13人中の12着。
それが私の最初の中央挑戦の結果だった。
分かっていたことではあるけれど、追走するだけで脚はいっぱいだったし、直線も全く伸ばすことができなかった。
ただ、私の中央で走りたいっていう思いを満たすことはできた、うんそういう意味では有意義な挑戦だったと思う。
問題は次以降の方針。ここは頼れる先輩に相談するのが一番!
「というわけで、カナメさん。次走からは石川ダービーを目指そうと思うんですけど、どう思いますか?」
「ん、いいんじゃない? というかノマドちゃん切り替え早いね」
「くよくよしてても意味ないですしね。それにチューリップ賞が厳しい戦いになるのは分かっていましたから」
「そういうところはノマドちゃんのいいところだね。ちなみに話を戻すけど、石川ダービーはノマドちゃんには合っていると思う」
「ありがとうございます。ちなみにどうしてそう思うんですか?」
「ノマドちゃんって脚が遅いでしょ? 前のヤングチャンピオンでも前を捕まえられなかったし、淡々と流れるワンペース戦は厳しいと思う。瞬発力もそこまでないし。ただ、ノマドちゃんはスタミナがあるから自分でレースを動かすことができる」
うぐ、カナメさんってばストレートに言うなあ。脚が遅いってフレーズはトレーナーさんも使うけど、段々カナメさんってトレーナーさんと似てきたような気がするんだけど。
でも、本人に言っても認めないんだろうなぁ。
「確かに逃げるダズちゃんにヤングチャンピオンではスピード負けしちゃいました。そういう意味では私も距離が伸びるのはいいと思います。ただ思ったんですけど、その戦法ってカナメさんと一緒じゃないですか?」
「確かにそうだね。私も基本的に脚が遅いから。でも勘違いしてほしくないんだけど、私の遅いとノマドちゃんの遅いはレベルが違うからね? 別にバ鹿にしているわけとかじゃなくて純然たる事実として」
それは当たり前だ、不愉快になるわけもない。
カナメさんの凄さを知らない人間はこの金沢に1人もいない、それほどその実績は飛びぬけている。人によっては私の今の立場が羨ましくてしょうがないとも思う。
「もちろん分かってますよ。カナメさんと同じだと思うほど自惚れていません。つまりカナメさんよりも仕掛けどころが大事になってくるってことですよね」
「そういうこと! ノマドちゃんは私みたいに雑な捲りを打とうと思っちゃダメ。自分の脚が持つギリギリのタイミングを図らないと。多分、石川ダービーまでは一般戦に出走することになると思うけど、そこでタイミングを掴む練習をするのがいいよ」
「なるほど。ちなみにカナメさんはどういうタイミングで捲りを打っていたんですか?」
最近のカナメさんは先行策をとることも多いけど、元々は捲り主体に戦っていた。なら、きっとコツとかも知っているはず。
「私は金沢だとシャインちゃん以外には基本的には負けることはないと思っていたから、割と適当だったんだよね。実際に石川ダービーもそれで勝っちゃったし」
去年のカナメさんは石川ダービーを8バ身差で勝利している。これは圧倒的な差だ。シャインスワンプさんがいなかったとはいえ、金沢の選りすぐりのメンバーが相手だったのに。それを適当な捲りで成し遂げるって…。
「カナメさん変なこと聞きますけど、なんでカナメさんってそんなに強いんですか?」
「ノマドちゃんがそう思うのと同じように、私もエルちゃんや中央の人たちに思ってるよ。でも答えなんてないんだよね。私も分からないままだし。才能や環境、努力、全部の要素が絡みあっているから」
あぁ、バ鹿な質問をしてしまったな。そんなのカナメさんだって分かるわけないのに。でも、カナメさんの表情を見ていると、きっと彼女はそれを受けいれているんだというのも分かる。
辛気臭いのはいやだし、話題を変えないと。
「そうですよね。今の質問は忘れてください! ところで、私の同期にすごい強い娘がいるんですよ。さっきカナメさんも言ってたヤングチャンピオンで私に勝った娘なんですけど」
「ダズリングフェリア、だったかな?」
「ですです、ここまで5戦5勝しかも重賞で3勝です。そんなダズちゃんなんですけど、スプリングSに挑戦するんですよ。しかもそこそこ人気もしているみたいで」
私と違ってダズちゃんなら中央でも通用するかもしれない。本人も自信ありそうそうだったし、中央のファンの人たちにもそれなりに支持もされている。カナメさんに続けるのは今の金沢だとダズちゃんしかいないはず。
「それは応援にいってあげないとだね。私は同じ週に阪神大賞典に出るから見に行けないけど」
「土曜日がダズちゃん、日曜日はカナメさんの応援ですね」
「その応援にいくためにも今日のトレーニングを頑張らないと。さあ併せに行くよ」
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「で、トレーナーさんあんな感じでよかったんですか?」
「あぁ、上出来だ。案外、お前トレーナーに向いてるかもな」
「勘弁してくださいよ。グリンさんもトレーナーさんも私をメッセンジャーにしないでくださいよ。でもノマドちゃんならトレーナーさんが直接伝えても平気だったんじゃないですか?」
色々気を遣うことが多くて大変なんだよねこれも。
まぁ、言うべきことはトレーナーさんが大体教えてくれてたから、グリンさんに頼まれたときよりは気が楽だったけど。
「確かにあいつはお前と違ってプライドも高くないし、ある意味成熟しているからな。まぁ、色々考えがあるんだよこっちには」
「そうですか、別にいいんですけどね。しっかり指導してあげてくださいよ? ここで潰れたらトレーナーさんのせいですからね。」
とはいえ、ノマドちゃんは大丈夫だろうなぁ。ノマドちゃんは自分のことを客観視できているから。
それに実力も低いわけじゃない。中央の芝に合わないだけであって、ダートの長距離なんかは私より才能があるかもしれないくらいだ。
あとは、その才能がどこで開花するかだけどこればっかりは本人次第だから、何とも言えないかな。
まぁ、こんなことは私なんかよりトレーナーさんの方が分かっているだろうけど。
「ノマドは強くなるぞ。あいつはいかにもなダートタイプだからな、仕上がりは遅そうだがな」
やっぱり、同じ見立てだね。まぁ、普段のトレーニングをみてれば分かることであるから威張れはしないけど。
さて、そろそろ私も後輩に負けないようにするとしますか。
「で、トレーナーさん。私は阪神大賞典に向けて何を鍛えますか? 正直、マスクとストップウォッチだけって言うのも芸がないと思うんですけど。ストップウォッチなんて一年間やってたせいでほとんど完璧に止めれるようになっちゃいましたよ、マスクも重ねすぎて締め付け痛いですし」
ウエイトトレーニングもやっているけど、ここ一年間はほとんど同じ練習しかしてないんだよね。こういう時はいつか見た中央の設備が羨ましく感じちゃうよ。
「特にない。今更、劇的に伸びる練習方法なんてないんだよ。精々普段の練習に負荷をかけるくらいだ。マスクには水でもかけとけ。強いて言うならコンデション面だが、お前はコンデション管理は抜群だから、俺の仕事はないんだなこれが」
「その期待に応えて何とか阪神大賞典に全力を出せる状態にはしておきますよ 」
まぁ、信頼されていると思えば悪くはないのかな。