地方は中央の2軍じゃない!   作:小魔神

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第79話

『今年もあなたの夢が走ります。上半期の総決算宝塚記念、注目は何と言ってもこの2人でしょう。ダービー、天皇賞を制したスペシャルウィーク、昨年のグランプリ覇者グラスワンダー。同期の2人に人気が集中しました』

 残念ながらバ場は良。

 

 それでも13人という少数のレースになったのは悪くない。まずはスタートを決めて位置をとる。

 それができなければ勝負のスタートラインにも立てない。当たり前だけど相手は強い。

 

『しかし、その他にも豪華メンバーが勢揃い』

 

 ちょうど実況も出走ウマ娘を紹介してくれるみたいだし、周りを確認してみようか。

 

『音速の貴公子を捕らえたのは時を止める光速の末脚。ここで復活するのかマチカネフクキタル。一昨年の菊花賞ウマ娘は9番人気でレースに臨みます』

 

 マチカネフクキタル。私たちの一つ上の世代の菊花賞ウマ娘。なんでも中央の有名なトレーナーが過去最強のウマ娘って言ったこともあるみたい。

 もっともケガのせいか最近の成績はあまり良くないみたいだけどね。

 

『ここまで重賞4勝。イエローのブリンカー、イエローの勝負服がトレードマーク、グントラムは4番人気です』

 

 でっかいブリンカーだなぁ。あそこまで大きいと逆に走りにくそうなんだけど、そんなことないのかな?

 ちなみに私はメンコもブリンカーも何もつけていない。鬱陶しいしね。

 

『かつての3強も気づけば彼女1人が無冠のまま。同期の強敵を蹴散らしてグランプリで王者となります、キングヘイロー』

 

 キングヘイロー。スピード、瞬発力なら私よりも上なのは一緒に走ったレースで実感している。警戒を怠ってはいけない。ただ、今回のレースではあまり意識はしていない。それよりも警戒するべきウマ娘がいるから。

 

『中央のウマ娘が強いのは分かってる。でも自分が弱いとは決して認めない! 阪神大賞典ではスペシャルウィークに完勝した金沢のカナメはどこから逆転の一手を繰り出すか。6番人気でグランプリ初出走です』

 

 はい、私がカナメです!

 カッコイイ紹介ありがとうございます。さて、逆転の一手かぁ。なにかそういう奇策があるなら教えて欲しいものだけどね。

 残念だけど今の私にできるのは自分の全力をぶつけるだけ。後は展開が向くことを祈るしかない。 

 

『真打ちが登場です。負傷した怪物は昨年のグランプリで甦りました。世代No.1の称号、グランプリ連覇へ視界は良好。グラスワンダーは2番人気です』

 

 グラスワンダー。正直に言うとこの娘苦手なんだよなぁ。エルちゃんのルームメイトらしいけど去年の一件でどうもね。まぁ喋る仲でもないし良いんだけど。ただ問題なのはその実力の方。私の格上なのは否めないね。

 

 ただ幸いなのはこのレースにはグラスワンダーと同じくらい強いウマ娘がもう一人いること。

 

『そして、グラスワンダーに立ちふさがるのは最強世代のダービーウマ娘スペシャルウィーク。春の盾を手にしてこの舞台に臨みます。世代の代表はこの私。1番人気でそれを証明する走りを見せます』

 

 それがこのスペシャルウィーク。

 多分、私が一番走っている中央ウマ娘だ。彼女には2回先着しているけど、どっちも私に有利な条件が積み重なっていただけ。フラットな力比べなら私はちぎり捨てられる。

 

 でも、レースは力比べじゃないからね。精々グラスワンダーとスペシャルウィーク2人に力比べをしてもらって、私は漁夫の利をいただくことにしましょうか。

 

 

 さて一応頭に入っているのはこのくらいだけど、まぁこれで十分だよね。

 

 そろそろ出走だし、心を静めないと。ゲートが開くタイミングで飛び出すことに集中する。

 

『各ウマ娘入って、いまスタートが切られました』

 

