先頭の1000m通過は60秒を切ってるはず。いくらなんでも早すぎるよね。前を走るセイウンスカイも肩で息をしているし。
これは早めにセイウンスカイを捨てる必要があるかもしれない。
チラリと後ろを見れば、ダービーの上位陣が見える。スペシャルウィークは後方みたいだけど、警戒するに越したことはないよね。
とりあえず、少しセイウンスカイとの間隔を離しておこう。
『セイウンスカイが後ろとの差を広げたか? 5バ身から6バ身のリード。カナメが二番手、その後ろにリオコウウ。さらに開いてボールドエンペラー、フソウタイカ、キングヘイローと続いています』
この様子なら間違いなく前は差せる。後はどのタイミングで仕掛けるかだ。ギリギリまで引き付けてからスパート、とにかく脚を使わせるんだ。
◇ ◾️ ◇ ◾️ ◇ ◾️ ◇
「キング、ダービーは申し訳なかった」
「ねぇ、トレーナー。私、菊花賞で勝ちたいの。あなたの言いたいことは何となく察しがついている。でも、今の私にはそれを言わせる権利をあげられない。私は最初、お母様に見せつけるためにレースに勝ちたかった」
「…今は違うのかい?」
「えぇ。いや、それも無い訳じゃないのよ。でももっと優先すべきことがあると思って」
「それはーー」
「一流のコンビにクラシックの勝ちがないのはどうかと思うの。私の実力もトレーナーの手腕も、スカイさんやスペシャルウィークさんたちに負けていると思って?」
「いや、僕たちこそが一流だ」
「そうね。だったら一番強いウマ娘が勝つと言われる菊花賞。私がこのタイトルを手にするためには何が必要かしら。一流のトレーナーさん」
私に必要なのはこの位置。この位置でレースをするしか今の私に勝ち目はない。スカイさんを差し切れるギリギリの距離、そしてスペシャルウィークさんを凌ぎきれるギリギリの距離。
皐月賞はグリーンベルトを通ったスカイさんを差しきれずに二着。ダービーは、正直に言うと舞い上がって自分の走りができなかった。
同期で走る最後のレース。最後に笑うのは私しかいない。
そして、この位置でレースを進めれば間違いなく最後の一冠は私に輝く。何せ、一流のトレーナーが私にはついているんだから。
確かにペースは早い。でも、スカイさんならペースは間違えない。だからこの間隔、この間隔を何としても維持する。
『セイウンスカイが後ろとの差を広げたか? 5バ身から6バ身のリード。カナメが二番手、その後ろにリオコウウ。さらに開いてボールドエンペラー、フソウタイカ、キングヘイローと続いています』
だけど、何かがおかしい。スカイさんとの間隔が開いていく。ペースが上がった? いや、そんなはずはないわ、流石のスカイさんでもここでのペースアップは考えられない。
だったら私が遅くなった? いや、違う。私じゃない私たちだ。二番手の娘が明らかにスカイさんとの間隔をとっている。
これはまずい。あの娘はスカイさんの恐ろしさを分かっていない。
「どうやら、勝つのは一筋縄ではいかないようね」
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私の名前はエモーション。皐月賞4着の実績あり。
ちなみにママはオークスウマ娘ね。あのニシノフラワーに勝ったんだからすごいでしょ。
まぁそれは置いておいて。今回のレース、私は結構自信がある。何といっても直前のトレーニングの感触がよかった。実際、この時のタイムは今回のメンバーでも最高だったと思う。それに前走はシニア級のウマ娘、それも重賞ウィナーにも勝った。
はっきり言って、この菊花賞も勝てると思う。これでママとお揃いのクラシックウマ娘ってわけ。
とまぁ、そんな簡単にいけばいいんだけど、そうは問屋が卸さない。このレース一番に唯一警戒するべきなのはスペちゃん、彼女だけ。ダービーも一緒に走ったから分かる、スペちゃんの末脚は、正直レベルが違う。同じ位置でスパートをしたら負けちゃうのはしょうがないしね。
「中段に構えるのはエモーション、少し掛かっているか。その後ろにスペシャルウィーク。スペシャルウィークは中段です」
掛かってる訳じゃないよ、相手をスペちゃんに絞っただけ。スペちゃんの前で常にレースをして同じタイミングでスパートをする。それでスペちゃんを押さえきれば私の勝ち=レースの勝ちになるはず。
つまり、私が言いたいのこれ。
「スペシャルウィーク、君にだけは負けないからね」
おっとと危ない、素がちょっと出ちゃった。でも、女王の子が一番強いウマ娘に輝くのが、物語としては王道だとは思わない?