「それで百万石賞に出走することになったと」
「すいませんトレーナーさん、勝手に決めてしまって」
まぁ、だからといって出走を取り消したりはしないんですけどね。今の私にとっては百万石賞も宝塚記念も、両方大事な欠かせないレースだ。
「まぁ、決まったものはしょうがない。それにしてもシャインが引退とはな」
「一人のウマ娘が決めたことです。そこに口出しするのはやめましょうよ」
「まぁそうだな。引退の時期を決めるのは本人の自由だ。だからこそお前らがサザン相手にごちゃごちゃしてるのも俺はどうかと思うがな」
「そこはあまり突っ込まないでくださいよ」
だいたい、それを私にけしかけたのはグリンさんなんですからね。文句があるならグリンさんに言ってくださいよ。トレーナーさんとグリンさんは仲良いんですから。
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「というわけで、トレーナーさん私引退します」
「よし、分かった」
「って軽いですね、トレーナーさん。…本当にありがとうございました」
この気楽さがトレーナーさんのいいところだと個人的には思う。はっきり言って性格が良くない私がここまで付き合えたのもトレーナーさんのおかげだ。
本当に感謝してもしたりない。トレーナーさんがいなければ、私はあの怪我の前にオーバーワークで潰れていたはず。
「君が決めたことだからね。で、餞別には何をくれるんだい?」
石川ダービーの看板は結局トレーナーさんにあげることができなかった。
そういえばあの娘は元気にしているかな?
「ニヒッ、相変わらずがめついですね。百万石賞のタイトルでどうですか? トレーナーさんのウマ娘で勝ったことないでしょうから」
「相手は強いよ? 勝てるのかい」
勝てないだろうなぁ。カナメちゃんとグリンさん、この2人ははっきり言って私とはステージが違う存在だ。
それでも、私が渡せるのはこれだけ。だったら私はこう言うしかない。
「スペシャルウィークよりも強いってことはないでしょう?」
「まぁ、カナメちゃんはスペシャルウィークに前走で勝ってるけどね」
「冷めること言わないでくださいよ」
こういう時は私を乗せるような発言をするものなんだけどね普通。まったく精一杯の虚勢が無駄になっちゃったじゃない。
でも、トレーナーさんとカナメちゃん、そしてグリンさんに私の最後の勇姿を見せるためにも頑張らないとね。
あーあ、きっと失望させることになるんだろうなぁ。でも、それでもいいか。
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「そう、シャインちゃんが引退…ね」
薄々は分かっていたことだけどね。
昔と比べてシャインちゃんからは覇気が消えていた。カナメちゃんのことも純粋に応援するようになっていたし。
ただ、何というか慣れてしまった。
こんなことを言うと酷い先輩だと思われるかもしれないけど、シャインちゃんと同じように今までにも多くの後輩が引退していった。
私はシャインちゃんにとっては、きっと誇らしい先輩なんだと思う。ただシャインちゃんは私にとっては数多くの後輩の一人、
現にこうしてこいつと話すためのだしに使ってしまっている。
「なんでお前はそれをわざわざ私の前で言うんだ」
「いや、あんたも引退するんでしょう? カナメちゃんに聞いたわ」
「あのチビめ、余計なこと言いやがって」
ごめんねカナメちゃん。ここでも悪者にさせてもらうわね。
まぁ、ばれなきゃセーフってことで。
「ねぇ、引退するってどういう気持ちなの? 生憎だけど、私はそういうつもりが全く無いから分からないのよね」
「相変わらずデリカシーがないなお前は。その気持ちは引退する者の特権だ。教えてやるわけにはいかないな」
「あらそう。で、百万石賞には出走するの?」
「残念だがパスだ。今の私にそこまでの余裕はない」
「ふぅん。なら白山大賞典まであんたと戦う機会はなさそうね」
半年先か。
あんたとの腐れ縁もそこまでだと思うと寂しいわね。
私が今一番関心があるのはあんたと、それも十全なあんたと戦うことだけ。
それを達成するには、申し訳ないけどあんたの今後がどうなろうと関係ない。
サザンアップセット、私の最高のライバル。
最後に忘れられない思い出を私に頂戴。