『先頭はライネス、ライネスアグレサーが先頭! さぁ完全に抜け出したのはライネスアグレサー、ライネスアグレサーがやりました。歴史に名を刻んだのはライネスアグレサー! 初めて地方所属のウマ娘が中央のG1を制しました』
歓声が鳴り響く。あれは地元の応援団だろうか?
あんなに大声をあげて、まったく私を誰だと思っているのやら。
私はライネスアグレサー、水沢の英雄。ダートマイルなら日本最強のサザンアップセットも打ち倒すウマ娘。中央だろうと関係ない、このメンバー相手に負けるわけにはいかないのだから。
だからこそ、どんと構えていて欲しいものなんだけどな、けどそんな無粋なことは言わない。今は、みんなで勝利の美酒を味わう瞬間なんだから。
それはもちろん、私の尊敬するあの人も同じだ。
「どうですか、私はあなたを超えられましたか?」
「全盛期の力だけを見れば私の方が上だな」
「ですよね。まぁそれは分かっています」
魔王様は最強。それはサザンと走ったあとも変わらない、絶対不変の私の真実。
だったら当然、今の私が並び立てるわけでもない。
それでも言わずにはいられなかった。
「ただ、あなたの落し物は拾うことができましたよね?」
私の言葉を聞いて苦笑を漏らす魔王様。
あの日あの時の南部杯、力の落ちた魔王様に無責任にみんなが背負わせてしまった重荷。魔王様が背負いきれなかったそれが
「…私は期待に応えることができなかった。そういう面で言えばあんたは私を超えた。この私が認めてあげる。よくやったわねライネス。どこぞの皇帝さんにも良い報告ができるんじゃない?」
魔王は笑う。それはいつかのレース場で見た時と変わらない。結局のところ私は彼女の強さに憧れ門を叩いた一人のファンなんだ。
そんな彼女に褒めてもらいたかった。もしかしたら、ただそれだけの理由で私は走っていたのかもしれない。
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「負けました! で、上りはどのくらい出ていましたか?」
完敗! 前が全く垂れてこないとさすがに後ろからはキツイ。ただ、今回の目的は勝つことじゃない。ある意味、一番の目的を今から聞くわけだ。
「35.5秒だな。このメンバーで上がり最速1位タイだ。とはいっても先行したライネスアグレサーも35.6秒では上がってはいるがな。まぁ、あいつは少し力が違いすぎた」
「ならとりあえず最低限度の結果は出せましたね。それに8着で賞金もゲットできましたし」
去年の共同通信杯の上りは36.2秒。そこからここまで縮められたのが私の成長といったところかな。まぁ、ペースも展開も違うし一概には言えないんだけど。
ちなみに8着の賞金は1着の6パーセント。中央の賞金はかなりの高額なので、6パーセントでも十分大金だ。
「ただ、欲を言えばもう少し早く上がれるとは思ったんだがな。実際のところ余力はあったか?」
「そうですねぇ。周りに誰もいなければ多少は詰められたでしょうけど、外を回すロスも考えるとあれが限界です」
「なるほどな、追走面はどうだった?」
「今回は位置取りを完全に放棄していましたからね。距離が倍近い菊花賞の方がはるかにきつかったですよ」
実際に計ってないけど、多分ペース事態も菊花賞の方が早かったんじゃないかな? それに菊花賞と違って何も考えずに走ってたから、余計にそう感じるのかもしれない。
「分かった。とりあえず次の阪神大賞典では位置を取ってもらうが、そこまで考える必要はない。今日くらいとは言わないがある程度脚を溜められる位置で十分だ」
「ここで位置を取りに行かなくていいんですか? それだと去年の春と変わらないような気がしますけど」
トレーナーさんのプランだと宝塚記念まではこの阪神大賞典一走だけ。レース勘の意味でもここは先行していくべきだと思うんだけど。
