『さぁ、直線手前で先頭チアフュージティブのリードが詰まってきた。虎視眈々と前を狙っているエルコンドルパサー! その後ろにはピタリとカナメがマーク。エマニュエルは苦しくなったか? エアグルーヴ、スペシャルウィークが続きます』
日本のレースはレベルが低い?
誰だ、そんなことを言ったのは。
私、アメリアクラウンは昨年のエクリプス賞の最優秀芝ウマ娘だ。そんな私がここまで動けないでいる。本来なら私の得意パターンは捲りを打ってからの4角先頭で押しきることだ。
ただ、このレースは私が仕掛けるよりも早く捲りを打ったウマ娘がいた。それを見てしまったのがよくなかった。先行集団が踠き合うならよかったが、このざまだ。
あの捲りを打ったウマ娘は相当切れる。お陰で私の勝ち筋はかなり薄くなってしまった。
とはいえ、私の最大の武器は直線での末脚だ。日本のバ場はスピードが出るのは分かっている。後方番手のこの位置からでもやれるだけのことはやってやろう。
◾️ ◇ ◾️ ◇ ◾️ ◇
ちょっとアメリア、まだ仕掛けないの?
流石にこの位置は厳しいわよ。
私、エミールにとってこのレースで最も警戒するのは北米芝チャンピオンのアメリアだ。昨年のブリーダーズカップの走りは見ればそう思うのも仕方ない。
私も重賞を6勝しているけど、それと比べても彼女の力は生半可なものじゃない。
それでもこの位置からは届くのアメリア? いっそ、私一人で仕掛けようかしら。いや、それはないわね。私が勝つならアメリアの仕掛けに乗るしかない。
あぁもう早く仕掛けてよアメリア。
心のなかで私のすぐ後ろにつける彼女に悪態をつく。
◾️ ◇ ◾️ ◇ ◾️ ◇
『さぁ直線を向いてスペシャルウィークは早くも外に出している。先頭はエルコンドル、エルコンドル。後ろにはカナメがピタリと続く。インコースからはエアグルーヴ』
やっぱり脚が重い。
ただそれでも…!!
思い切り脚を踏み込む。前のエルちゃんを捉えれば私の勝ちだ。ただそのとき、視界が僅かに歪む
「えっ?」
『スペシャルウィーク、スペシャルウィークが来た! しかしここでスペシャルウィーク、少し寄れたか!?』
何が、一体何がだめなの?
ダービーと同じ舞台のはずなのに。あの時は差しきれたのに。
◾️ ◇ ◾️ ◇ ◾️ ◇
『さぁ直線を向いてスペシャルウィークは早くも外に出している。先頭はエルコンドル、エルコンドル。後ろにはカナメがピタリと続く。インコースからはエアグルーヴ』
よし。完璧なレース運びだ。道中常にラチ沿いをワンペースで走った私が、このレースで一番展開利を得ている。
あの様子ならスペシャルウィークはエルには届かない。なら相手はただ一人、エルだけだ。
昨年は例のあの人に阻止されたジャパンカップ制覇が見えてきた。
何とか身体を併せられれば必ず私が先着できるはずだ。昨年の天皇賞でもそうだった。認めたくはないが、私は筋金入りの負けず嫌いのようだ。
ただ、それが誤算だった。
◾️ ◇ ◾️ ◇ ◾️ ◇
キツイ、キツイ、キツイ!!!
やっぱり脚を使いすぎたかな?
エルちゃんの後ろを何とか追走しているけど、やっぱり辛い! エルちゃんは速いっていうのが改めて実感できたなぁ。
とはいえ仕掛けるしかないよね。まだ僅かに仕掛ける体力がある内に仕掛けないと勝つ可能性は0だし。このまま走れば2着も夢じゃないとは思うけどね。
そうと決まれば問題は内か外か。
ただ、エルちゃん間違いなく外を警戒しているはず。
‥よし決めた。内に飛び込む。身体を併せられればチャンスは0じゃない。それなら仕掛けるタイミング多少は脚が鈍る坂の登りだ。
よし今!
その瞬間、ドンという音と激しい衝撃が左肩を襲う。
「いった!!」
思わず声が漏れる。いや、本当に痛いからねこれ。ただ、私は体幹には自信がある。
『おっと、坂下でエアグルーヴとカナメが接触。エアグルーヴは体勢を崩したか、しかしそれでも立て直す。これが女帝の意地か』
チラリと横を見ればエアグルーヴが後退するのが見える。これで進路は取れたと思ったのもつかの間。
「やってくれたな」
すぐさま、エアグルーヴが私の横までポジションを戻す。どうやらこの女帝さんは非常に負けず嫌いのようだ。
「お互いさまですよ。それに…」
あなたに構っている暇はない。
前を見ればエルちゃんとの差は少し広がっている。後ろからは足音も聞こえてくる。
それでも。
「勝つのは私だ!」