大井の2,000mを走るのはこれが2回目。
望んでいた軽いバ場にはならなかったけど、こればっかりはしょうがない。
勝ちにいく。ただそれだけのレース。
「シロヤマさん、サウスヴィレッジさん、よろしくお願いします」
それを支えてくれるのは2人の先輩。
金沢の二強だ。
「任せろ。私がポジションをとって、先行勢を潰しきる。お前が考えるのは後ろに差されないことだ。ゴールで脚を使い切れるように走れ」
白山大賞典の覇者、サウスヴィレッジさん。
この人にここまで言わせたんだ、無様な走りはできない。
「何、自分の走りをすればそれでいい。君の脚は私もよく見ている。仕掛けどころは任せてくれ。私が内を開けたらそこから突っ込んでくれ」
ダービーGPの覇者、シロヤマルドルフさん。
この人の献身を無下にする結果はいらない。
「はい。このレース勝ってきます!」
菊花賞2着の私カナメ。
その称号も今日まで、レース後の私はG1ウマ娘だからだ。
『年末の大井レース場。今年も日本中からダートの強豪が集結。地元の雄、サザンアップセットが迎え撃ちます』
まずはサウスヴィレッジさんのスタートだ。私もシロヤマさんもスタートは早くない。
申し訳ないけど、ここはサウスヴィレッジさんに託す。
『さぁ、各ウマ娘ゲートイン完了。スタートです、16人が飛び出しました』
私のスタートは五分。出遅れてもいないけど、ダートのG1だとどうしてもテンで置かれてしまう。
ただ今回はそれで構わない。
『バラついたスタートの中、飛び出していったのは3枠エクスレントバード、岩手の英雄はどうする? 3番ライネスアグレサーも上がります』
さぁ、ここからエンジンをかけていく。
◾️ ◇ ◾️ ◇ ◾️ ◇
流石に早いな。
私、サウスヴィレッジをしてもそう思えるテンのダッシュ力だ。
だか、ライネスアグレサーが控えてくれたお陰でポジション自体は問題なくとれそうだ。
『金沢から参戦、白山大賞典の覇者サウスヴィレッジはライネスアグレサーのすぐ後ろに入ります。次いで古豪シロヤマルドルフ、新進気鋭のカナメがあがって金沢の3人が前へ上がってきた』
大井はスタートから最初のコーナーまでの直線が500mもある、これだけあればスタートの遅いあいつら2人でも位置をとれる。
はとれる。
問題はここからだ。
見れば先頭のウマ娘はかなり飛ばしている。おそらく大逃げでの一発を狙っているんだろうが、このメンツならそれは無理なのは明白だ。
どうする?
私の脚なら大逃げの並走くらいなら問題はない。ただそこまでしたところで意味はない。むしろライネスアグレサーあたりには絶好の展開になってしまうからな。
『さぁここで隊列は固まってきたか? 先頭のエクセレントバードが飛ばして、注目のライネスアグレサーは3番手。その後ろにサウスヴィレッジ、内からガールダイナが押し上げる。外並ぶ形でシロヤマルドルフ、カナメが続いている。ダービー馬ガヴァナーはその外を周ります』
と、余計なのが1人上がってきたな。動けるように内を開けていたのが仇になったか。
だが、あれはシロヤマに任せるしかない。
私のやることは一つ。
『ここでサウスヴィレッジが位置を一つ開けてライネスアグレサーの横につけました』
こいつを潰しきるだけだ。
「さぁ、勝負といこうぜ英雄様よ!」
「えーと、誰?」
キョトンとした顔を向けるライネスアグレサー。
よし決めた。こいつだけはすきに走らせない。
◾️ ◇ ◾️ ◇ ◾️ ◇
サウスはよく位置をとってくれた。
お陰で勝負圏内には持っていける。
ただ、誤算が一つだけ。
『内からガールダイナが押しあげる』
ガールダイナ。去年の帝王賞の覇者だ。
私の見立てではサザンアップセットの後ろでレースを組み立てると思っていたが、ここで位置を取ってくるとは。
どうする?
ラチ沿いを取られている以上、この併走はあまり得策とは言いがたい。私1人なら位置を下げてしまうが、今回のレースではそういうわけにもいかない。
そもそも彼女も、サザンアップセット、ライネスアグレサーの次点には挙げられる実力者。ベストポジションをとれれば勝負圏内には入ってくる。
ただ、幸いなことにライネスアグレサーはサウスの併走もあってかペースが上がっている。
つまり作戦の半分は成功しているわけだ。
なら仕方ない。
ここはこの位置をキープする。申し訳ないがガールダイナについてはカナメにねじ伏せてもらうほかなさそうだ。せめて、それができるように私も少しでも脚を削っておかなければ。
ただ、あくまで私の相手はサザンアップセット、彼女だけだ。それくらいの分別はついている。
◾️ ◇ ◾️ ◇ ◾️ ◇
私はガールダイナ。
自慢じゃないけど、去年の帝王賞を勝ってるG1ウマ娘。そのあと休養に入っちゃったけど、東京記念も勝ってこのレースに向けての調整は万端。
ただ、徐々に開きつつあったサザンとの力量差はこの休養期間中に決定的なものになっちゃった。
正直、今の私だと真っ向勝負だとサザンには勝てない。少なくとも後ろから彼女は差せない。
というわけで今日は先行、狙うは去年の帝王賞の再現だ。
ただ、誤算だったのが横にやたら怖いウマ娘が1人張り付いていること。
いや、体なら私の方が大きいんだけど、なんというか威圧があるというか。
まぁ誰だかは分かっているけど。だってそこにいるのはシロヤマルドルフ、かつての地方の王者だから。
前走の浦和記念もものすごい走りだったし、正直こうも横に張り付かれると走りにくくてしょうがない。まぁ気持ちはわかるよ? 私の位置が欲しいんだよね。それくらい私のポジションは良い。
互いの体が触れる。これが続けば体力が削られるのはわかっている。
ただ、私にも意地がある。
ここで位置を下げるようだとサザンに勝つなんて夢のまた夢。
だから残念、譲ってはあげられないよ。
◾️ ◇ ◾️ ◇ ◾️ ◇
サウスヴィレッジさんはライネスアグレサーと、シロヤマさんは前のウマ娘、確かダイナガール?って娘とそれぞれ競り合っている。
私はシロヤマさんとダイナガールの後ろのラチ沿いを追走。
はっきり言ってここまでの作戦は上手くいっているとは言い難い。ダイナガールがいなければ最高の並びではあったんだけど。
ただ、私は2人を信じることしかできない。大丈夫、私の脚なら脚が削れたウマ娘を差すくらいはできる!
今の私にできるのはとにかく脚を溜めること。そしてシロヤマさんの踏み出しに合わせて発進することに集中する。この二つだ。
ただ、私は忘れていた。
このレースで一番警戒するのは誰かということを。
そして、それを止めるはずのシロヤマさんの脚も当然削れているという当たり前のことを。