地方は中央の2軍じゃない!   作:小魔神

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第74話

 阪神大賞典の勝利後、私の評価はうなぎのぼり! なんといってもメジロブライトとスペシャルウィークを倒したわけだしね。おかげで雑誌にテレビとインタビューの連続。

 

 いや、さすがの私も慣れましたよ? 嚙む回数も若干は減ったし、そもそも雑誌なら文字起こしされるから関係ないしね。

 ただ、誤算だったのはあまりに注目を浴びたせいで全国放送にもちょくちょく取り上げられたせいで、悪い意味で目立ってしまったことくらい。

 おかげで色々な弊害があったけど、今はいいや。

 

 それより大事なことがあるわけで。

 

「宝塚記念まで大体3か月ありますけど、金沢のレースに出走した方がいいですかね?」

 

 宝塚記念記念が行われるのは6月末。つまり今から約3か月も先だ。

 ちなみに私は3ヶ月も出走間隔を空けたことは、デビュー以来一度もない。なので個人的には宝塚記念の前に一度たたいておきたいんだけど。

 

「そうだな。ただ、出走するにしても6月に入ってからだ。お前も連戦続きだからな一度リフレッシュするのも悪くない。もちろんトレーニングは続けるがな」

 

 6月に入ってからの金沢のレースだと百万石賞がある。ただ、このレースは金沢のシニア級における4大重賞の一つ。たたくには荷が重いレースだ。

 

 まぁ、レース選択はおいおい考えていけばいいか。

 

 それとリフレッシュかぁ。それならちょうど行きたいところもあったし、タイミングとしてはいいかも。

 

「だったら、来週阪神レース場に行きたいんですけどいいですか?」

 

「別に構わないが、何かあるのか?」

 

「ちょっと見たいレースがあるんですよ。トレーナーさんはノマドちゃんを見てあげてください。引率はシャインちゃんにお願いします」

 

 一緒に行くのはシャインちゃん。シャインちゃんには何も相談してないけど、大丈夫でしょ。なんやかんやシャインちゃんは私のお願いを断らないからね。

 

「引率って、あいつはお前と同い年だろうが」

 

「何言っているんですか、シャインちゃんの方が私よりしっかりしているに決まっているじゃないですか」

 

「恥ずかし気なく言うなよ。それにお前も別にしっかりしてないわけじゃないと思うがな」

 

「まぁ、いいじゃないですか」

 

 いつもみたいに軽く流してくれればいいのに、こういうときだけしつこいんだから。

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

「さぁて、着きました阪神レース場」

 

「はいはい。で、カナメちゃんは何のレースを見に来たの? 電車で爆睡してて聞けなかったんだけど」

 

 その件についてはごめんなさい。いやぁ、電車とか車とかって無性に眠くなるんだよね。そういう人多いと思うんだけど。

 

 ちなみに当然、阪神レース場に来たのは見たいレースがあるからだ。まぁ、他にも目的はあるんだけど。

 

「それは当然メインレースの毎日杯。ちょっと見ておきたい娘がいてね」

 

「へぇ。カナメちゃんがそこまで興味持つなんて珍しいね」

 

「そうかもね。でも、シャインちゃんも見ればその理由が分かると思うよ」

 

 このレースにはあるウマ娘が出走する。私も一度会ったことがあるウマ娘がね。あの時の直感が本当に正しいのかを確かめたい。

 

 まぁ、それまでは適当に食べ物でも買って食べてようかな。こういうところの食べ物って割高だけど美味しいんだよね。

 

 

 そして迎えたメインレース。

 

『間を突いてはテイエムオペラオー、テイエムオペラオーが突き放す。先頭はテイエムオペラオー、3バ身から4バ身のリード。今ゴールイン。強いレースをしましたテイエムオペラオー』

 

 

「強い・・・。やっぱり、最初に感じた印象に間違いはなかった」

 

 オペラオーさん、やっぱり強い。

 タイムは平凡。それでも見る人が見ればあの強さは分かる。

 これはエルちゃんにも並ぶ強さ、いやもしかすると先着するって観点だとエルちゃんよりも難しいかもしれない。

 

 まったく、トップロードさんも災難だね。この前のアヤベさん?もそうだけど、周りに強い人がたくさんいると。

 ただ、トップロードさんもそんじょそこらの凡百のウマ娘とは違う実力者ではあるだろうけど。

 

