「カナメ、ちょっと話に付き合え」
「どうしたんですか、藪から棒に。別に暇だからいいですけど」
ジャパンカップの会場である東京に向かう新幹線の中でトレーナーさんが話しかけてくる。ちなみにグリーン車に乗っちゃってます。
「ジャパンカップの地方ウマ娘の最高順位をしってるか?」
「それくらいは知っていますよ、二着です。たしか、シンボリルドルフが勝ったときの」
公営の星が追い込んでくるっていうフレーズは頭に残っている。
ただそれでも勝者のシンボリルドルフには敵わなかったわけだけど。
「あぁそうだ。つまり地方のウマ娘は勝ったことがないわけだな」
「そうですね」
「なぁカナメ。俺はお前に期待していいのか?」
たまに出す真剣な声色でトレーナーさんが言う。別にそんなに真剣なテンションで話すことでも無いとは思うんだけど。
「今さら何を言っているんですか」
「皐月賞ははっきり言って、全く期待していなかった。菊花賞も好走したら嬉しいくらいの漠然とした期待だけだった。言ってみればどこか夢を見ているような気持ちだった」
なんかムカつくな。皐月賞はともかく、菊花賞はもうちょっと期待しておくべきだと思うんだけど。トライアルも勝ってるんだし。まぁ他にも理由はあるけど。
と、そんな不機嫌な感情が声に出たのか、どうも冷たい返事をしてしまう。
「なら夢の続きを見ればいいんじゃないですか? でもトレーナーさん、こんなこと言うのはあれかもしれませんけど、そんなの関係ないですよ」
「関係ない?」
「えぇ。トレーナーさんがいくらこのレース中に私に期待しようが祈ろうが、勝敗には1ミリも関与しません」
祈って勝てるなら、教会やお寺から人を連れてくれば良いだけだからね。勝敗を決めるのはいつだって実力と運だけ。そして圧倒的な実力差の前では運すらもほとんど影響はない。
「また、叩かれそうなことを言うんだな」
「それはそうですよ。人気者だろうが、金沢のCクラスのウマ娘が私に勝てると思いますか? 無理ですよね、応援の有無なんてそんなものです」
Cクラスのウマ娘のスパート位なら、私はウマなりで出すことができるわけで、まず負けることはない。
「でも、応援されるのは満更じゃないだろ?」
「よくご存知ですね。何と言っても私の承認欲求は筋金入りだそうですから。でもねトレーナーさん、私はトレーナーさんに応援してもらう必要はないんです」
確かに応援されるのは悪くない。むしろどこか自慢気な気持ちになりさえする。応援してくる人たちに報いたいとも思う。
でも、トレーナーさんに応援されるのは違うんだよね。いや、応援されたくないって意味じゃなくてね。
「だったら、何をすればいい?」
「何もしなくていいです。トレーナーさん、私が無事にゲートに入った時点でトレーナーさんの仕事は終わっているんですよ。レースっていうのは、作品の展覧会みたいなものなんですから」
「お前が作品か」
「えぇ、中々ここまでの作品はありませんよ? 何と言っても菊花賞2着ですから。それにトレーナーさん、期待とか応援とか寂しいこと言わないでくだいよ」
「どういう意味だ」
「他人行儀はやめてほしいってことですよ。私はトレーナーさんの作品って言ったじゃないですか? だったら見ている方向は一緒でしょう? 勝ってくれじゃないんですよ、勝つ! ただこれだけです」
自分の作品を展覧会に出して応援はしないでしょ?
トレーナーさんと私はレース中は一心同体。そこに至るまでの過程でお互いの意見はぶつけ合っているんだから。少なくとも私はそう思っている。レースが終われば、それはまた別だけどね。
私の言葉が響いたのかトレーナーさんがしばらく黙り込む。まぁ確かに、結構良いこと言ったしなぁ。トレーナーさんも感じるものがあるんでしょ。
そして沈黙のあと、トレーナーさんがいつものテンションとにやけ顔で口を開く。
「冷静に考えると、お前、めちゃくちゃ恥ずかしいこと言っている自覚あるか?」
ぶっ飛ばすぞこのやろう!?