地方は中央の2軍じゃない!   作:小魔神

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第42話

 

『クラシック最終戦となる菊花賞、この中である陣営の発言が物議を醸している。

 

「今度の菊花賞、何がなんでも先頭は譲りません!」

 

 この発言をしたのは前走のセントライト記念を快勝したカナメ。菊花賞に出走する中で唯一の地方ウマ娘である彼女は、本番の舞台でもダークホースとなりえる存在だ。

 そんな彼女の唐突にも見える逃げ宣言。というのも、彼女は地方、中央いずれのレースにおいても逃げた実績が無いからだ。前走こそ、積極的な先行策で勝利をしたものの、それまでのレースでは後方からの捲りを主体に戦ってきた彼女。  

 ここにきての意外とも言える逃げ宣言はどのような意味があるのか』

                               

 

 目の前の新聞には、私の逃げ宣言が堂々と記載されていた。そして紙面上では、私の逃げ宣言に関する考察が色々されている。勝つための奇策に出たとか、元々逃げが向いているタイプだとか様々な理由が書いてあるけど、全部ハズレ。だって逃げる気なんてないしね。

 

「いやー、大注目ですね」

 

「そりゃ、今まで逃げたことのないウマ娘がG1の舞台で逃げ宣言なんてしたら目立つに違いないさ。にしても、これで逃げなかったら反響が怖いぞ」

 

「勝てば問題ないですよ。それに番手さえ取っておけば、ハイペースのセイウンスカイさんについていけなかったって言い訳もできますから」

 

 そう、この宣言は楽に番手を取るためにしたのが1番の理由だけど、もう一つ大かな理由がある。セイウンスカイに対する発破だ。ハイペースで逃げなければお前を潰すという意思表示に他ならない。まぁ、彼女なら気づいてくれるでしょ。

 

 

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 カナメちゃんの逃げ宣言かぁ。全く、これじゃハイペースで逃げないといけないじゃないですか。

 

「トレーナーさん、どうしますか?」

 

 ここまでプレッシャーをかけられたなら、いっそ逃げなくても‥。いや、それはダメですねぇ。ペースを握る立場じゃないとスペちゃんやキングに飲み込まれてお終いだろうし。

 

「うーん、まぁ逃げとけばいいんじゃないか」

 

「またまた、簡単に言いますね」

 

 まぁ、それしか無いだろうしね。それにトレーナーさんもそんなことは重々承知。

 

「お前なら前半に多少飛ばそうが、ペース配分はできるだろうしな。それに向こうさんも、お前のことを利用してやろうっていう算段だ。そこまで突いてはこないさ」

 

「セイちゃんのこと買い被りすぎじゃありませんか?」

 

「何を今更言ってるんだ? お前が1番強いウマ娘だってことは、契約を結ぶ前から知ってるよ。速いウマ娘なら他にいたけどな」

 

 う、トレーナーさんたら、またそんなことストレートに言って。この前も俺の愛車はセイウンスカイとかわけのわからないこと言ってたし。

 あの時のセイちゃんの気持ち分かります? どれだけ揶揄われたことやら。でも、嫌な気はしなかったかな。

 

「次も勝つんだろ?」

 

 それでもそんなトレーナーさんにそんなこと言われたら、こう返すしかないじゃないですか。

 

「当たり前ですよ」

 

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「トレーナーさん、これって」

 

「あぁ。てっきりセイウンスカイが逃げるもんだと思っていたが、色々と考える必要があるな。場合によってはハイペースになる可能性も十分にある」

 

「だったら、どうしましょうか」

 

「ダービーの時を思い出せ。直線の脚ならお前が1番だ。大事なのは直線を迎えた時に前のウマ娘を捉えられる位置にいること、これに尽きる」

 

「直線までにある程度位置を上げておかないといけませんね。確か、ゴールドシップさんが坂の登りから仕掛けていけって言ってました」

 

「あの、バカ。いいか、登りで仕掛けてゴールまでスパートできるのは一部のスタミナお化けだけだ。登りはゆっくり登るのがセオリーだ。大事なのは4コーナーの下り坂、ここが肝だ。ここで上手く加速をつけていって直線を迎える。決して焦るなよ」

 

「坂をゆっくり登る‥ですね。分かりました!」

 

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「ほぉー、カナメちゃんの逃げ宣言デスか」

 

 カナメちゃんが、ここまで思い切った策にでるとは。エル的には好印象デスけど、後が怖いデスよ?

 まぁ、セイちゃんもここまでプレッシャーをかけられた以上は、ある程度のペースで逃げざるを得ませんね。

 

「あぁ、例の地方の娘ですか」

 

「デスデス。これは菊花賞面白くなってきましたネ」

 

 今のところはカナメちゃんの思った通りの展開デスね。逆にスペちゃんには厳しい展開。ただ、それでもスペちゃんは強いですよ?

 もっとも、1番警戒しないといけないのはセイちゃんだと思いますけどネ。

 

「確かにどうなるかは楽しみです」

 

「へー、グラスはてっきりカナメちゃんのことなんてどうでもいいと、思っていましたけど」

 

 まぁ、グラスの反応が見たくて、わざと大きな声で独り言なんて言ってみたんデスけどね。思ったより意外な反応でした。

 

「あれだけ啖呵を切られたら見届けないわけにはいきません。個人的には好かない相手ですけどね」

 

「あちゃー、カナメちゃん嫌われちゃいましたね」

 

 グラスに目を付けられると怖いですよ? 少なくとも同じレースでは当たりたくないデスね。

 

「むしろ、どうしてエルがあの娘と仲が良いのか不思議です」

 

 まぁ、グラスからしたらそう思うのは不思議ありませんネ。

 実際に共同通信杯で初めて顔を合わせた時は、あまり気にしてはいませんでしたし。

 

「まぁ色々理由はありますけど、カナメちゃんは自分の強さを知っていますからね」

 

 あの日、エルが快勝したレースで、カナメちゃんは負けた後に話しかけてきました。てっきり、開き直ったのかとも思いましたケド、それは違いました。

 

「強さですか?」

 

「カナメちゃんは素直なんデスよ。負けを負けとして受け止める度量があります。その点は私より上かもしれないデスね」

 

 そう、あの時のカナメちゃんは、私を倒そうとする目をしていた。負けても、呆然とすることなく、それを受け止めて次への糧にする。それは簡単なようで難しいデス。実際にカナメちゃんは、次のレースから戦法をガラリと変えていました。

 

「単なる、負けず嫌いなだけでは」

 

「だったらグラスと同じデスね。同族嫌悪ってやつデス」

 

 実際、グラスもとんでもない負けず嫌いデスしね。案外、似ているのかもしれません。

 当のグラスは不服そうデスけどね。

 

6〜8話冒頭に取り上げた金沢の名ウマ娘の元馬わかりましたか?

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