地方は中央の2軍じゃない!   作:小魔神

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第41話

「そういえば、お前は京都を一回走ったことがあったな」

 

「はい、シャインちゃんやスペシャルウィークと一度」

 

 あの時のシャインちゃんの脚は今思い出してもすごかった。なんせ、あのスペシャルウィークを後ろから差し切ったんだから。

 

「その時の記憶は忘れろ。今回は同じ京都でも外回りだ、正直別物のコースと思ってもいい」

 

「まぁ、忘れるほど印象ないんですけどね。あの時はただ回ってきただけですから」

 

 本当にあの時の私って、何もしてないよなぁ。ファンの人たちが、回ってくるだけかって野次を言うけど、あの時の私はまさにそんな感じだった。

 

「それもそれでどうかと思うがな。まぁいい。とりあえず、この外回りだが、お前とは相性がいい筈だ。有名な話だが京都外回りは坂を下ってから直線に向く」

 

「それが私に向く理由ですか?」

 

 正直、ピンとこない。というより、今まで急な下り坂が長く続くようなコースを走ったことがないから分からないんだよね。中山で、急な坂を登ったことを何度もあるんだけど。

 ここはトレーナーさんにご教示いただこう。

 

「あぁ、この下り坂で勢いがつくからな。ズブいやつほど効果がある。京都の得意なウマ娘っていうのは昔からいるが、大概はこの坂の勢いを上手く使えるやつだ」

 

「なるほど。下り坂の勢いを上手く使って、いつもより早く加速ができるってことですね。つまり私でもスピードに乗った状態で、自然と直線に入れると」

 

 確かに、坂を下ればその分スピードが出るのは当たり前だ。今までは、瞬発力の関係から早仕掛けをせざるを得ないことが多かったけれど、京都ではそこが誤魔化せる。

 

「それがそうとも言い切れないんだよな。下り坂は確かにプラスだ、そこは間違いない。問題はコーナリングだ。京都の4コーナーは特殊でな、角度がかなりキツい。コーナリングの悪いお前にとってはそこがネックだ」

 

 久しぶりにコーナリングの問題が出てきたかぁ。確かに私がコーナリングが苦手なのは周知の事実。前走のセントライト記念は直線に向くまでペースが上がらなかったから内を突けたけど、それ以外は基本的に外を回している。 

 

「下り坂で加速しすぎると、外に膨れる危険があるということですね。とはいえ、加速しないことには勝負にならないですし」

 

「あぁ。そこでビビって加速を緩めれば勝ち目はない」

 

「なら、コーナリングの練習ですか? 正直、すぐには身につかないと思いますけど」

 

 まぁ、今までも練習してないわけではないしね。ただ、スピードを乗せると、どうしても上手く回れないんだよね、

 

「まぁ待て。お前の交渉のおかげでセイウンスカイはハイペースで引っ張ってくれることになったんだろう? なら、坂の頂上あたりからは伸びた馬群を縮めようと後ろの連中も仕掛けてくるはずだ。お前が番手を取り切れば、必然的にそれより後ろの連中は外を回すことになる。それなら多少膨れても問題はない。中にはラチ沿いをピタリと回してくるやつもいるだろうが、人気どころの連中はそこまで仕掛けを待てないはずだ。だから早仕掛けは禁物だな。ただ、さっきも言ったが加速する必要はある。この塩梅が難しい」

 

 なるほど。つまり私が外に膨れても他の娘はそれ以上に膨らむということか。私の内を突くには内で、私の仕掛けを待つ必要があるわけだし。

 

「なおさら番手を取り切ることが大事ということですね。ただ、私、セイウンスカイさんと約束しちゃって、坂の頂上まで8バ身開けることになってるんですよね」

 

 あんまり仕掛けを遅らせると差しきれない可能性があるなぁ。8バ身は想像以上に厳しいだろうし。

 

「そんなの無視すればいいだろ。差せる位置まで詰めておけ。というか、お前もそのつもりだろうが。俺に言わせるなよ」

 

「いや、トレーナーさんに言われた方が罪悪感湧かなくて済みますし」

 

 やっぱりトレーナーさんにはバレてたか。まぁ、セイウンスカイとはお互い裏切ることを前提とした協力関係みたいなものだ。私も、何をされても恨み言を言うつもりもない。ただ、スローで逃げたりしたら全力で潰しはするけどね。

 

 ただトレーナーさんは呆れたような感心したような顔で私を見つめ、言葉をつづける。

 

「何だかお前、セントライト記念あたりから、いい意味で変わったな。誰の影響かは知らんが」

 

「まぁ、色々ありまして。ちょっと勝負に対する意識を改めました。詳しいことは秘密ですよ?」

 

 今思えば、トレーナーさんが勧めてくれたお出かけはリフレッシュという面ではもちろん、それ以外でも非常に有意義なものだった。まぁ、トレーナーさんには教えてあげないけどね。

 

「別に何でもいいさ。勝ちに貪欲なのはいいことだからな。菊花賞、ここは正直に言って、お前にも勝つ目があると見ている。これは本気だ。もちろん、厳しい戦いになるのは間違いない」

 

「トレーナーさんがそんなこと言うなんて珍しいですね。でも、正直に言って、私も勝ちを意識してレースに臨めそうです」

 

 皐月賞の時とは違って、私もトレーナーさんも勝ちを意識してレースの準備をしている。

 あの時とは違って空気も軽い。そんな空気に当てられてか、トレーナーさんが軽口をたたく。

 

「トレーナーはバ券を買えないが、お前のバ券をしこたま買ってやりたいくらいだよ。どうせ人気もないだろうしな、見返りは大きそうだ」

 

「ハハハ、私のバ券を買うのは斜に構えた人か、ファンの人たちくらいですよ。でも、そういう人たちに大きなプレゼントを渡すのも悪くないですね」

 

 特に金沢のファンの人たちには還元してあげないとね。なにせ、金沢じゃ私のバ券を買ってもリターンがほとんどないんだから。

 

「言うじゃないか」

 

 ニヤリとトレーナーさんが笑う。

 そんなトレーナーさんに私も笑みを返して続ける。

 

「で、トレーナーさん。話を戻しますが、私が番手を取り切るための作戦を思いついたんですけど」

 

 そのためにも番手は必ず確保しないといけない。

 色々考えている中で、頭に浮かんだのは、去年のダービーウマ娘。彼女が大一番で使った作戦を私も使わせてもらおう。

 

 その作戦を聞いたトレーナーさんは、何とも言えない表情を浮かべ、煮え切らない返答をする。

 

「なるほどな。まぁ、有りか無しかで言えば有りではあるが、その後が怖いぞ?」

 

 確かにトレーナーさんの言うことも分かる。

 でも、トレーナーさん一つ大事なことを忘れてますね。

 

「勝てば、称賛の声と雑音しか聞こえませんから」

6〜8話冒頭に取り上げた金沢の名ウマ娘の元馬わかりましたか?

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