地方は中央の2軍じゃない!   作:小魔神

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ジャパンカップ
第51話


『菊花賞回顧。

 

 クラシック最終戦菊花賞はセイウンスカイの二冠で締め括られた。改めてこのレースを振り返ってみよう。

 

 1着セイウンスカイ。

 序盤からハナを切ると緩急自在な見事なペースメイクで先頭の座を譲らなかった。特に中盤での息の入れ方は見事。前走、メジロブライトら強豪を相手に完勝した実績は伊達ではなかった。

 後方からの仕掛けが早かったために最後は詰め寄られるも、最後まで粘り通し二冠達成。これからも非常に楽しみなウマ娘の1人。

 

 2着カナメ。

 逃げ宣言をしていたことから序盤の出方が注目されていた。結果的にテンは出していったもののセイウンスカイに前をあっさり譲ったのは不満。逃げ宣言とは一体何だったのか。

 道中はそのセイウンスカイを見る形で進め、後方勢の追い上げに合わせて進出。ハナ差まで追い詰めるも結果的には道中でセイウンスカイを楽にさせていた分届かなかった。

 戦績的にも狙いにくい1人ではあったものの世代上位の力を持っていることは示せた。

 

 3着スペシャルウィーク

 圧倒的1番人気も差し届かずに3着。皐月賞同様外枠が響いたか。

 セイウンスカイのペースに惑わされたのか終始後方の追走。坂を下って脚を伸ばした頃には既に届かない位置取りになっていた。上がり最速の脚は使っているだけに道中の位置取り、仕掛けるタイミングといったミスが目立つ結果に。力量は世代上位なだけに、次のレースでは期待したい。

 

 4着エモーション

 以前から注目されていた良血ウマ娘がここで好走。特に今回のレース直前のトレーニングではそのタイムが注目されていた。

 道中やや早めに仕掛けたことから最後はスペシャルウィークに差されてしまったものの、自ら動いて勝ちに行ったところは高く評価できる。元々晩成評価のウマ娘、これからの飛躍に注目したい。

 

 5着メジロランパード

 道中6番手からジリジリと脚を伸ばし掲示板を確保。キレは無いものの持続力のある末脚はまさにメジロといったところ。最後も垂れてはいないだけに、もう少し早めに動いてスタミナを活かす形になれば、着順を上げられた可能性も。長距離の消耗戦が予想される場合は今後も軽視できない。

 etc.......』

 

 目の前に広げられているのは菊花賞の記事。何社かの記事を見比べて見ても書いてあることは大体一緒。

 

「思ったより反響少なかったな」

 

「まぁ、一応二番手ではありましたからね。これが後ろから捲ってたら文句言われたかもしれませんけど」

 

 懸念していたのは私の逃げ宣言の反響。思えば戦前からトレーナーさんはそれを心配していた。もっとも私が考えていたように大事にはならなかったみたいだけど。

 

「全く、図太いなお前は。ネットあたりじゃ叩かれてるぞ?」

 

「いいです、いいです。結局、バ券外した人たちの恨み言に過ぎませんから。あの人たちも自分の身を削って稼いだお金を失ってる訳ですから、それくらい言わせてあげましょうよ」

 

 ちなみに私はエゴサをよくする。

 基本的にレースの後は悪口しかないし、今回もいつも通りと言えばいつも通り。まぁ、文句の一つくらい言いたい気持ちは私にも分かる。

 

 まぁ終わったレースの話。今は未来の話をしよう。

 

「というわけで、当然次走はジャパンカップです」

  

 クラシックの時には走ることのできなかった東京2,400m。今回は堂々と獲得賞金で出走できる。

 

「それはそうだろうとは思ってたよ。作戦もこの間のやつだろう?」

 

「はい。この前も言いましたけジャパンカップではエルちゃんだけをマークします。もっと言うと後ろに張り付きます」

 

 セイウンスカイの時とは違う本気のマーク。はっきり言ってエルちゃんが凡走したら共倒れになる。それでもエルちゃんがそうなるとは考えられない。

 

「まぁ、お前の好きなようにやってみろ。そういえば東京の芝は初めてだったな」

 

「確かにそうですね。前走ったのはダートでしたから。でも関係ないですよ、どこで走ろうとマークする相手はただ一人ですから。ちなみに他にはどんな娘が出走する予定ですか?」

 

「そうだな、まずはスペシャルウィーク。府中2,400はダービーと同じ舞台だ、俺の中ではこいつが1番怖い。そして女帝エアグルーヴ、こいつも実力者だな。外国勢だと北米芝チャンピオンなんかも出走するそうだ」

 

 何やかんやスペシャルウィークと一緒に走るのは4度目。何気に中央では1番走ってる相手だ。とはいえ菊花賞で先着した相手、今回も負ける気はない。ただシニアの方はあんまり分からないんだよね。後外国の娘も。

 

「なるほど」

 

「興味ないんだったら聞くな」

 

「いや、ばれちゃいました? だって誰が出走するとか関係ないですからね」

 

