「あいつ、前との間隔を広げていないか?」
「どうやらそのようだ。恐らく前は差し切れると見て、後ろを警戒しているんだろう」
概ねその通りだろう。ペース読みが苦手なあいつでも、流石にこのペースが早いことは気づいたか。
ただ、それを加味してもその選択は褒められたものじゃない。
「カナメ、そいつは愚策だぞ」
「そうか? このペースなら前は持たないと思うが。警戒するなら後ろの連中だろ」
「そうだね。私も後ろのスペシャルウィークの末脚の方が気になる。現にセイウンスカイは肩で息をしている」
なるほど、まぁそう思うのは無理はない、というより当たり前だ。この2人は金沢のトップウマ娘。レース状況も読み解くのにも長けている。だがその目の良さが仇になる。
「そう思った時点で、お前らの負けだ。いいか、確かに前半の1000mはハイペースだった。だがそこからは明らかにペースが落ちてる。全員セイウンスカイの術中にハマってるんだよ。特にカナメのやつはな」
事前に余計なことを伝えすぎたか。以前のあいつなら前を離すようなことはしなかった。が、今更悔やんでもどうにもならない。
それに今のあいつなら差し切れる可能性もないわけじゃない。というより、それができなきゃあいつの負けだ。
坂上までには詰めてくれよカナメ。
◇ ◾️ ◇ ◾️ ◇ ◾️ ◇
大外はよかった。
今の私にはスタートから位置をとる脚はない。それならむしろ割り切って走れる大外の方がいい。
春の若葉ステークス、あのレースで私は全てやりきったと思った。最後の輝きをトップロードに見せつけたんだと。
でも違ったみたい。あの怪我で走れなくなった春、テレビで見た皐月賞、日本ダービーは輝いていた。
「なんで私はあそこで走っていないの。たとえどれだけ恥をかいてもどれだけ叶わない夢だとしても、あの場所で戦いたかった」
きっとそれが私の本音。そこからの私は全てをリハビリに費やした。お陰でレースにこの菊花賞に出走することができた。そういえばレースの出走が決まってから、数日が経った時トップロードが何か言ってたっけ。
「この前カナメちゃんに会いましたよ」
「へ、なんで?」
「何か、トレセン学園にいたので」
「いやあの娘、地方の娘じゃん。まぁいいや、でどうしたの?」
「お話ししました!」
「いや、それは分かるよ。何を話したの?」
「うーん、菊花賞頑張ってくださいって応援しました。そうしたらカナメちゃん何て言ったと思います? あなたのお姉さんが1番強かったってみんなに伝えるって言ったんですよ! カッコいいです! 私の姉も喜びますって伝えました」
「いや、それって」
我が妹ながら、ちょっとポンコツすぎない? 最後のセリフ的に私引退したみたいな扱いになってるじゃん。まぁそこが可愛いんだけど。
カナメ。あの若葉ステークスで一緒に走った地方の娘。あの時は私が残して辛勝した。まぁ、怪我が無ければ普通に勝ってたけどね。
それでも私にとってライバルと言えるのは彼女なのかもしれない。なんと言っても私の最高のパフォーマンスを見せたレースの相手なんだ。彼女は何も思っていなくても私は色々と思うところがある。
「あなたのお姉さんが1番強かった・・・か。悪くないね」
今の位置は最後方。はっきり言ってこの位置じゃ何があっても勝てない。自慢の瞬発力を見せるまでもなく試合終了だ。
ハイペースだったレースも1000mを過ぎて落ち着いてきた、というよりスローになっている。けど、私のライバルさんはそれに気づいていないみたい。
このレース、1番強いのはスペシャルウィークに違いない。でも1番レースが上手いのはセイウンスカイだ。
最後方はレースがよく見える。セイウンスカイの苦しそうな走り、あれは演技だ。実際肩で息はしているように見せてるけどフォーム自体は崩れていない。
『セイウンスカイが後ろとの差を広げたか? 5バ身から6バ身のリード。カナメが二番手、その後ろにリオコウウ。さらに開いてボールドエンペラー、フソウタイカ、キングヘイローと続いています』
って、前との間隔開けちゃってるよ。なおさら今の位置だと勝つのは無理だ。というより後ろの娘たちがかなり苦しい。先行集団のキングヘイローあたりも動きたくても動けない状況か。
まったく、私のライバルはすごいことをしてくれるね。
さて、どうする? 今のままじゃ私の見せ場はゼロ。
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・・
・・・
・・・・腹を括るとするか、
ちゃんとトップロードに伝えてよね。
◇ ◾️ ◇ ◾️ ◇ ◾️ ◇
「見てオペラオーちゃん。姉さんが走ってる」
「あぁそうだね、トップロードさん。覇王たる僕にもその輝きが伝わってくるよ」
「何が輝きよ。あなた誰にでも同じようなこと言うじゃない」
「おっと嫉妬かな、アヤベさん。ハーハッハ、心配しなくでも僕の度量は大きい、アヤベさんも受け止めてあげるとも」
「流石です、オペラオーさん」
「全く下らないわ」
何かがおかしい、何か違和感が・・・。
これは確かめるしかないようだね。