「なるほどね。カナメちゃんが言っていた理由も分かる気がする。あれは化物…だね」

 

 シャインちゃんも私と同じ感想。ということは本当に強いんだろうなぁ。私の直感が当たっていたことを喜ぶべきか、強敵ができたことを悲しむべきか微妙なところだね。

 

「シャインちゃんもそう思う? まったく、次から次へと強い娘が出てくるんだから」

 

「私からしたらカナメちゃんも大概向こう側だけどね。まぁ、それでもちょっと驚いたかな」

 

「ちなみにシャインちゃんなら勝てるビジョンある?」

 

 これが一番シャインちゃんに聞きたいこと。というかこの質問をするために阪神レース場に来たといっても過言ではないかもしれない。もちろん、オペラオーさんのレースありきではあるんだけど。

 

 

「意地悪なこと言わないでよ。勝てるわけないって。そもそものスペックが違い過ぎるもん」

 

 やっぱり焚き付かない…か。1年間っていう期間は残酷だよねまったく。

 だったら直接聞くしかないね。

 

「ふぅん。ねぇ、シャインちゃん。グリンさんに聞いたんだけどそろそろ復帰できるんでしょ?」

 

「…そうだね。復帰はできる、復帰はね。でも、もうカナメちゃんと戦えるような力は無い。この一年間でカナメちゃんはすごく強くなったし、私は逆に力が落ちているしね」

 

 あぁ、やっぱりシャインちゃんはもう折れているんだね。

 まぁ、うすうすそうだとは思っていたんだよ。なんというか、今のシャインちゃんは私のファンの人たちと同じ視線を向けるようになっていたから。

 

「だったらどうする、引退するの? シャインちゃんは私にもスペシャルウィークにも先着したっていう華々しい実績があるから、それもありだと思うよ。それにシャインちゃんは顔もいいからね、嫌な言い方だけど引退した方が稼げる可能性もある」

 

「今日のカナメちゃんは厳しいね。確かにそれも悪くないかも、今の私が復帰してもその名声が傷つくだけだろうし」

 

「なるほど…。 そういう言葉が出ちゃうなら、引退した方が良いよシャインちゃん。別に意地悪で言ってるわけじゃなくてね」

 

 私の言葉を聞いてこの反応か。

 もしかしたらシャインちゃんは誰かにこの言葉をかけてもらいたかったのかもしれない。自分の背中を押すこの言葉を。

 

「自分でも分かっていたんだよね。今の私には闘争心がまるでない。別に金沢のC級戦くらいなら今でも勝てると思う。でもそこまでなんだよね」

 

「私はシャインちゃんの友達だと思うから言うけど、そんなシャインちゃんの姿は見たくないな。最下層のクラスでぬるま湯に浸っているシャインちゃんなんてね」

 

 別にC級の娘たちを馬鹿にしているわけじゃない。ただ、シャインちゃんがそこで走るのはC級の娘たちにも失礼な話だ。能力のある娘が能力の足りない娘たちに混ざって走るのは健全なことではない。

 

「はっきり言うなぁ。でもそうだよね、私の一番の思い出はカナメちゃんに金沢で唯一土をつけたこと。そんなライバルに言われたらしょうがないか…」

 

「シャインちゃん、確かに私は引退した方が良いとは思っているよ。それでも一応聞くけど、レースに未練はないの?」

 

「不思議と引退っていう言葉に嫌悪感はないんだよね。きっと私はもう心のどこかでそれを受け入れているんだよ。だからこそ最後にお願いしてもいいかな? 一つだけ、本当に一つだけ未練があるんだ」

 

「なに?」

 

 聞いてはみたものの、シャインちゃんの未練が何かは分かっている。

 でも少し悔しいなぁ。こういうとき自分の名前が挙げられないっていうのはさ。

 

「本気のグリンさんと一度だけ走りたいんだ。でも、グリンさんは優しいから私にも気を遣うと思う。だからカナメちゃん、頼んでもいいかな」

 

「百万石賞でいい?」

 

 シャインちゃんの意図は分かる。

 グリンさんが気を遣うならそれをさせない舞台、相手が必要になる。それが百万石賞とこの私。

 

「ありがとう」

 

「いいよ」

 

 でもね、最初のライバルに引導を渡すのは私の仕事。申し訳ないけどグリンさんにその役目を譲るわけにはいかない。本気のグリンさんもシャインちゃんも纏めて私が倒す。

 

 

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