地方は中央の2軍じゃない!   作:小魔神

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第7話

 マッチレース。まさに、その言葉を体現したようなレースだった。

 舞台は金沢ダート2600m。時代を築き上げた名ウマ娘と新進気鋭のウマ娘。二人の決戦の火蓋が切られた。

 

 レースは圧巻のものとなった。向こう正面から続く二人の追い比べ、それぞれが全く譲らずゴールに流れ込む。3着につけたタイム差は驚愕の2.6秒。

 

 結果を語るのは無粋だろう。

 ただ、レースの実況をしていたアナウンサーは、こう叫んだ。

 

「いいものを見た!」

 

 

 その後の金沢はこの二人の両横綱体制が続くことになる。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 ケガ、それはウマ娘にとっては切っても切れないものだ。

 誰しもが、ケガをしないように万全の対策を行っている。けれど、現実問題としてケガが原因でレースの世界から去る子は多い。

 

「決して無理はしたらだめよ。ケガをしたら元も子もないんだからね」

 

「もー分かってるよ。グリンさんは心配性なんだから」

 

「あら、ごめんなさい。それじゃあ次のレースも頑張ってね」

 

 そう言って送り出してくれたグリンさんは、何となく分かっていたのかもしれない。私がこうなってしまうことを。

 

 

 復帰まで1年以上。それはウマ娘にとって余りにも残酷な宣告だった。言ってしまえば引退勧告みたいなものだ。

 けど、心の中でほっとしている自分もいる。確かに悲しいし悔しい、なんで無茶なことをしたんだとあの時の私を諌めてやりたい。

 ただ、この一ヶ月は夢のような時間だった。だって、間違いなくこの私が金沢の主役だったから。インタビューに答えてTVの特集も組まれた。それは、小さなころ頭の中で描いていた光景に少し似ていて、私が誇らしかった。

 結局はプレッシャーに耐えれなくなっちゃったわけだけど。。。

 

「シャインちゃん脚の様子は?」 

 

 あのレースから数日経っても、あの娘は私のことを気遣い声を掛けてくる。嘗てライバルだと一方的に意識していた彼女とは、ケガを機により仲良くなれたような気がする。

 それが、もう戦うことを意識する必要がないからだと理解したとき、私の競技人生は終わったのかもしれない。

 けど、鈍感な親友はこう言うんだ。

 

「早くケガをなおして、また一緒に走ろうね!」

 

 

◇  ◾️  ◇  ◾️  ◇

 

「お、今日もシャインに会いに行ってたのか?」

 

 着替えてグラウンドに向かうと、珍しくトレーナーさんが既に待っていた。こんなことは、10日に1回あるかどうかかも、

 

「会いに行ってたも何も学校には来ているんですから、顔を合わせるのは当然ですよ」

 

「まぁ、そういうことにしとくよ」

 

 ニヤニヤしている、トレーナーさんに少しイラッとしたけど、ここはスルー。

 トレーナーさんが私より先にグラウンドに来ているということは何か理由があるはずだから。

 

「さて、いよいよ今週末にレースがあるわけだが調子はどうだ?」

 

「調子ですか? 別に普通ですよ。この前のレースもいつも通りの感覚で走れましたから」

 

 この前のレースっていうのは、笠松で行われたクラシック級限定のダート戦のこと。この時期の金沢はレースの開催がないから、遠征する必要があるんだ。

 トレーナーさんに言われたことを意識しすぎて、差し損ねるところだったけど何とか1着をとることができた。

 

「相変わらず、不器用なレース内容だったけどな。まぁ、とりあえずは合格だ」

 

「ち、違います。あれは、ゴール板手前で交わそうと意識していただけですから」

 

 やっぱり気付かれてた・・・。

 レースの後、何も言われなかったから大丈夫だと思ってたんだけど。

 

「まぁ、金沢と違って次の東京は直線が長い。それに1800mってコースは直線勝負になりやすい。お前みたいな不器用な奴にはピッタリだ」

 

「あの・・・トレーナーさん。私ってそんなにセンスないんですか・・・?」

 

「まぁ、お前の場合はセンスってより経験の問題だな。なまじ、脚があるから何も考えずに勝てちまったのが良くなかった。金沢の同期相手なら通用するが上では間違いなく、今のままじゃ勝てん」

 

「へーなるほど! そうですかぁ、うんうん」

 

「なに、ニヤニヤしてるんだ。気持ち悪いな。まぁいい、今日はお前に伝えたいことがあってな。これが次のレースの出走表だ。とんでもないウマ娘が来ちまった」

 

「この娘って! なるほど、確かに強敵ですね・・・」

 

 そこに載っていた名前には見覚えがあった。前回の川崎でただ一人、南関東でも中央所属でもなく、上位に食い込んだウマ娘。勝った娘にこそ2バ身離されたものの、3着の娘には4バ身もの差をつけていたんだから、相当の実力の持ち主のはず。

 

「お前が知っているとは意外だな? あんまり中央の連中には詳しくないと思ってたが」

 

 ん? 珍しくトレーナーさんが変なことを言っている。いや、別に珍しくないっかもしれないけど。もしかして、私をからかって遊んでいるのかな?

