私の所属する金沢は、ハッキリ言ってレベルが低い。中央や南関東と比べるとその差は歴然だ。
でもその中で2人の例外のウマ娘がいる。
1人はダービーグランプリを制して地方最強の名を手にしたシロヤマルドルフさん。もう1人は地方出身でありながら中央の芝G1戦線で活躍するカナメさん。この2人の実力は抜きん出てる。
そして私、サスライノマドはそんなカナメさんの同じチームの後輩にあたる。
ハッキリ言ってレベルが違いすぎてカナメさんとは別メニューの調整が多いんだけど、それでも一緒に練習したおかげか同期の中でもそれなりに活躍することができている。
余談だけど私の友達のダズちゃんとイナズマちゃんのトレーナーはシロヤマさんと同じだったりする。
「トレーナーさん。次走の石川ダービーですけど、何か作戦はありますか?」
「そうだな。少なくとも距離が伸びるのは悪くない、お前はスタミナがあるからな。ただそれでも前を捕まえられるかは何とも言えん」
「カナメさんには捲りのタイミングが大事だと言われました。実際のところ捲ったほうがいいんですか?」
カナメさんのことを信用していないわけじゃないけど、レースに関してはトレーナーさんの方がプロだ。トレーナーさんの言うことも聞かないわけにはいかない。
「それはそうだな。ただカナメの真似はするなよ? あいつは特別だ。ハッキリ言ってお前とは持っているものが違いすぎる」
「ですよね。はぁ、カナメさんの脚があればなぁ」
「残念だがあいつの脚は努力だけじゃ追い付けない領域、才能の世界だからな。お前には無理だ」
ですよねー。だいたい、カナメさんは金沢にいること自体がおかしいスペシャルな存在ですし。
まぁそもそも真似しようとも思いませんよ。絶対にできないですし。
「分かっています。それで現実的にはどうしたらいいですか?」
「そういう風に受け止められるのがお前の良さだよ。さてレースの方だがとにかく早めに仕掛けろ。最終コーナーでは先頭に立つくらいにな」
「それだと明らかに早仕掛けじゃないですか?」
「あぁその通りだ。だがそれでいい。お前の唯一の武器のスタミナを活かせ」
「それが一番勝つ可能性が有るんですね?」
「間違いなくな。今回のメンバーならペースは上がらん。そうなるとヒカルイナズマの脚が抜けている。あいつに前で脚を使われるとお前じゃ届かない」
ダズちゃんがいればペースは上がるんだろうけど、今回の石川ダービーにダズちゃんは出走しない。ちょっと前にあった交流重賞の名古屋優シュンに出走したからね。
ちなみに結果は地方勢では最先着の4着。
今の金沢の同期で一番評価の高いウマ娘はダズちゃんだ。そしてその次がイナズマちゃん。でもって私はそこからもう1つ2つ評価が下。
「イナズマちゃんは確かに強いですね。前走も圧勝でした。でも、イナズマちゃんが相手なら私も負けてないと思うんですけど、どう思います?」
イナズマちゃんが弱いとは言わないけど、なんとなく負けている気がしないんだよね。気がしないだけで、前走の北日本新聞杯では先着されているんだけど。
「確かにヒカルイナズマとお前ならお前の方がポテンシャルは上だろうな。だがお前が良くなるのはまだ先だ。それに比べてヒカルイナズマは既に体が出来上がっている」
「完成度の差ですか」
確かに私のピークはまだ先だ。これはなんとなくは分かる。でもデビューのタイミングは自分が選んだこと。イナズマちゃんはクラシックに全盛期を合わせて私はそうしなかっただけ。
それを言い訳にはしたくない。
「あぁ、こればかりはしょうがない。」
「大丈夫ですよ。カナメさんみたく私が勝ってきます!」
去年のカナメさんは調整不足かつぶっつけの本番で圧勝。同じチームとして私が泥を塗るわけにはいかない。
そして迎えた石川ダービー。
当日の私は5番人気。レース展開は予想通りスローな流れ。
だったら私が仕掛けないわけはない、ということで3コーナーで先頭に並びかけることができた。
これならトレーナーさんの言ったとおり、チャンスがある。
この勝負もらった! と思ったんだけど。
『先頭はヒカルイナズマ、ヒカルイナズマが後続を押さえきって今ゴールイン! 今年の石川ダービーを制したのはヒカルイナズマです』
うわーん。
まさかバ圏内も外す4着…。
帰ったらカナメさんに何て言おうかな…。
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「どう思ったカナメ?」
「3コーナーで先頭、直線入口では8番手、最後の直線は盛り返して4着。ハッキリ言ってめちゃくちゃですね」
「だな。ただポテンシャルは感じただろ?」
「ですね。ノマドちゃんの弱点は本当にハッキリしています。脚が遅いこと、それにつきます。ただその遅いトップスピードならどこまでも維持できる」
「まさにダートの長距離向きだな」
「私にしろノマドちゃんにしろ、トレーナーさんってニッチな娘が好きですねぇ」
「何言ってんだ、俺が好きなのは先頭抜け出しの王道だぞ? お前らがそれをしてくれれば言うことないんだけどな」
「それはすいませんね。でもこういうの嫌いじゃないでしょう?」
「まぁな。おかげでいつも楽しませてもらってるよ」