 よしまずまずのスタート。

 このスタートなら取る位置は決まっている。

 

『さぁ隊列が徐々にバラけてきました。注目のスペシャルウィークはキングヘイローの後ろ4番手。その後ろにステイゴールド、グラスワンダー、さらに外を回してカナメがスペシャルウィークの横に上がってきます』

 

 悪くない。この位置ならスペシャルウィーク、グラスワンダーが動いても対応できる。最悪の場合でもスペシャルウィークを閉じ込めて少しはアドバンテージが稼げる。ただその場合はグラスワンダーが怖いんだけど…。

 

 まぁあれこれ考えても仕方ない。とにかくできることやっていこう。

 

◇ ◾️ ◇ ◾️ ◇ ◾️ ◇

 

 正直ジュニアの頃は私グラスワンダーが一番強いと思っていました。

 

 実際、エルだろうがスペちゃんも切磋琢磨しあう友達ではありましたがライバルとは見ていませんでしたから。

 いま思えば傲慢でしたね。

 

 転機となったのはあのケガ。

 

 確かに、ケガの前の出力は戻っていません。それでもあの時の私よりは今の私の方が強いです。

 足るを知る者は富み、強めて行う者は志有り。

 今の私の実力は分かっています。ならそれを最大限発揮するための努力は怠りません。

 

『さぁ隊列が徐々にバラけてきました。注目のスペシャルウィークはキングヘイローの後ろ4番手。その後ろにステイゴールド、グラスワンダー、さらに外を回してカナメがスペシャルウィークの横に上がってきます』

 

 なるほど、彼女はその位置をとるんですか…。

 私の予想ではスペちゃんの前まで行くのかと思いましたが。

 

 とはいえ、許容範囲内です。むしろ喜ばしいかもしれません。正直、一番嫌な展開は彼女が前をとってのロングスパートもしくは後ろからの早めの捲りでした。 そうなったら、スペちゃんの方が私より適正があったでしょう。

 

 …いけませんね。エルが彼女を気にかけていたのが私にもうつっていました。シンプルに考えましょう。このレースで警戒するのはスペちゃんだけ。

 

 スぺちゃんを差しきる=レースの勝利です。

 

 

 

◇ ◾️ ◇ ◾️ ◇ ◾️ ◇

 

 最初の位置は悪くない。後ろにグラスちゃんとあの地方の娘が並んでいるのは不気味だけど大丈夫。

 

 去年の菊花賞は位置取りが後ろ過ぎてセイちゃんに届かなかった。その反省がこの先行策。正直に言うと、私には合ってないような気もするんだけど、天皇賞も先行していたお陰でセイちゃんを捕まえられた。

 

 でもこのレースは逆。後ろのグラスちゃんたちに差されないようにしないといけない。

 だから私からは仕掛けない。後ろの仕掛けを待ってから動けば私が一番キレるはず。

 

 日本一のウマ娘になるためにもここは負けられません。

 

◇ ◾️ ◇ ◾️ ◇ ◾️ ◇

 

 ふむふむ。

 強い娘たちはみなさん前に行っちゃいましたね。

 

 ですが問題はありません! 

 

 私の全力は誰にも止められませんから。なんて言っても音速を超える光速ですからね。

 まぁ、全力を出せたらですけど…。

 

 まったくスズカさんやヒーローさん、それにあの方といい私たちの世代は大凶ばかりですね。

 それでも世代の気概を後輩の皆さんに見せてあげないといけませんね。

 

◇ ◾️ ◇ ◾️ ◇ ◾️ ◇

 

 レースって言うのは旅と同じ。 

 なら旅の終わりを見つけるにはどうしたらいい?

 

 同期の中には望む望まないに限らず、この旅を終えた連中もいる。

 ただ、少なくとも自分の終わりはまだ見つけられていない。

 

 この黄金の旅路に果てはあるのだろうか?

 

「少なくともあと3年はかかるか」

 

 そのころにはレースの光景もきっと変わっているんだろう。

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