地方は中央の2軍じゃない!   作:小魔神

56 / 92
第56話

 今の私は走れない。

 来年の私も走れないと思う。

 

 後悔はある。

 あの時、どうしてレースをやめなかったのか。どうして無茶をしたのか。

 

「シャインちゃんどうしたの?」

 

「え、いや何でもないです。ただ、もしかしたら私もあそこで走っていたのかなって」

 

 今日のレースには私と走った娘が2人も出走している。それに私はその2人に勝ったこともある。

 

「なるほどね。まぁそういう気持ちは分からなくもないわ」

 

「自分でも分かっているんですけどね。私のレベルじゃ無理だって」

 

 当然だけど、私の走りだとこの舞台だと手も足も出ない。そんなことは分かってる。追走できれば御の字だ。

 グリンさんも一流のウマ娘だ。そんなことは分かっているはず。

 

「何言ってるのシャインちゃん。だったらこう考えましょ」

 

「え?」

 

「今日の一番人気のスペシャルウィーク、それにカナメちゃん。2人にシャインちゃんは勝っている、要は今日のレースは敗者復活戦てことよ」

 

「壮大な敗者復活戦ですね」

  

 思わず笑みが溢れる。確かに考えようによっては間違いないかもしれない。だって少なくとも私はあの2人には勝ったんだから。

 

⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎

 

『例年、ハイペースで流れるジャパンカップ。今年も逃げ宣言チアフュージティブが作るペースはそうなるでしょう。注目の1番人気スペシャルウィークはどこで構えてどこから動くのでしょうか』

 

 ゲート入り前の輪乗り。この状態が1番緊張するんだよねぇ。特に今回は中央では初めてのシニア級も交えたレースだし、何というか雰囲気が違うんだよ。

 

「お、カナメちゃん。緊張してマスね」

 

「エルちゃんはもうすぐレースなのに余裕そうだね」

 

「まぁ、こういうのはなるようになりマスからネ。それじゃもうすぐゲート入りなので失礼しますデス」

 

 エルちゃんは流石だなぁ。考えてみればエルちゃんは府中でG1も勝ってるしシニア級と戦った経験もあるわけだし、場慣れしてても当然なのかもしれないけど。

 

『各ウマ娘、続々とゲート入りが進んでいきます。エルコンドルパサーも気合いつけて少し走りながらゲートイン』

 

 残すは大外の私のゲート入り。これが終わったらすぐにレースが始まる。ゆっくり時間を掛けられるのが大外の特権だ。

 精々、周りを焦らしてからゲートに入りますか。

 

『そしてゆっくりと大外にカナメが納まります』

 

 割れんばかりの大歓声が響き渡る。やっぱりジャパンカップは特別なレースなのが分かる。

 

 だけど気を取られるな、私にとって1番大事なのはとにかくスタートだ。大外枠から後手を踏んだら終わりだ。

 最初の一歩に全てを込める。

 

『全てのウマ娘がゲートに入って、第18回ジャパンカップのスタートです』

 

 そして号砲とともに同時にゲートが開かれる。

 

『おーっと、チアフュージティブ、そして外枠のエミールとカナメが出負けしましたが、さぁどうだ』

 

 ‥‥やっちゃったぁ。

 完全に出負けした。しかも隣の外国のウマ娘も私と一緒くらいのスタート切ってるし、内にも寄せられない。

 

『チアフュージティブ、あまり出はよくありませんでした。でも外から行く。やっぱりチアフュージティブがペースを握ります。そして内からエルコンドルパサーも前の位置。スペシャルウィークも4〜5番手の位置。その内側にエアグルーヴです』

 

 腹を括るしかない。中途半端に前を取りに行けば勝つチャンスは0。それなら少しでも勝つチャンスが残る選択を取る。

 

◇ ◾️ ◇ ◾️ ◇ ◾️ ◇

 

「あのチビ、ここで出遅れたか」

 

「そう言ってやるなよサウス。あいつは元々スタートが下手だったからな。むしろ今までが上手く行きすぎていた。問題はここからだ」

 

「とは言ってもあそこから大外を回って先団につけるのは苦労するのは間違いない」

 

「いやシロヤマ、俺にはあいつが何をしようとしているかが分かる」

 

 いつぞやのあいつのセリフを思い出す。

『私はスタートも悪いし、トップスピードでもエルちゃんに勝てない。なら、もうレースをぶち壊すしかないと思うんです。それが私のたった一つの勝ち筋』

 そういえば、確かあれも府中でのことだったな。

 

「流石だねトレーナーくん。やっぱり教え子のことはよく分かるんだね」

 

「あいつは俺の作品だからな」

 

 さぁ、やってやれ!

 

◇ ◾️ ◇ ◾️ ◇ ◾️ ◇

 

『さぁ2コーナーに入って先頭はチアフュージティブ。2番手にエマニュエル、ドイツのウマ娘。そして3番手にエルコンドルパサー。ステイゴールド、そしてスペシャルウィーク、内のコースにエアグルーヴと続きます」

 

 私のとった作戦は最後方からの大捲り。なんか実家に戻った安心感があるような無いような。本当は先行したかったんだけどね。

 

「そしてポツンと最後方に地方から参戦のカナメが追走しています」

 

 きっとこのレースの決着タイムは2分25秒くらい。今のペースは出遅れたせいで、よく分からないからとりあえず前半1,000mを59秒ってことにする。もうこれはしょうがない。

 

 今の私は先頭からはざっと20バ身くらい。秒数にすると3.5秒差くらいかな。

 つまり私の1,000メートル通過は約62秒。ここから残りの1,400mを83秒で走ればいい。大体1ハロン12秒、最後はちょっと頑張って上がり3ハロンを35秒でまとめれば勝てるはず。

 

 ‥‥そう考えるとちょっときついかも。

 

 いや変に考えるのはやめよう。向正面で仕掛ける。ここがちょうどレースの折り返し地点。ここから先頭集団ともがきあう。

 

『1,000m通過は60秒。思っていたよりスローな流れになったか』

 

 さぁ、やってやる!

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。