分かった人がいたら教えてください笑
第61話
「次走はどうする?」
「ジャパンカップの振り返りはいいんですか?」
練習前の恒例のミーティング。ジャパンカップ後初の本格的な練習を前にしてトレーナー室に私はいた。
にしても、トレーナーさんがレースの振り返りをしないなんて珍しい。
「あぁ。あのレースに関して俺が何か言うことはない。勝ちに行った良いレースだった」
「そう言われると照れますね」
「昔のお前なら出遅れた時点で捲りに構えるだけだった。それが上手くエルコンドルパサーの番手に入ったからな。結果的には大敗だが勝ちに行くにはあれしかなかった」
本当に結果だけがついて来なかったんだだよねぇ。そこについては割り切れているけど、後もう少しが踏ん張りきれなかったのは反省しないと。
「ハハ、ありがとうございます。ところで彼女が例の新人ちゃんですか」
部屋のすみっこにちょこんと座っているウマ娘に顔を向ける。ここまで一言も喋らないので、流石に気の毒になって話を振ったけど、まぁ新人なんてこんなもんだよね。私は最初からトレーナーさんとマンツーマンだったから楽だったけど。
「は、はい。サスライノマドです。よろしくお願いします」
サスライノマドね、よし覚えた。にしても、当然だけどテイエムオペラオーさんとは纏っている雰囲気が違うなぁ。まぁ、彼女と比べて見劣りしないウマ娘っていうのも少ないだろうけど。
「よろしくね。で、トレーナーさん次走の話でしたね」
「あぁ、にしても素っ気ないなお前。どっちかというと社交的な方だろうに」
「こういう場じゃなければ仲良くしますよ。でも、私の次走の話には関係ないでしょう?」
「同じチームメイトなんだ優しくしてやれよ。まぁいい。で次走だが大きく候補は2つ。有マ記念と東京大賞典だ」
「まぁ、そうなりますよね」
年末の大レースと言えばその2つだ。金沢にも中日杯と金沢ファンセレクトカップっていう大レースがあるけど、その2つには当然見劣りしてしまうのは否めない。
「俺としてはお前の好きな方に出て構わないと思っている」
当然出るレースは決まっている。本音を言うと、有マでグラスワンダーと戦ってみたい気持ちも無くはなかったんだけどね。勝てるかは置いておいてだけど。今の私にはこっちの方がいい。
「なら東京大賞典ですね」
「それは意外だな。てっきり有マ記念に出たがると思っていたが」
「私もカナメさんは有マに出走するものかと」
「東京大賞典にした理由はシロヤマさんとサウスヴィレッジさんに誘われたからです。金沢の二強に誘われたら参加しない訳にはいかないですよ」
私は意外と、先輩を立てるんだよね。当然、先輩の思いを無駄にすることなんてあり得ないわけで。それに考えようによっては私にとってはラッキー以外の何物でもない。
「その反応、シロヤマに聞いたか?」
まぁ、当然トレーナーさんも知ってはいるよね。シロヤマさんは、そこら辺の筋は通すだろうし。
「例のあれですか? 聞きましたよ。あの2人がそこまでしてくれるなら応えないといけませんね」
っと、この話は新人ちゃんに聞かせると不味いね。私は気にしないけど、あまりよろしいことではないだろうし。
「すまん、ノマドは席を外してくれ」
どうやらトレーナーさんも察してくれたみたい。新人ちゃんには悪いけど、ここは黙って帰ってほしいところだ。
「え、は、はい」
新人ちゃんはそう言うと不満そうな顔をしつつも部屋を出ていった。トレーナーさんも最初からつれてこないで欲しいよ。でも、何はともあれ肩の荷は降りた。
「いやー疲れましたよー」
「なんだ、妙にピリピリしてると思ったらあいつが原因か」
「先輩っていうのは威厳が大事ですからね。特に私みたいなタイプはこういう真面目な場所だとスイッチ入れておかないと」
じゃないとトレーニングでも甘くなってしまうからね。シャインちゃんはそういう切り替えが上手いんだろうけど、私にはそういうのは無理。緩い雰囲気になるのが目に見えている。
「まぁ、お前の考えにとやかく言うことはないさ。で、だ。東京大賞典だが、並大抵には勝てないぞ」
「えぇ。分かってます。正直、ジャパンカップより厳しい可能性もありますよね」
ジャパンカップは自分に対して完璧に展開が向けば、もしかしたらという期待はあった。けど、東京大賞典に関してはそういうヴィジョンが見えてこない。
「あぁ。お前は同舞台のJDDで2着だが、はっきり言ってあの時とはメンバーレベルが違いすぎる。あの時のメンバーで一流相手にも引けを取らないのはメテオディレクターくらいだ」