 

「何言っているんですか? この娘は地方の娘じゃないですか、それに川崎で一緒に走っているんですから、分かるに決まってますよ」

 

「地方? 何をいっt・・・あぁ、そういうことか」

 

「何ですか、途中で喋るの止めないでくださいよ 」

 

「いやいや、何でもない。それより練習開始だ。ほれ、コース走ってこい」

 

「えぇ、もしかして伝えたかったことってこれだけですか? はぁ、わかりました、走ってきます」

 

 なんだか、拍子抜けだ。てっきり、何か対策でも教えてくれるのかと期待していたのに。

 

 

◇  ◾️  ◇  ◾️  ◇

 

「エルコンドルパサー、あいつは化物だ。前回のスペシャルウィークといい、どうにも強い奴とばかり当たるなぁ」

 

 言われた通り、コースを走っているカナメを見て、溜息を吐く。

 

「おや、溜息とはあなたらしくない」

 

 そんな俺には声を掛けてきたのは意外な奴だった。

 

「シロヤマ・・・。珍しいな、コースに顔を出すなんて」

 

「何、私だって現役のウマ娘だ。コースに顔を出しても不思議じゃないだろ?」

 

 したり顔で、こちらを見つめるシロヤマ。よく、カナメの奴は俺のドヤ顔がどうのこうの言っているが、こいつのにも言ってやった方がいいんじゃないか? まぁ、あいつはシロヤマのこと苦手にしているみたいだから、万が一にも言わないだろうが。

 

「せめて制服じゃなければ頷いてやってもよかったんだけどな」

 

「おや、それは手厳しい」

 

「で、何の用だ?」

 

「いや、本当に用はないんだ。ただ単純に誰かが練習しているところがみたかっただけさ。別に彼女じゃなくてもよかった。だからそう、ここにいるのは、たまたまだ」

 

 そう言って、遠い目でシロヤマは練習を見つめる。こいつはこいつで色々抱えているんだろう。俺にすれば、ガキの癖に生意気としか思わないが。

 そういった点だと、サウスは自分のしたいことしかしないからな、目の前の堅物さんも見習って欲しいもんだ。

 

「勝てるのか?」

 

 ぼそりとシロヤマは呟く。

 独り言と流してしまっても良かったんだが、生憎俺は空気の読めないトレーナーなんでな。

 

「勝てないだろうな。少なくとも今のままじゃ間違いない」

 

「そうか・・・。彼女は勝てると信じているのだろうか?」

 

「さぁな、ただ勝ちたいとは思っているだろうな。あいつの承認欲求は筋金入りだ」

 

 そのせいで、えらく駄々をこねられたからな。そのことをいじると、あいつも恥ずかしいのか慌てて弁明するのが面白い、今や俺のマイブームだ。

 

 

「はは。そうか、なら精々目立ちたがり屋な彼女の欲求を満たしてやらないとな」

 

 何が面白いのか分からないが、シロヤマは上機嫌になり、手を振って去っていった。

 

「いや、あいつ本当に何しに来たんだ?」

 

 

◇  ◾️  ◇  ◾️  ◇

 

 舞台は2月の府中、芝1800m。

 本格的に芝を走るのは、これが二回目。まだまだ、慣れているとは言えないけれど、トレーナーさんに言われた通り、最後の直線に全てを賭ける・・・はずだったんだけど

 

「って、なんでダートを走ることになっているんですか?」

 

「しょうがないだろ。こっちでは珍しい大雪で芝が使えないんだから」

 

 はぁ、ダート。いや、別に嫌なわけじゃないんだけど。ただ、せっかくだから芝を走りたかったなぁ。

 

「安心しろ、ダートでもやることは変わらん。それに東京のダート1600mはワンターンで直線も芝より短いとは言え500mもある。思いっきり行って来い!」

 

 バンと背中を叩かれる。 

 というか、普通に痛いんですけど・・・

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 トレーナーさんに叩かれた痛みを堪えつつ、レースの待機場所に向かう。

 流石重賞、前の京都と違って内装も綺麗なものになっている。

 

「おー、あなたもこのレースに参加するウマ娘デスね!」

 

「え、うん。そうだけど・・・」

 

 何か、変なマスクしているエセ片言の娘に話掛けられちゃった。

 

「もしかして、緊張してマース? そういうときは深呼吸するといいデス」

 

「いや、別にそういうわけじゃないけど・・・」

 

「おっと、自己紹介がまだでした。コホン、テテンテェーン♪ 世界最強のウマ娘、エルコンドルパサーここに見参デス」

 

 なんで、この娘出囃子があるんだろう?

