地方は中央の2軍じゃない!   作:小魔神

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第49話

 

 彼女、いやカナメを初めて見たときは金沢レベルでしかないと思っていた。実際に川崎への遠征も止めたくらいだ。

 

 そんな彼女が今、中央のクラシックのタイトルをつかもうとしている。

 

「行け、差せ!」

 

 横ではサウスが叫んでいる。いや、この声は私か? 

 もうそれすらも分からない。

 

『坂を下って直線。先頭はセイウンスカイ、しかし2番手からカナメが追い込んで、そのリードが徐々に詰まってきている。後ろからはキングヘイロー、メジロランバート。エモーション、スペシャルウィーク。これは前で決まるのか』

 

 今まで、多くの金沢のウマ娘が中央に挑んできた。中には当時最強と言われていたマイルの皇帝を破った者もいた。中には、G1ウマ娘を相手に完勝した石川ダービーウマ娘もいた。

 

 それでもG1には届くどころか勝負にもならなかった。

 

 地方は中央の二軍。確かにその言葉も一理ある。中央で未勝利戦を勝ちきれず、地方に転入してくるウマ娘は毎年多くいる。そしてそんな彼女たちにも地方の大多数のウマ娘は勝つことはできない。

 

 それでも、二軍には二軍の意地がある。今年の白山大賞典はサウスが金沢の意地を見せつけた。

 それでも、まだ中央には見下されている。だったら、向こうのホームで勝つしかない。

 

「絶対に勝て! 死んでも勝て! 金沢の意地を見せつけろ!」

 

 視線は2人に吸い寄せられて、そこが世界中心だと錯覚するほどまでにのめり込んでいた。今の私には、この大歓声も私の叫び声も耳には入らない。

 

 

 金沢の意地は中央に届こうとしている。

 

 

 

◇  ◾️  ◇  ◾️  ◇

 

『先頭はまだまだセイウンスカイ、2バ身のリード。2番手からカナメが追い込んでくる。そこから開いてエモーションがスパートをかけている。内ではキングヘイローの手応えはどうだ。注目のスペシャルウィーク、脚色はどうだ?』

 

 行ける! 残すは最後の直線だけ、中山と違って坂もない。だったら今の私に差せない理由はない! 

 

 残り1,000mからのもがきあい。私も苦しいけどセイウンスカイも厳しいのは間違いない。

 ここからは気力の勝負。勝利への最後の要は私の根性。

 

「差されろー!!!」

 

 もう、後ろは関係ない。あの娘を差すだけ、それだけを考えて走る!

 

 残りは1.5バ身。

 

 脚が痛い。肺が痛い。頭が痛い。それでも先頭は潰しきる!!!

 

 

◇  ◾️  ◇  ◾️  ◇

 

 

『しかし残り200で先頭はセイウンスカイ。38年ぶりの逃げ切りなるのか。追いすがるカナメは1バ身後ろ。大外突いてはスペシャルウィークが上がってくるがこれは届くのか』

 

 大地の弾む音が聞こえる。

 間違いない、後ろとの差が縮まって来ている。

 残りは1バ身ってところかな?

 

 それでも、残りは200m。約23~24秒しのげばいいだけ!

 

 それにこの感覚、スペちゃんもキングも私には届かない。

 だったら、この死神から逃げきれば私の勝ちだ!

 

◇  ◾️  ◇  ◾️  ◇

 

 前が遠い。

 脚はまだ残っているのに。

 

『しかし残り200で先頭はセイウンスカイ。38年ぶりの逃げ切りなるのか。追いすがるカナメは1バ身後ろ。大外突いてはスペシャルウィークが上がってくるがこれは届くのか』

 

 どうして!!!

 

 登坂のペースアップのタイミングでついていかなったから? 

 下り坂での加速が鈍かったから?

 

 いや、考えてもしょうがない!

 とにかく全力で走る! 

