地方は中央の2軍じゃない!   作:小魔神

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第8話

 終わったウマ娘。惨敗続きの近走を見て、多くのファンはそう思った。

 かつて掴んだ栄光も、もはやただの飾りに過ぎなかった。

 恥じることはない。どんなウマ娘も衰えには勝てないのだから。

 

 そうして、彼女は金沢の地に別れを告げた。

 

 だが、そんな彼女が次に向かったのは中央だった。

 条件戦を4走し、迎えた重賞レース。

 立ちふさがるのはG1も制した強敵。

 しかし、先頭でゴールを駆け抜けたのは彼女だった。

 

 限界なんて他人が決めたものに過ぎない。

 金沢生え抜きの最後の中央重賞ウマ娘、その名は・・・

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 一般的に東京D1600Mは外枠が有利とされている。理由は単純、外枠の方がスタートしてからの芝の距離が長くスピードがつきやすいからだ。まぁ、トレーナーさんの受け売りなんだけどね。

 

 そして、今回の私は大外10番。これはかなり大きいと思う、だってスタートで遅れても、外の娘に被される心配がないからね。自分でも分かってるけど、私はスタートは下手だし、テンも速くはない。だからこそ、大外は大歓迎だ!

 

『さぁ、各ウマ娘続々とゲートに入っていきます。なんと言ってもこのレース注目は圧倒的一番人気のエルコンドルパサー。衝撃のメイクデビューそして次走の1勝クラスで後続につけた着差の合計は圧巻の16バ身。まさしく、この世代のトップクラスと言ってもいいでしょう』

 

 いよいよ、スタートが迫ってきた。ただ、前走とは違ってあまり緊張はしていない。とにかく、直線まではリラックスして走る! トレーナーさんの言った通りにやってみよう。

 

『さぁ、各ウマ娘準備が整って、今スタートしました!』

 

 よし、ゲートは互角。後は出たなりにポジションを取ってと。

 って、隣りの娘、凄い速いんだけど。

 

『さぁ、注目の先行争いは・・・、8枠と1枠、内と外から2人が抜け出してくる。さて、注目のエルコンドルパサーは、おっと前に付けています。前走までは打って変わって先行策、これがどう出るのか』

 

 うぅー結局、最後尾になっちゃった。出来れば中段位には付けたかったんだけなぁ。でもしょうがない、あとはトレーナーさんの言う通り直線に賭けよう! そのために前のウマ娘のすぐ後ろ、内ラチ沿いのポジションをキープして、少しでも脚を溜めないと。

 

  ◇  ◾️  ◇  ◾️  ◇

 

「相変わらず、テンが遅いなぁあいつ」

 

 予想していたこととはいえ、最初の数完歩であそこまで差がつけられるのは少し不味いかもしれない。

 

「指導が悪いんじゃないのか、お前はあいつのトレーナーだろ?」

 

「そう言われても、こればっかりは各ウマ娘の生まれもったものが多いからな。まぁ、お前は先行できるタイプだから、こればっかりは分からんだろうが」

 

 最も、こいつの場合は周りのウマ娘とはスピードが違いすぎるだけで、取り立てて出足が速い訳ではないんだがな。実際にグリンなんかと走れば簡単に頭は取り切れないし。

 

「へぇーそんなもんかね。で、今回のあいつに作戦はあるのかい?」

 

「あぁ、とっておきのがな。名付けて直線一気作戦だ」

 

 俺の発言を受けたサウスは難しい顔をして、少しの沈黙の後、口を開く。

 

「・・・なんか、お前昔よりバ鹿になったんじゃないか?」

 

 泣かしてやろうか、こいつ・・・。

 今がレース中じゃなきゃ、一言二言文句を言ってやりたいところだが。

 

「まぁ、聞け。別に俺もこれで勝てるなんで思ってないさ。ただ、一度広いレース場であいつの末脚を計ってみたくてな」

 

 俺の見立て通りなら、あいつの脚は・・・

 

 ◇  ◾️  ◇  ◾️  ◇

 

『レースは淀みなく進み、3.4コーナ中間。ここでエルコンドルパサー、楽な感じで前に上がっていく、これは完全に先頭を射程圏内に捉えたか!』

 

 まだだ、まだ溜める。勝負は直線、先頭までは10バ身、いやそこまではないかな?

 なら最後の直線500m、ここで他の娘よりも1.5秒速く走ればいい。脚はまだまだ残ってる。

 

『4コーナ周って、最後の直線。外からスーパーチュウザン、更に大外からエルコンドルパサー!』

 

 よし、ここからが勝負! 前には9人、先頭まではまだまだ。けど、今の私なら差し切れる!

 

 ◇  ◾️  ◇  ◾️  ◇

 

 ふぅー、こんなものデスか。

 まだまだレースの途中だが、こう思わずにはいられなかった。

 

 トレーナーさんの言う通り、今日のレースでは今までと違って前目に付けたけど、特に戸惑うこともない。むしろ、レースをする上では、この戦法の方が私には合っている。

 

 さぁ、最後の直線。正直、この時点で私の勝ちは揺るぎない、唯一喰らいついてくるのは2番人気の・・・、えーと誰でしたっけ?

 ともかく、私の勝ちは決まってマース!

