地方は中央の2軍じゃない!   作:小魔神

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第84話

 金沢のレースレベルは中央に比べて低いけど、学力については逆に上回っている。そんな中で私の成績は上の下くらい、端的に言えば頭がいいわけだ。

 

 まぁ、別にそこはどうでもいいんだけど。大事なのは頭がいい娘が多いってこと。これはつまりレースの作戦や展開の読みを言語化する能力については中央の娘たちを上回ることもあることを示す。

 

 というわけで早速その中でも優秀な娘に声をかけてみることにした。

 

「シャインちゃん、逃げる時って何を考えて走るものなの?」

 

「どうしたの急に?」

 

 いつもの通りシャインちゃんです。ちなみにシャインちゃんの学力はあまりよくない。本人にはストレートに言えないけど、多分私の成績を上回ったことはないはずだ。まぁそれは今はいい。

 

「いや、ちょっと逃げの練習をしたいんだけど経験なくて。シャインちゃんはいつも逃げてたでしょ。コツを教えてよ」

  

 私の中で逃げと言えばセイウンスカイとシャインちゃん。というわけで早速コツを聞いてみることにした。

 シャインちゃんの逃げには何度か負けたこともあるしね。

 

「コツねぇ。私の場合はカナメちゃんに捕まらないように走ってたね。ハッキリ言ってカナメちゃん以外に負ける気はしなかったから」

 

「じゃあ、やっぱりラップタイムとかは気にしてたの?」

 

 逃げで一番大事なのはペース配分、それくらいは私にも分かる。後ろにいる分には前の娘を見てどうとでもできるけど前の娘はそうもいかない。だからこそ、後ろの娘を嵌めることもできるわけだけど。

 

「それは当然だけど、結局は脚の感覚だよ。カナメちゃんの場合は私と脚が違いすぎるから、ある程度ハイペースの逃げで貯金を作っておかないといけなかったし大変だったなぁ」

 

「私が逃げるとしたらどういう風に走ったらいいかな? トレーナーさんと話して後半はペースを上げていく感じでやろうと思っているんだけど」

 

「ざっくりしてるなぁ。それってスローに落として直線勝負ってわけじゃないよね。要は早めから踏んで持続力勝負に持ち込むってことでしょ?」

 

「流石! その通りだよシャインちゃん」

 

 シャインちゃんはやっぱりレースに関しては呑み込みが早い。多分、レースセンスがあるんだろうなぁ。うらやましい限り。

 

「うーん、カナメちゃんって金沢の中だと、そりゃあ最強クラスだけど中央だとスピード負けしちゃうでしょ? だから急激にラップを上げるとエンジンのかかった娘たちに前に出られるかもしれないわけ」

 

「うんうん」

 

「だからカナメちゃんはゆっくりとペースをあげるの。そうすると後ろの娘たちも仕掛けどころが分かりにくいからね」

 

「トレーナーさんと同じこと言うね」

 

「みんなこのくらいは思い付くよ。それで、これってJCでやるつもりなの?」

 

「そうなんだけど、その前にアルゼンチン共和国杯で試してみるつもり」

 

「なんか当たり前みたいに話してるけど、カナメちゃんはやっぱりすごいね。私と金沢の一般戦で走ってたとは思えないよ」

 

「またまたぁ。そんなこと言ってシャインちゃん私に何度か勝ってるくせに」

 

「たまたまだよ。私が勝ったっていうよりカナメちゃんがミスしただけ。で、話を戻すけどさ。要は東京レース場で逃げるんでしょ?」

 

「まぁそうだね」

 

「あんな大回りのレース場走ったことないけどさ。ペースをあげるなら3コーナーくらいからしかなさそうだよね」

 

「それは私もそう思う。流石に直線じゃ遅すぎるし」

 

 東京の直線は長いといっても大体500m。これじゃ流石にしのぎきれない。だから少なくとも最後の直線までにはある程度リードをとるか脚を使わせる必要があるのは分かる。

 

「要はコーナーで緩むところを緩ませないってことだよね。カナメちゃんのいいところはスピードの持続力だから、とにかくミドルラップを刻むこと。スローでもハイペースでもだめ」

 