「もちろん、本番の宝塚では位置をとらせる。が、ここでは我慢だ。お前がやることはいかに本番で出し抜くかそれだけだ。なら、手札は隠しておけ」
「トレーナーさんがそうおっしゃるなら従いますけど。ただそれだと、宝塚記念で脚を使えるか試せませんよ?」
「そこは使えるっていうことにして動くしかない。何度も言うが展開利に加えて運も味方にしなければ、お前が勝つのは不可能なんだ」
「まぁ、不確定要素が多ければ多いほど夢は見れますからね」
その分、惨敗する可能性も高くなりはするんだけどね。まぁ、1着以外はいらないからそれはいっか。
「ただ、阪神大賞典で一つ気がかりな面がある」
「と言うと?」
「スペシャルウィークの位置取りだ。ジャパンカップの時と前走のG2でも先行しているのがどうにも気になる」
「またスペシャルウィークですか。私って彼女と本当によく走りますね。でも先行することの何が悪いんですか? 昔トレーナーさんも勝つための常套手段って言っていたじゃないですか」
実際にそれで私も先行したわけだし。それにそのおかげで重賞も勝てたから、先行という戦法の利点はよくわかる。先行抜け出しはレースの王道とも言われるくらいだしね。
「そこいらのウマ娘ならその通りだ。が、スペシャルウィークに関しては間違いなく溜めた方がいい。まぁ、それで前走を快勝しているから俺の見る目がないだけかもしれないが」
」
だったら私はそこいらのウマ娘ってことかい!
実際スペシャルウィークのようなウマ娘と比べられちゃうと仕方ないんだけど。はぁ、まったく毎度のことながら才能の差って言うのは埋めようがないんだよなぁ。もちろん、私も恵まれている方なのは自覚しているけどさ。
ただ、レースは能力だけで全てが決まるわけじゃない。それは今までのレースで十分理解できた。つまり勝つためにとる位置取りは分かった。
「なら位置はスペシャルウィークの後ろくらいですかね」
「まぁ、目安としてはそんなもんだろうな。ただ先行した場合に限るがな。それよりもメジロブライトより後ろにはなるなよ」
「メジロブライト、去年の天皇賞ウマ娘ですね」
さすがにその名前は私でも知っている。言わずと知れた天皇賞ウマ娘。それ以外にも色々な大レースで結果を残している娘だ。
「あぁ。タイプ的にはお前を極端にしたようなやつだ。スタートが下手だが、スタミナを活かしたロングスパートはお前を回る。一瞬のキレというよりは上がり3Fで最速をとるようなタイプだ。ただ、世間一般で言われるほどズブい訳ではないがな」
「で、その位置を取ったとしてどうします? 今回は直線まで我慢ってことはないですよね」
流石にこの相手を差し切れると思うほど私も馬鹿じゃない。
「あぁ。今回の目標はメジロブライトの仕掛けを後ろから差し切ることだ。そのためにはメジロブライトの前の位置を取ってあいつが仕掛けたら直ぐに切り替えて後ろを取るんだ」
「スペシャルウィークではなくてですか?」
トレーナーさんは毎回のようにスペシャルウィークのことを強調するのに珍しい。それほどまでにメジロブライトを評価しているってことかな。
「あいつはどう出てくるか読めないからな。その点、メジロブライトは読みやすい。加えてまず間違いなく連は外さない。単勝は置いておいて複勝系ならあいつが一番人気だろうな」
「なるほど。だったらこのレースの焦点は私がメジロブライトを差し切れるかどうかですね」
「そればかりはやってみないとな。が、メジロブライトのトップスピードはかなりのものだぞ。先に仕掛けるのは論外だが、踏み遅れれば一気に置いていかれる。が、逆に言えばあいつを差し切れればお前の評価はうなぎのぼりだ」
「とにかく頑張ってみます。なんとか食らいつきますよ」
さて私の脚で差し切れるかな?