地方は中央の2軍じゃない!   作:小魔神

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第76話

「カナメ、改めての確認だ。お前の次走は百万石賞、そして宝塚記念だ」

 

「えぇ、分かっています」

 

 自分で決めたローテーションだ、当然文句はない。

 そこに向けてのトレーニングも順調に進んでいるわけで。

 

 ただ、次のトレーナーさんの言葉には少し驚いた。

 

「正直に言えば百万石賞に関してはそこまで仕上げる必要はないと思っている」

 

「それは勝つことを放棄しろということですか」

 

「いや、違う。そこまでしなくても今のお前なら勝ち切れるからだ」

 

「グリンさんが相手でもですか?」

 

 グリンさんはJBCクラシックでも掲示板に乗ったことがある金沢の強豪だ。サウスヴィレッジさんと同等の力はあると見て間違いない。

 東京大賞典の相手に比べれば落ちるのは間違いないけど、ダート戦線で私が戦ってきた相手では間違いなく力量は上位だ。

 

「あぁ。グリンには悪いが、今のお前にとってあいつは敵じゃない。はっきり言って力の差がありすぎる」

 

「言いますね。実際のところダート中距離でも私とグリンさんにそこまでの差はあるんでしょうか」

 

 確かに世間一般で強いとされているのは私なのは間違いない。さすがにそこで謙遜するほど私も傲慢じゃないつもりだ。

 

 ただ、私の適正はダート中距離に無いとは言わないけど最適な舞台ではないのは確か。一方でグリンさんにとっては一番得意な舞台だ。

 この適正差が私とグリンさんの力量差を埋める可能性がある。

 

「ある。今の金沢でお前と戦える奴はシロヤマ含めて何人かいるがグリンは無理だ」

 

 無理…か。まぁ、多分そうなんだというのは薄々は分かっていた。ただ、グリンさんは私がデビューする前から金沢のトップ戦線を走っていたウマ娘。

 そんな彼女の力を既に上回っているというのを実感するのはどこか悲しくもある。

 

「で、それを踏まえてどうしましょうか」

 

「トレーニング内容に関しては変更ない。今まで通り俺のメニューに従ってもらう。問題はレース展開だが、基本的には番手で走って直線で抜け出す。それだけで大丈夫だ」

 

「またえらくシンプルですね」

 

 先行抜け出しそれはレースの王道だ。だからこそ、それが簡単に出来たら願ってもない話ではあるけど、問題は私のスタートですんなり番手を取れるか。

 

 取れちゃうんだろうなぁ…。

 

 精々警戒するのはグリンさんくらいだろうし、そのグリンさんもきっと逃げないはず。全盛期のシャインちゃんがいれば、まだ少しは面白かったんだろうけど。

 

 確かにこれなら仕上げずに勝てる、いや勝ててしまうかもしれない。

 

「それが一番効率がいいからな。本当は勝つためなら一番良い作戦があるんだが、それはいい。別にこの作戦でも十中八九勝てるからな」

 

 それだったらその作戦を教えてくれればいいのに。まあ、こういう匂わせだけしてくるトレーナーさんは肝心なところだけは教えてくれないからなぁ。

 長い付き合いだ、さすがにそれくらいのことは分かる。

 

 でも、とりあえず百万石賞についてはこのくらいで大丈夫でしょ。

 せっかく時間もあるし、トレーナーさんにあれを聞いてみるとしようかな。

 

「なら、百万石賞についてはこのくらいでいいですかね。では私からもいいですか?」

 

「なんだ?」

 

「皐月賞は見ましたよね。率直にテイエムオペラオーというウマ娘をどう思いますか?」

 

「…強いな。中山であのギアチェンジは並大抵のウマ娘には無理だ。それに最後の坂もまったく苦にしてなかった。そんじょそこらの皐月賞ウマ娘とは格が違う」

 

 ここでも同じ感想。ここまで意見が揃うということは、間違いなくオペラオーさんは強い。まぁ、皐月賞を勝っている時点で強いのは当たり前なんだけどね。

 

 あとはオペラオーさんの強さがどこまでの次元のものなのか。

 

「やっぱりですか。私はあの娘と会ったことがあるんですけど、エルちゃんと同じ雰囲気を感じました」

 

「エルコンドルパサーと? 流石にそれは買い被りすぎだろう。あいつは日本の歴史上でも有数のウマ娘だぞ」

 

「そうですかね。私はエルちゃんに並ぶ存在になると思いますよ。いつか戦ってみたいですね」

 

 トレーナーさんはそこまでじゃないと見ていると…。だったら、私の相マ眼の方が上ってことですね。オペラオーさんは並大抵の実力者じゃない。残念だけど、私ともステージが違う存在だ。いまのところは私の予想に過ぎないけれど、近い将来必ずそうなるに違いない。

 

 そうなったあかつきには、一度走ってみたいものだ。きっと自慢できるに違いない。勝てればなお最高なんだけどね。

 

「お前がそんなことを言うなんて珍しいな。お前は強い相手と戦いたいとかそういうタイプじゃないかと思っていたがな」

 

「普段はそうですよ。理想で言えば、私にわずかに及ばない程度の相手とだけ戦っていたいですからね。それで名誉とお金を手に入れれば最高です」

 

 自分より少し弱い、これが大事! ギリギリ勝てるくらいが自分も周りも一番楽しい。実際はそうはいかないのが残念だけど。結局、私の欲しいタイトルには強者が集まってくるし。

 

「正直に言うやつだな。ただ。それが理想ではあるよな、俺も分かる」

 

 知ってます。

 間違いなくトレーナーさんはそのタイプだ。だからある意味、私とトレーナーさんは似た者同士なんだろうなぁ。

 

 だからこそ、私のこの意見も分かるはず。

 

「でも、稀にいるんですよ。本当に戦いたい相手っていうのが」

 

「それがテイエムオペラオーか」

 

「えぇ。オペラオーさんもその一人ですね」

 

 とはいえ、オペラオーさんと戦うとしてもそれは当分先の話。

 今、一番戦いたい、戦わないといけないのはシャインちゃんだから。




この作品のウマ娘は主人公とシャインスワンプ以外はすべてモデルがいます。
ただ、金沢のウマ娘は時系列がめちゃくちゃなので分かりにくいと思います。金沢のウマ娘のモデルについて時系列が合わないと質問がきたので、この場で回答させていただきます。
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