 

 ただ、それでも前に届かないことは、この時点で分かってしまっていた。

 

◇  ◾️  ◇  ◾️  ◇

 

 前との差は詰まってきている。ただそれでも、捕まえることは難しい。

 

 言い訳は嫌いだけど、これは距離の壁だ。内々を回ってロスを抑えたつもりだったけれど、こればかりはしょうがない……なんて言うわけないでしょ。

 

 えぇもちろん、最後まで足掻いて見せるわ。まだレースは終わっていないんだから。

 

 勝負は最後の最後まで何が起こるか分からない。

 

 

 それに諦めるなんて、一流の私には有り得ない行為だもの。

 

 

◇  ◾️  ◇  ◾️  ◇

 

「やるじゃんライバル」

 

 前でグングン先頭との差を詰めていくあの娘を見ると誇らしかった。

 

 ただ一つ誤算だったのは。

 

「意外と脚使えたなぁ」 

 

 私の伸びが意外とよかったことだ。これなら賞金くらいは咥えて帰ってこれたかもしれなかったなぁ。

 

 まぁいい。だって今はそれよりも欲しいものがあるから。

 

「菊花賞ウマ娘に勝ったっていう肩書きくらいもらってもいいでしょ?」

 

 それくらいの見返りはあったっていいでしょ?

 

◇  ◾️  ◇  ◾️  ◇

 

 残り100m、先頭までは半バ身。

 

『残すかセイウンスカイ、差すのかカナメ。皐月賞ウマ娘のプライドが地方ウマ娘の意地か』

 

 勢いは私の方が上。差せる、差せる、差す!!!

 

 若葉SをJDDを思い出せ。いつだって私のライバルは、私を差し切ったじゃないか。

 だったら私にもできないわけはない!!!

 

 

◇  ◾️  ◇  ◾️  ◇

 

 あと少し、あと少しで粘り切れる。

 余計なことは考えるな。腕を振れ、脚を動かせ!

 

 死神の鎌が首にかかる前に、ゴール坂を駆け抜ける。

 

『粘る、粘る、セイウンスカイ。ゴールまでは残り50m』

 

 私はキングやスペちゃんの末脚もしのいできたんだ。ここで負けたら、これまでのレースの価値だって下がる。

 

 いや、そんなことはどうでもいい。

 

 シンプルに私が勝ちたいんだ!!!

 

『セイウンスカイ、カナメ、セイウンスカイ、カナメ。2人が並んだままゴールイン。二冠達成か地方の夢が叶ったのか。これは写真判定です』

 

 

 

◇  ◾️  ◇  ◾️  ◇

 

 聴覚が、視覚が、そして世界が現実に戻る。掲示板に写るのはレコードの赤い文字。そして写真判定の文字。

 

「おい、今の差しきったか?」

 

「いや、俺の目にも分からなかった。脚色は勝っていたが…」

 

 横の2人もレースに見入ってたんだろう、どこか夢うつつのようだ。

 けれど、この2人も分かっているはずだ。

 

「2着だ。内のセイウンスカイが残っていた」

 

 その言葉を聞いて黙る2人。そしてすぐに大きな歓声が上がる。

 

『写真判定の結果、1着はセイウンスカイ。皐月賞ウマ娘の意地が僅かに残していました。2着カナメも大健闘、歴史に残る菊花賞でした』

 

「いいレースだった」

 

 私の口から出たのはそんな言葉。

 

「確かにあのチビは頑張ったな」 

 

「あぁ、カナメは頑張った」

 

 誰が彼女の走りをバカにするだろうか。少なくとも金沢の関係者は誰一人そんなことを言うはずがない。

 ただ、それでも。

 

「「「-------‐---------かった」」」

 

 きっと3人、思うことは一緒だったはずだ。

 

◇  ◾️  ◇  ◾️  ◇

 

「サウス、一つお願いがある」

 

「どうしたシロヤマ? あんたにしちゃ珍しいな」

 

 きっと彼女は来年も中央に挑戦するんだろう。だったら、金沢の先輩として彼女の道を切り開く。それに私自身が彼女の行く末を見届けたい。

 

「確かにそうかもしれない。サウス、私が中央でデビューする予定だったのは知っているかい?」

 

「あぁ? まぁあんたの一族は有名だからな。当然中央で走るもんだとは思うな」

 

 私の一族、それはシンボリ。

 その名前はウマ娘に携わる者で知らない者はいない名家だ。そして私のかつての名前でもある。

 尤も今となっては忌み嫌うだけの名前だが。

 

「そうかなら話は早い。私は端的に言って中央が嫌いだ。というより金沢が好きだ」 

 

「そりゃ知ってるさ。お前ほど金沢を大事にしてるウマ娘はいない。余所者の私にも分かる。で、そろそろ本題を言え」

 

「私は浦和記念に出走する。どういう意味か分かるだろう?」

 

 浦和記念、このレースで二着以内に入ればあるレースへの優先出走権が得られる。

 

「それは私のためか、それともあのちびのためか?」

 

「分かっていることを聞いてどうする?」

 

 答えは決まっているんだから。

 

 

 

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