 でも、これで確信したこの娘はきっと・・・

 

「もしかして、プロレス好きなの?」

 

「ナントっ! もしかして、あなたもデスか?」

 

「いや、私はべt」

 

「いやーグラスもプロレスはよく分からないみたいで、あんまり付き合ってくれませんからね。そうだ、あなたの名前を教えてください! それと私のことは気軽にエルって呼んでくださいね」

 

 何か、凄い勢いで話掛けられてるー。

 完全に藪蛇だったかも・・・。

 シャインちゃんと焼肉に行った時を思い出す。あの時は、お肉を注文するのにあんなに時間がかかるとは思わなかったよ。

 

 って、話が脱線しちゃってた。

 

「あ、えと、私の名前はカナメだよ」

 

「いい名前デスね! もしよければウマスタ交換しませんか?」

 

 ウマスタ、それは最近流行っているSNSの一つで、中にはカリスマ的な扱いをされているウマ娘もいるみたい。

 ただ、レース前は集中したいので、一旦断らせてもらおう。

 

「嬉しいけど、レースの後でもいい?」

 

「あー、それはおススメしないデス」

 

「ん? どうして?」

 

 そんなに、直ぐに交換したいのかな? どうしてもっていうなら、別にいいけど。

 なんだかんだ、私も彼女みたいに明るい娘は好きだ。今度、プロレスのことを教えてもらおう。

 

「多分、レースの後だとそんな気力無くなってるかもしれないデスから」

 

「そこまで、疲れることないと思うけど」

 

「ハハ、違いますヨー。レースでコテンパンに打ちのめされた相手と直ぐに仲良くするのは難しいじゃないデスか」

 

 当然のように彼女はそう言った。

 あぁ、なるほど。前回の京都でのシャインちゃんの気持ちが少し分かる。あの時の私はヘラヘラしていただけだけど、今は心底こう思う。舐めるなよってね。

 

「ねぇ、エルちゃん?」

 

「おぉ、交換しますか?」

 

「ううん、交換するのは、やっぱりレース後にしよう。今、交換しちゃったらレースの後でエルちゃんメッセージくれないでしょ?」

 

「それって・・・。ハハン、分かりました。なら、レース後に交換しましょー」

 

 そう言うと、彼女は背を向けて私の前を立ち去っていった。

 

 よし、言ってやったよシャインちゃん!

 (いや、別に私は関係ないけどね)

 何故か、シャインちゃんの心の声が聞こえたような気がした。

 

「うわ、凄いですね。あのエルコンドルパサーにそんなこと言えるなんて」

 

「いや、そんなことないでs」

 

 声を掛けられて振り返ってみると、そこにいたのは。

 

「えと、私のこと覚えてます? 前、川崎で一緒に走ったんですけど。あ、でも私

8着だったけど・・・

 

「覚えてますよ。今日も同じ地方の娘がいるって、ちょっと安心してました」

 

 なんと、覚えてもらってました。

 なおさら、前回みたいに不甲斐ないレースはしないようにしないと。

 

「あ、嬉しい! 今日はダート1600mだから、前回のリベンジさせてもらうからね」

 

「リベンジって、今日のレースは私より強い娘ばっかりですよ」

 

 またまたー、こういう強い人に限って謙遜するんだよね。

 

「えー、G1で2着なんだから。私の中では今日の一番のライバルだよ」

 

「でも、今日の私は6番人気ですし。さっきのエルコンドルパサーが圧倒的な1番人気ですよ?」

 

 え、あの娘が? 

 というか、前走G1しかもダート1600m戦で2着の娘が10人中、6番人気っていうのもおかしいでしょ。あ、ちなみに私はしんがりの10番人気です。

 

「まぁ、お互いに頑張りましょうね」

 

 発走時刻まで、もう少し。 

 ただ、どうしてだろう? 今はエルちゃんと顔を合わせるのが無性に嫌だ・・・。

 

 

◇  ◾️  ◇  ◾️  ◇

 

「まさか、私が挑発されるとは思ってませんデシタ」

 

 もしかして、地方の娘だから私のレースを見たことない?

 いや、あの娘は一度中央でスぺちゃんとも走っているから、ある程度中央のことも知っているはず。

 ただ、その時のレースでの彼女の走りは正直に言って大したことはない。

 けれど、その時の勝ちウマ娘は、確か金沢の娘だったはず。

 そして、金沢での実績は勝った娘よりもあの娘の方が上。

 ということは・・・

 

「今日のレース、面白くなるかもしれませんネ」

 

 

 

 

 

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