「やぁ、少しいいかな?」
「どうした、お前が声を掛けるなんて」
カナメのトレーニング中、声をかけてきたのはシロヤマだ。トレーニング中と言っても伝えたメニューを消化するだけだから、こいつと話すのは問題ない。
「この前の浦和記念を見てくれたかい?」
「ん? あぁ、お前が完勝したレースだな。全くあそこまで走れるなら白山大賞典も取れただろうが」
「ありがとう。けれどあの時のサウスは中々手強いな。グリンも完全にお手上げだった」
白山大賞典はサウスがグリンを突き放しての圧勝。グリンも決して弱いウマ娘じゃない、適正距離なら中央オープンでも戦えるレベルは持っている。それでも、今のサウスには歯が立たない。とどのつまり、今のあいつには交流重賞を制覇する力が間違いなくある。
ただ、そういう意味なら目の前のこいつにもその力はあるわけだがな。
「で、本題は?」
「私は東京大賞典に出るつもりだ。そしてサウスも」
「なるほど、そのための浦和記念か。それでどうした?」
浦和記念の上位には東京大賞典の優先出走権利があるからな。こいつの場合、真っ当に出走しようと思っても獲得賞金でハネられるわけで、浦和記念を走る必要があったというわけだな。
「なに、カナメにもぜひ出走してもらいたくてね。もちろんジャパンカップで勝ったならその必要はないのだけれど」
「お前、何をする気だ?」
「カナメを勝たせてG1ウマ娘にする! そうすれば来年以降の出走もしやすくなるだろう? なに、勝たせるといっても大したことはしないさ。」
なるほど。確かに地方のウマ娘はシニア級に上がると一気に出られるレースが少なくなる。ただこれには抜け道があって、G1を獲得してるウマ娘は中央のウマ娘と同様な方法で出走権を得られる。
こいつは来年以降もカナメを中央に挑戦させるために、こんなことを言っているにちがいない。
「具体的には?」
「サウスが前を叩いてペースを作る。私は南関東の哲学者を抑えきる」
つまりペースメーカーと後ろの牽制役を用意するわけだ。
ただそれでも懸念はある。
「それができれば理想だが、あの二人は日本ダート界の二強といってもいい実力者だぞ。特に南関東の方は2,000mだと敵なし。今のお前に抑えきれるのか?」
し。今のお前に抑えきれるのか?」
あいつの実力は、はっきり言って歴代のダートウマ娘の中でもトップクラス。シロヤマも実力者ではあるが、指導者の俺から見てもその力量には差がある。
「なに、こう見えても私はそれなりに名前が売れている。向こうが勝手に意識してくれるさ」
確かにレース中はそういった細かいところが大きな差にはなる。それは間違いない。だけどこれだとまだ届かない。
「すごい自信だな。ただそれだけだと埋まらない差はあるがな」
「それだけのパフォーマンスを見せてきた自負はあるからね。それに相手を大外を回させることくらいならできるさ」
「確かに全盛期のお前は地方トップクラスではあったな」
ニヤリと笑って言うシロヤマだが、確かにそれは間違いじゃない。こいつの走ったダービーグランプリのメンバーはかなり揃っていた。その中でこいつは圧勝しているわけだ。
後、さらっと恐ろしいこと言うんじゃねぇよ。そういうのは今のご時世うるさいんだから。
「まるで今は全盛期ではないみたいな言い方じゃないか」
「実際にそうだろ? 体の調子はいいのかもしれないが、出力が落ちている」
あのダービーグランプリの時は調整不足であのパフォーマンスだ。水沢の小回りを後ろから動いて差しきるっていうのは中々できることじゃない。
が、今のシロヤマにはそれはできないはずだ。
「まぁ、それは否めない。どうしてもギアの入りに時間がかかるようになってはいるね。ただそれでも、私の力量はそれなりのものはある」
「あの浦和記念を見ればそれも間違いじゃないんだろうがな」
2着の名探偵もかなりの実力者。そいつをねじ伏せているわけだから、今のシロヤマの力は疑う余地はない。
ただそれでも、クラシック級の時に感じた凄みはなかった。
まぁ、当の本人がそこら辺は1番よくわかっているとは思うがな。
「それで、どうだい? カナメを出走させてくれるかい」
「最終的にはあいつが決めることだがな。ただひとつ、確信できることはある」
「なんだいそれは?」
「あいつが出走しても、十中八九勝つことはできないぞ」
だってあいつ、冬のパサパサのダート走れるほどパワーないしな。JDDもはっきり言って周りが低レベルだっただけ。
要は今のあいつにダートの一線級の力はないってことだ。