「すごい初歩的な質問するけど、なんでハイペースだとだめなんだろ? 私って持続力が武器だからハイペースにしちゃったほうがいいと思うんだけど」

 

 これって前から疑問だったんだよね。持続力って要はスタミナのことでしょ? ハイペースにしちゃえば脚を奪えるしいいと思うんだけど。

 

「うーん、これは私の考えなんだけど持続力と持久力って違うと思うんだよね。持続力って言うのはトップスピードをどれだけ維持できるかってことだと思うんだよね」

 

「持久力は?」

 

「持久力はフラットなハイペースをずっと続けてた時に最後まで走りきる力かなぁ。つまり息の入らないレース展開で走りきるウマ娘は持久力があるって言えるんじゃないかな」

 

「私、トレーナーさんに持続力は誉められたけど、スタミナは誉められなかったんだよね。それってそういうことなのかな」

 

 言われてみればハイペースを追走した経験ってあまりないかも。強いて言えばジュニアの頃の全日本ジュニア選手権くらいかな。あのときは完全に脚があがって前を詰めることもできなかった。

 今なら流石にどうとでもできるけどね。

 

 ただクラシック以降でハイペースなレースは走ったことがない。一度試してみないことには分からないけど、トレーナーさんは私には向いていないと判断してるってことだね。

 

「多分だけどカナメちゃんはハイペースになると脚を残せないんだよ。でも、脚が残っている状態で仕掛ければトップスピードの維持はできる。もしかしたらカナメちゃん、本当は先行しない方がいいのかも」

 

「どうして?」

 

「考えてみればカナメちゃんが先行して好走したレースって全部スローかミドルペースだもん。言ってみれば持久力が問われたレースってないんじゃない?」

 

「確かにトレーナーさんにも私の好走条件はスローからミドルの上がりがかかる舞台って言われた」

 

 これって要はハイペースの場合は好走できないってこと。多分私にスピードがないからハイペースの場合は他の娘より意識してスピードを維持しないといけないのが原因だろうね。みんなが1消耗しているとしたら1.2ずつ消耗している感覚。トレーナーさんやシャインちゃんの言うスタミナっていうのはこれのことか、納得納得。

  

 それなら確かにハイペースの逃げなんてもってのほかだ。ただ試してみたい気持ちがないと言えば嘘になるけど。意外といけそうな気がしなくもないんだよね。まぁ、本番でやる勇気はないけどさ。

 

「やっぱり。トレーナーさんは分かってるんだよ。カナメちゃんがやってた捲りの戦法は間違ってなかったってこと」

 

「でも、先行しろって言ったのもトレーナーさんなんだよね」

 

「これも想像だけど、元々はカナメちゃんが持久力タイプだと思ってたんじゃないかな。私もカナメちゃんのことそう思ってたし、いや今でも思っているんだけど」

 

「実際、捲り一本だと高いレベルで厳しいのもあったとは思うけどね。宝塚記念もワンチャンスを手繰り寄せるために先行していたわけだし」

 

 実際、宝塚記念の前には全てが上手くいく前提で先行の話しかしてなかった。楽観的に考えてた訳じゃなくて、私が勝つためにはそこまでの展開利がないと無理だからそれは当然なんけども。

 

「じゃあ、それを踏まえるとカナメちゃんの逃げは途中まではスローに落として、3コーナーから徐々に加速していく形だね。正直、めちゃくちゃしんどいと思うけど」

 

「シャインちゃんにもあの坂を味わってほしいよ。中山ほどじゃないけど脚がいっぱいの状態の坂は本当にやばいよ?」

 

 去年のJCはしんどかった。あれと若葉Sが私の中でキツかったランキング1,2位だね。

 

 まぁ、それはおいといてシャインちゃんは私の発言に意地悪に答える。

 

「残念、私は引退しているので」

 

「じゃあ引退していなかったら東京レース場で走れたの?」

 

 だから私も言い返してみることにした。こんなこと言えるのもシャインちゃんが相手だからであって、誰にでも言ってる訳じゃないからね。

 

「そりゃもちろん。なんたって私はあのカナメとスペシャルウィークに先着してますからね」

 

 シャインちゃんは満面の笑みでそう言った。

 

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