岩手には代々受け継がれる最強の系譜がある。
先代の魔王様から英雄に、そして英雄である私も次代の皇帝へそれを受け継ぐことになる。
先代の魔王様が残した戦績43戦39勝。間違いなく、岩手の歴史上最強のウマ娘だ。
じゃあ、私はどうだろう?
魔王様も成し遂げなかった中央交流の南部杯を勝った。それでも周りは全盛期の魔王様に及ばないと言う。
どうすれば周りは私の力を認めるんだろう?
「それはあんた、最強になればいいんじゃない?」
「最強ですか」
答えをくれたのは魔王様だった。最強、確かに今の私はサザンの格下に見られているのは間違いない。
「いいライネス? 最強っていうのは相手の土俵に乗り込んで倒せなきゃ奪えない。なぜだか分かるかい?」
「いえ、分からないです」
「世論が認めないからさ。サザンアップセットが南部杯で負けてもアウェーだった、体調が悪かったと世論が庇い立てる。なら言い訳できない状況で倒さないといけない」
「だったら東京大賞典、この舞台でサザンに勝てば私が最強になれる」
レースの舞台の大井2,000mはサザンの庭だ。距離もコースも私には不向き。
この舞台のサザンは強い。私を上回る、それは認めざるを得ない。だからこそ、挑戦の場には相応しいはず。
「かもね。ただライネス、そこまで私のことを意識する必要なんてないんだよ」
魔王様はそう言っていたけれど、私は諦め切れないし納得できない。サザンを打ち倒して魔王様を越えてみせる。
このレース、警戒するのはサザンだけ。横で並走している彼女も関係ない。
さぁ、かかってこいサザンアップセット。
◇ ◾️ ◇ ◾️ ◇
ライネスアグレサーは動かないか…。
なるほど、私は眼中にないわけか。
さて、どうするか?
このままだとライネスアグレサーの発進に後ろの連中がそのまま乗っかってくる。つまり、どうにかしてライネスアグレサーを早めに動かす必要があるわけだ。
だったら、こうするしかないよな。
『向こう正面を過ぎてエクセレントバードが依然として先頭で飛ばしている。隊列は縦長になっているが、ここで3番手から金沢のサウスヴィレッジが一気に押し上げる。ライネスアグレサーはどうするのか』
動かねぇよあいつは。
私の狙いはそいつじゃない。
私たち以外にもう1人。ここでのペースアップを望んでいるやつがいるからな。
◇ ◾️ ◇ ◾️ ◇
来た!
絶好のチャンスだ。
今の私だと、サザンには末脚で敵わない。
かといってこのペースだと動くに動けなかった。
『サウスヴィレッジが一気に先頭に並びかける。ライネスアグレサーはまだ動かない。先頭2人と後続の差が広がる。おっと、ここで内からガールダイナがポジションを一気に上げてライネスアグレサーにバ体を併せた』
私が勝つためにはライネスと併せて直線入口でサザンに対してセーフティリードを取るしかない。
ライネスに勝てるか? そこは根性しかないってことで!
「ここからはよろしくねライネス。精々、2人でサザンから逃げ切りましょう?」
◇ ◾️ ◇ ◾️ ◇
となりの娘が動いた。ただ仕掛けが早い。
この位置、この距離からのスパートで持つわけがない。
なら私のやることは変わらない。サザンの仕掛けるタイミング、そこに合わせての発進だ。
正直、2,000mは私には長い。軽はずみな仕掛けは打てない。あーもう、マイルならこんなこと考えなくてもいいんだけどなぁ。
というわけでここは静観。後ろにサザンがいる以上、他の娘もそうするはず。
「ここからはよろしくねライネス。精々、2人でサザンから逃げ切りましょう?」
って、ガール?! 完全に勝負に出たわね。
他の娘ならともかく、ガールは無視できない。
「後ろで大人しくしておいてくれれば私の逃げきれる可能性はもっと高かったんだけど?」
「残念だけど、ここからは一蓮托生よ」
あぁもう、何でこうなっちゃうかなぁ。
◇ ◾️ ◇ ◾️ ◇
よくやってくれたサウス。
ガールダイナが動けばライネスアグレサーも動かざるを得ない。
お陰で私たちにとっては絶好の場面になっている。
となればやはりサザンアップセット、彼女がいつ動くかだ?
大井の直線は長いとは言えそこまで悠長に構えられるわけでもない。
いっそのこと私が先に仕掛けるか? それならばサザンアップセットは間違いなく乗ってくるだろう。
◇ ◾️ ◇ ◾️ ◇
大井2,000mは私サザンアップセットの庭のようなものだ。
この舞台ならライネスや中央のウマ娘にも負けることはない。
それだけの自信と自負が私にはある。
ましてや、ライネスにはガールが絡みに行っている。少なくとも展開が私に向いているのは間違いないだろう。
ただ、気になるのは私の前を走るシロヤマルドルフだ。さかんに私を気にしているな?
ディライトさんが言っていたように彼女は確かに強い。いや、正確には強かったと言うべきか。結局のところ今の彼女ならいくら私を警戒しようと、乗り越えられないわけはない。
「そろそろ仕掛けるか」
そうして踏み込んだ私に反応したのは1人のウマ娘だった。