょ? 

 まぁ、怒りを向けられてるこのは私だしここは真摯に答えるしかないか。

 

「恥ずかしいと思うかどうか?」

 

「何度も言わせないでください。その耳は飾りですか?」

 

 あー、彼女が怒ってる理由はそれか。そんなに声を荒げなくてもいいのにね。

 大体、どうしてそんな分かりきったことを聞くんだろうか。

 ただ正直に答えるともっと怒るよなぁ。でも、気を遣うのも癪だし。まぁいいか、どうせ2度と会うこともないだろうし、ここは正直に答えておこう。

 

「思わないよ。私は全くそうは思わない。そもそも恥ずかしいと思ってたら、こんな状況にはなってないでしょ? そっちこそ、その頭は飾りなのかな?」

 

「なるほど、所詮地方のウマ娘ですか。実力が足りなければ勝負に対する意識も低い。つくづく、情けない」

 

 あー、これはやばい。ちょっとヒートアップしてきちゃったなぁ。というか止めに入ってたエルちゃんはどこにいったの? 

 しょうがない、ここは奥の手だ。

 

「トレーナーさん、聞き耳立ててるの知ってるんですから早く何とかしてください」

 

 さっきからチラチラこっち見てるの気づいてますから。

 とにかく、私の呼びかけに答えてトレーナーさんが重い腰を上げてこっちに向かってきた。

 

「はいはい、そこまでにしてくれよグラスワンダー。あとカナメ、お前も熱くなるなよ。余所に迷惑かけると後が面倒だぞ」

 

 ようやく、トレーナーさんが間に入ってくれた。ていうかトレーナーさん目の前のウマ娘のことグラスワンダーって言った?

 やばい、超大物だよ。そんなウマ娘に噛みついちゃったなんて。

 

「あなたは彼女のトレーナーですか?」

 

「いかにもな」

 

「なら、あなたもあなたです。教え子を正しく導くのがトレーナーの仕事じゃないんですか」

 

 おっと、怒りの矛先がトレーナーさんに向かった。

 トレーナーさんは大人だし、上手く丸め込んでくれるでしょ。

 後は私のことを忘れてくれると助かるんだけど。

 

「うちは放任主義なんでね。それにこいつは良くやってるよ。まぁジュニア王者のお前から見るとそう見えないのかもしれないけどね」

 

「何が言いたいんですか」

 

「グラスワンダー、お前のそれは驕りだよ。いつからウマ娘の代表になったんだ、ジュニアの王者だからか?」

 

 めちゃくちゃ煽るじゃないですか、トレーナーさん。穏便にいきましょうよ穏便に。

 

「私はただ、あんな卑怯な真似は許せないだけです」

 

「どこが卑怯なんだ。勝つためのベストを模索しているだけだろう? 勝つために最善の努力をしているこいつを誉めてやりたいくらいだ」

 

「そうですか。ですが、私はレースは1人で戦うものだと思っています。自分の実力を出し切り、その結果についてくるものが勝利だと。レース中に他人の力を借りて勝利して、それで自分を誇ることはできません」

 

「お前が道理を語るなよ、グラスワンダー。それは考えの押し付けだ。それにそういうのは実力があるやつが言わなきゃ説得力がない」

 

「私の実力があなたの教え子に劣るとでも」

 

 グラスワンダーが私を一瞥する。

 いや、私よりあなたの方が強いっていうのは大多数の意見だけどさぁ。

 

「お前の前走は毎日王冠5着、かたやカナメはセントライト記念1着。俺はバ鹿だからな、同じグレードのレースなら5着のやつより1着のやつの方が強いと思っちまうな」

 

 よく言ったトレーナーさん。そうそう、なんて言っても私は前走勝ってますから。

 まぁ、グラスワンダーと一対一で走って勝てるかと言われたらそんなことないんだけどね。

 

「っっ! ここまでバ鹿にされるとは思いませんでした」

 

「はいはい、グラスそこまでにしましょう。カナメちゃんのトレーナーもここまでデス」

 

 2人の間に入るエルちゃん。

 エルちゃんが間に入ったことで2人の熱が下がったのが見てとれる。まぁ、ここでエルちゃんに強くでたら、ただの八つ当たりだからね。グラスワンダーもそこは分かっているはずだ。

 

「全く、止めるならもっと早く止めろよエルコンドルパサー」

 

「変なところで止めると不機嫌なグラスの相手をするのはエルなんデスよ?」

 

 やっぱり途中から宥めるのをやめてたよねエルちゃん。というか今までどこにいたのさ。

 

「ちゃっかりしたやつだな」

 

「あーでも、カナメちゃんのトレーナーさん?」

 

 あれエルちゃんの雰囲気が変わった? 

 トレーナーさんの耳元で何か言ったみたいだけどここからじゃ聞こえない。まぁ、後でトレーナーさんに教えて貰えばいいか。

 

「私の友達をコケにしたこと忘れませんからね。吐いた唾は飲み込めないこと、あなたなら知っているでしょう?」

 

 

 

 

 

 

 

「そう言えば、最後エルちゃんに何を言われたんですか?」

 

「大したことじゃない。とりあえず帰って練習だ、にしてもお前グラスワンダーを敵に回すとは大したやつだな」

 

 ニヤニヤとした笑みを浮かべるトレーナーさん。いや、きっと私も同じような表情なのかもしれない。

 

「いや、途中からトレーナーさんが煽ってたじゃないですか」

 

「でも、お前ってそういうの好きだろ?」

  

 さすがトレーナーさん、私のことをよく分かっている。

 

「よく分かりましたねトレーナーさん。なんて言っても、私って無意識に他人を見下しているらしいですから」

 

 あのトレーナーさんに言い返せずに歯噛みしているグラスワンダーを見るのは愉快だったことに間違いはない。

6〜8話冒頭に取り上げた金沢の名ウマ娘の元馬わかりましたか?

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