 正確には興味じゃなくて知識が無いんだけどね。けど、誰が出走しようと関係ないっていうのは本音。厳密に言うとエルちゃんには出走してもらわないと困るんだけど。

 

「ところでな?」

 

「はい?」

 

「お前、どうやってエルコンドルパサーの番手につける気だ?」

 

「えーと…。また逃げ宣言でもしますか?」

 

 やばい何も考えてなかった‥。とりあえず菊花賞と同じ作戦、つまり逃げ宣言からエルちゃんを迎入れるくらいしか思いつかないんだけど。

 

「今回は通用しないな。何て言ってもチアフュージティブがいる。こいつが間違いなく先手を奪う」

 

「その娘は強いんですか?」

 

 聞いたことないウマ娘だ。まぁ、シニア級のウマ娘なんてさっきも言ったようにほとんど知らないんだけどね。

 

「逃げればしぶといタイプだ。そして何より徹底先行タイプ。生半可には前を譲らない。それにそもそもエルコンドルパサーは逃げるタイプではないしな」

 

「じゃあどうしたらいいですか?」

 

「枠が隣なら簡単なんだがな。エルコンドルパサーもテンは早い。まず出遅れたら終わりだ。1番いいのはエルコンドルパサーの内枠を引いてエルコンドルパサーを迎入れることだな」

 

「外枠の場合は?」

 

「無理だ。少なくとも真後ろはとれん。こればっかりは運だな。なに、レースは枠順が発表されてから行われるんだ。外枠を引いたときのことはその時に考えればいい」

 

 えー、結局最後は運勝負か。まぁ、それも悪くないか。どっちにしろ自分の実力で勝ちきれない私が悪い訳だし。運を味方につけるために神頼みでもしてみますか。 

 

◇  ◾️  ◇  ◾️  ◇

「エル、本当にジャパンカップに出走するんですか?」

 

 寮でテレビもつけながら呟く。

 私、グラスワンダーのルームメイトであるエルコンドルパサー、彼女はマイラーだと周りの人たちは言う。かくいう私もエルはマイルの方が向いていると思います。

 

「もちろんデース。マイルチャンピオンシップと迷いましたが今のエルならどっちでも勝てますから」

 

 ただ、今のエルは自信に満ち溢れている。今の彼女にはジャパンカップを勝つ姿か想像できているようです。

 

 私もそこを目指していましたが賞金の関係で出走は不可能になってしまいました。

 とはいえ、エルと戦う機会はまだあります。

 

「私は今回出走しませんが、有マ記念には間に合わせるつもりです。決着はそこで」

 

 有マ記念、このレースはファン投票で出走権利が得られます。この制度なら私も出走できます。

 

「…エルは有マには出走しません」

 

 ただエルの言葉は予想外なものでした。

 

「それはどうして?」

 

「有マは確かに日本で一番盛り上がるレースデス。でも世界的な評価はジャパンカップの方が上。そっちを勝ったなら無理をする必要はありませんから」

 

 エルの海外志向が強いことは前から知っていました。確かに有馬記念は特殊なレースですし、ジャパンカップの方が世界的な評価が高いのは外国生まれの私にはよく分かります。

 

 ただそれでも、私に勝ち逃げしていくのは気に食わない!

 

「つまり、ジャパンカップに負けたら有マに出走すると?」

 

 エルと決着をつけるためには有マ記念に引っ張り出すしかない。そのためにはジャパンカップで名声を得られなければいい。

 

「さぁ、どうデスかネ? でも、エルが負けることなんて有り得ません。グラスがエルの首を取りに来ますカ?」

 

「…今の私にはそれはできません」

 

 そう、前走のアルゼンチン共和国杯で惨敗した私はジャパンカップに出走するための賞金を得られていない。

 つまり他のウマ娘に託すしかない。

 

「だったら、スペちゃんデスか? 今のスペちゃんには負ける気はしませんけど。後はエアグルーヴ先輩デスかね」

 

 確かにダービーの時のスペちゃんなら今のエルを打ち負かす可能性もあったかもしれない。でも、今のスペちゃんには難しい。

 

 同じチームのエアグルーヴ先輩は確かに実力者ではある。それでもエルに届くかと言えば何とも言えない。

 

 そんなことを考えるとテレビでちょうどジャパンカップの特集が流れていた。

 そして、そこに映っていたのは私も見知っていたウマ娘。 

 

『レースの作戦ですか? 決まってます。エルコンドルパサーをひたすらマークそれだけです』

 

『エルコンドルパサーですか。菊花賞で走ったスペシャルウィークや、女帝エアグルーヴなどはどういう対策を?』

 

『していません。私がエルコンドルパサーを差し切れば一着ですから』

 

 そのウマ娘は菊花賞ハナ差2着の公営の星。ただ彼女にそれを託すには荷が重い。はっきり言って実力不足だ。

 ただそれでも。

 

「いや、一人だけいるかもしれないデスね」

 

 隣のエルだけは真剣にテレビの画面を見つめていた。

 

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