『さぁ直線を向いてスペシャルウィークは早くも外に出している。先頭はエルコンドル、エルコンドル。後ろにはカナメがピタリと続く。インコースからはエアグルーヴ』
残すは直線500m。
脚にはまだまだ余裕が残っていマス。
さぁ、私に挑戦状を叩きつけるのは誰デスか?
スペちゃん?
エアグルーヴ先輩?
それとも‥
『スペシャルウィーク、スペシャルウィークが来た! しかしここでスペシャルウィーク、少し寄れたか!?』
まずはスペちゃん。
でも、残念ながらスペちゃんは脱落デス。
本調子のスペちゃんなら良い戦いができたかもしれませんが、今のスペちゃんならこんなものでしょうネ。少し心残りデス。
残り400m。
坂を登る。次に仕掛けて来るのは誰デスか?
このままだと、私が勝っちゃいマスよ。
ドンと鈍い音が響く。
『おっと、坂下でエアグルーヴとカナメが接触。エアグルーヴは体勢を崩したか、しかしそれでも立て直す。これが女帝の意地か』
あちゃー、この展開は予想外デス。
エアグルーヴ先輩とカナメちゃん、お互いに潰しあっちゃいましたか。そうなると、エルの独走になっちゃいマスよ?
これだと、警戒するのは外からの追い込み勢だけデス。
でもこの展開なら、届かないのは分かりマス。
はぁ、心のどこかで私を負かすウマ娘がいると思っていましたケド、このままじゃ私本当に海外にいっちゃいマスよ?
それでいいんですか、スペちゃん、エアグルーヴ先輩? 日本に敵はいないと思われて本当にいいんデスか?
『先頭エルコンドルパサー、手応えはまだ余裕があるか。しかし内からカナメが伸びてくる。ここで先頭2人が体を併せた。立て直してエアグルーヴ、スペシャルウィークも前を追いかける。まだ勝負の決着は分かりません』
「なんて、思っていないよねエルちゃん? 首を取りに行くって言ったでしょ!!!」
心底驚いた。外を警戒していた私の意識の外から飛んできたその声に。内から上がってきたのは沈んだと思ったあのウマ娘。
「カナメちゃん、よくここまで来れましたね」
思わず笑みが溢れる。
カナメ、半年前は相手にもしなかった彼女が私の横まで上がってきていることに。まさか、私の最後の障害が彼女になるなんて。
チャレンジャーの挑戦は受けるのがチャンピオンの使命。
だから!
「全力で叩き潰しマス」
◇ ◾️ ◇ ◾️ ◇ ◾️ ◇
横に並ぶことはできた。
まだ全力で追い出してはいないエルちゃんに対してこっちは満身創痍だけどね。
とはいえ、体を並べたなら後は根性勝負!!!
『先頭エルコンドルパサー、手応えはまだ余裕があるか。しかし内からカナメが伸びてくる。ここで先頭2人が体を併せた。立て直してエアグルーヴ、スペシャルウィークも前を追いかける。まだ勝負の決着は分かりません』
坂の登りは耐えられる。腐っても私はダートG1で2着のウマ娘。そんじょそこらのウマ娘よりパワーはある。
ただ問題はここから。
『坂を登りきって、エルコンドルパサーが突き放す』
流石にスピード、瞬発力には差がある。
でも、まだだ。まだ終わらない。
『しかしカナメも食い下がる。エアグルーヴ、スペシャルウィークも伸びてきた』
喰らい付け。突き放されるな。瞬発力に差があるなら脚を早く動かせ。スピードに差があるならストライドを少しでも大きくしろ。
ようやく、あのエルちゃんに並んだんだ。ここで離されたら2度と追いつけないのは分かっている。
もっとだ、もっと。脚を動かせ。腕を触れ。そして首を取る。
『エルコンドルパサーが先頭だが、譲らないぞカナメ。残り200mで先頭2人の追い比べは続いている』
追い縋れている。あのエルちゃんに何とか喰らいつけている。
これならもしかしたらもしかするかも‥。
「もしかしまセンよ」
あまりに一瞬だったけど、その声は脳に響いた。それと同時にさっきまで隣にいたエルちゃんはすでに背中しか見えなくなっていた。
あぁ、突き放されたのか。まったく、まだそんなギアを隠していたなんてずるいよエルちゃんは。
『しかし、エルコンドルパサー抜け出した。カナメはここでいっぱいか。エアグルーヴ、スペシャルウィークも続くがエルコンドルパサーが完全に抜け出している』
強い、やっぱり強いなエルちゃんは。
これは勝てないや。
『エルコンドルパサー、今先頭でゴールイン。マイラーと呼んだのは誰だ。エルコンドルパサー2,400m文句なし。ターフの怪鳥は世界に向けて羽ばたくか』
ゴール板を通過したエルちゃんの背中を見つめながらゴールした私はどこか放心状態だった。
いったい私の着順は‥、いやそんなことはどうでもいい。
エルちゃん、いやエルコンドルパサーというウマ娘の強さで私の心は塗り潰されていた。
「あぁ、もう強すぎるよエルちゃん!!!」
全てを出し切った私は芝生に身を預けて、そんな言葉しか出せなかった。ただ、不思議と悔しくはなかった。純粋にその強さに心酔していたのかもしれない。
だからだろうか、寝転ぶ私に影をかけてくる存在の言葉にも本音を語ることができたのは。
「今頃、分かったんデスか?」
「いや、今年の2月から知っていたよ。でも私も強くなったでしょ?」
「そうデスね。まさか最後の障害がカナメちゃんになるとは思いませんでしたよ、まぁエルには及びませんでしたケドね」
「ハハハ、そういう時は褒めるだけにしておいてよね」