「一応、聞きますけどシロヤマさんやサウスヴィレッジさんでも通用しないんですか」
私の中で、ダートの強豪と言ったらこの2人だ。この2人にはダートで勝てる気はしない。押しも押されぬ金沢のツートップといったところだ。
「通用しないことはない。シロヤマは地方の頂点に立ったし、サウスも交流重賞を制している。ただ、勝てるかと言うとそれは厳しい」
「そんなにレベルが高いんですか」
「あぁ。今年のメンバーはかなりのものだ。特に注目すべきは2人。1人は南関東の哲学者サザンアップセット、もう1人は水沢の英雄ライネスアグレサー」
「話には聞いてましたけど、地方のウマ娘なんですね」
中央の壁に跳ね返され続けている私にとっては、尊敬せざるを得ない。地方は中央の2軍だなんて言われることもあるけど、ことダートに関しては中央が地方の2軍と言ってもいい。まぁ、中央の人たちの中にはダートを軽視している人たちがそれなりにいる訳なんだけど。
「この2人は規格外だ。地方の枠組みなんてとっくに飛び越えている。特に南関東の方は2,000mダートだと国内最強だ。過去を見てもかなりのレベルのウマ娘なのは間違いない」
「それほどですか。あのシロヤマさんが負けるところなんて中々想像できないですけどね」
「シロヤマは体質が弱すぎた。あの、ダービーグランプリの時も本調子とは程遠かったしな」
体調が悪くてあのパフォーマンスって、本調子のシロヤマさんってどのくらい強いんだろう?
それに前走の浦和記念も完勝だったし、そのシロヤマさんが勝てない相手かぁ。
とはいえ、そのシロヤマさんが私を勝たせると言ったんだし、何か策はあるはず。
「私が勝つにはどうしたらいいんですか」
「基本的にはシロヤマに着いていけ。あいつに仕掛けるタイミングを一任させろ。先行集団はサウスが何とかしてくれるはずだ」
うーん、シンプル!
ようはシロヤマさんを風避けに使って、走って頭を取れってことでしょ。それだけじゃ、足りる気がしないんだけど。
「それで勝てますかね」
「さぁな。シロヤマは南関東のを押さえ込むことに関しては自信ありそうだったが。それよりも俺はお前のダート適正の方を気にしている」
「トレーナーさんは昔から芝向きだって言ってましたもんね。でも、そこまで適正無いわけでもないと思うんですけど」
実際、金沢の重賞では勝っているし、JDDでも2着だったわけで。ダート適正が無かったらこうはいかないはずなんだけど。
「そりゃ金沢で走る分には十分だ。だが、G1レベルだとその適正差がもろに出る。お前は俺の教え子のなかでも、芝レースなら最高レベルの教え子だ。だが、ダートに限って言うならお前より走る教え子は何人かはいた。それでもそいつらは交流重賞では歯が立たなかった」
「これは、照れた方がいいんですかね」
「アホなことを言うな。いいか、今回のレースはお前1人じゃ絶対に勝てない。シロヤマとサウスに全てを託せ」
「わかりました」
私1人じゃ勝てないのは明らかだしね。シロヤマさんなら私と違って仕掛け所を間違えたりもしないはず。前が止まるかどうかはサウスヴィレッジさんに託すしかない。
とにかく期待を裏切らない走りをしないと。
「今度、あの2人も交えてミーティングをする。俺も確認しないといけないことがあるんでな」
☆☆☆☆☆☆☆☆
「で、ノマドは追い出されちゃったわけ?」
「そりゃ、ついていなかったな」
「ヒカルちゃん、ダズちゃん、そうなんだよー」
トレーナー室を追い出された私は教室でそのことをぼやく。相手はヒカルイナズマちゃんとダズリングフェリアちゃん、2人とも私の同期だ。
イナズマちゃんはデビューはまだだけど、ダズちゃんはすでに三戦三勝で重賞も制覇してる。おまけに金沢での人気もすごい。
私もすでにデビューはしているけど、全然人気なし…。ここまで8戦して1番人気も一回だけだし。人気はいらない一着が欲しいって言っていたウマ娘がいたけど、私は人気も欲しいよ。
「それにしてもカナメさんって意外と怖い人なのね。先輩たちの話を聞くとすごい優しい人だって聞くけど」
「あれだけのレースをする人なんだ、優しいだけの人じゃ無理なんだろ。逆に安心したよ」
確かにカナメさん、かなりピリピリしてたなぁ。トレーナーさんからは親しみやすい人だって聞いてたけど。
けど、ダズちゃんの言う通り締めるとこは締めるタイプなのかも。
でもこれだと、一緒にトレーニングするのも難しいかも。
「あー、カナメさんと併走とかしてみたいんだけどなぁ」
「ノマド、あんたすごいわね」
「流石の俺でもその勇気はないよ」