 

『エルコンドルパサー、突き放す。エルコンドルパサー、1着でゴールイン。そして2着にスーパーチュウザン。やはり強いエルコンドルパサー、ゴール前スーパーチュウザンを突き放しました。これで3戦全勝!』

 

 まぁ、当然デスね。

 どこかに、もっと私を楽しませてくれる娘はいないデスかね?

 グラスの復帰も、もう少し掛かるみたいデスしね。

 

 っと、ライブの準備をしないといけませんね。

 ん? あそこにいるのは、あぁ控室で話てた娘ですね。レース前はちょっと期待してたけど、思ったほどでもなかったですね。

 ただここにいるということは・・・、ハァーン口だけではなかったんデスね。

 

 ◇  ◾️  ◇  ◾️  ◇

 

 4着、それが今回のレースの結果だった。きっと悪い結果ではないと思う、多分周りの人たちも頑張ったと褒めてもらえるだろう。

 

 負けて悔しい訳じゃない、いや悔しいけれど、何より自分の脚じゃどうあがいても勝ち目がなかったという現実が恨めしい。

 才能の違いと言ってしまえばそれまでだけど、今の私は諦める訳にはいかないから。

 

 そうだ、レース前の約束を果たさないとね。

 

「エルちゃん、お疲れ様。今日はエルちゃんの勝ちだね。でも次は負けないからね」

 

 もし、今の私の言葉を聞いている人がいれば、笑われても仕方ないだろう。正直、今日のレースを何十、何百と繰り返してもエルちゃんの勝ちは揺るぎないだろうから。

 

 それでも、私はこう言わずにはいられなかった。じゃないと、2度と彼女には追いつけない気がしたから。

 

「ハッハー。エルは最強デスからね! でも意外でした、てっきり話しかけてくれないかと思いましたよ」

 

「流石にそれは、私カッコ悪すぎでしょ。はいこれ、私のID」

 

 私はエルちゃんにメモを渡す。エルちゃんはそれを受け取り、暫く見つめてからポケットにしまう。

 

「ありがとうございマース。後で連絡しますからね。それじゃあ、私はライブがあるので、失礼しまーす」

 

 そう言うと、エルちゃんはライブ会場の方に向かっていった。

 が、少し歩くと私の方に振り返り、

 

「あ、忘れていましたけど、次も私が勝ちますからね」

 

 それだけ言うとエルちゃんは、振り向くことなくライブ会場の方へ消えていった。

 

 

 ◇  ◾️  ◇  ◾️  ◇

 

「上がり3F36.2は立派だ。やっぱり俺の見立て通り、この走り方の方がお前には合っているな。ただ・・・」

 

「このレース振りだと、私はエルちゃんには一生勝てないでしょうね」

 

 なんだこいつ、いつになく真剣な顔してやがるな。てっきり4着で浮かれているかとも思ったが。というか、エルちゃん? エルコンドルパサーのことか、いつの間に仲良くなったんだか。

 

「まぁ、それは間違いじゃない。ただ今回は、この戦法を始めての初戦だ。次回以降リズムを掴めば、良い結果が出る可能性もある」

 

 これは間違いじゃない。道中のリズムを大事にすれば、こいつの末脚はもっと伸びるはずだ。欲を言えば、前目に付けられれば最高なんだが。

 

「いや、それじゃダメです。たとえ最後の直線で全力を出しても前目に付けるエルちゃんを捕まえることはできません。そもそもトップスピードでもエルちゃんには勝てませんから」

 

 ん? 本当にどうしたこいつ。いつになく勝ちに拘ってる、いやそれ自体は悪いことじゃない。よっぽど、あのエルコンドルパサーに触発されたか

 

「なら、どうすればいいとお前は思うんだ? いや、どうしたいんだ?」

 

「私はスタートも悪いし、トップスピードでもエルちゃんに勝てない。なら、もうレースをぶち壊すしかないと思うんです。それが私のたった一つの勝ち筋」

 

「何を言っt・・・。あぁそういうことか、だが難しいぞ。金沢のコースならともかく中央のコースでそれをやるのは」

 

 ようするにこいつはこう言っているわけだ。レース中盤からロングスパートを掛けて、ズブズブの消耗戦にしてやるって。実際に地方のレースでは、こういう捲りはよく決まる。ただそれは、地方のレースはレベル差があるのと小回りだという理由が大きい。ということは大回りかつ、基本的に格上相手の中央でそれをやるのは難しいということだ。

 

「分かっています。私も上手くいくかは分かりません。けど、それくらいしかエルちゃんに勝つ方法が浮かばないんです」

 

「まぁ、いい。お前がお前なりに考えたんだ、トレーナーならそれに黙って協力してやるさ。けど、一つ聞いてもいいか?」

 

 これだけは聞かなきゃいかない。

 

「なんでいきなり勝ちに、いや違うな。どうしてそこまで、エルコンドルパサーに拘っているんだ?」

 

「別に理由なんてないですよ。ただ、私エルちゃんと連絡先を交換したんですよ。控室で向こうから話しかけてくれて」

 

 つまり、仲良くなったから負けられないってことか。

 

「そうか、そういうことk」

 

「でも一度も呼んでないんですよ。連絡先の交換もしたのに、私の名前を。というか、もしかしたら覚えてもいないのかもしれません。でも、レースで負ければ勝った娘の名前くらい否が応でも覚えるじゃないですか」

 

「なんだ、要は向こうの眼中に無かったから悔しいって訳か」

 

「なんか、そう言われると私、すごく小物みたいですね・・・」

 

 

 

 

 

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