私サスライノマドはある特別なミッションを受けて上級生の教室にやってきた。目当てはある一人のウマ娘だ。
「あのー、シャインスワンプさんか思う最強のウマ娘って誰ですか?」
その相手は皆さんご存知シャインスワンプさん。一時期は金沢のメディアで見ない日はなかったくらいの有名人。特徴的なのはなんと言ってもそのルックス。THE美少女って感じだよね。だからこそあれだけテレビにも出ていたんだろうけど。
「最強のウマ娘? それって金沢の中でのことだよね」
「どう思いますか」
私のミッションは金沢の最強ウマ娘を調べること。シャインスワンプさんはの見る目はすごいってトレーナーさんも言っていたし、いったい誰を挙げるんだろう?
「まぁカナメちゃんだよね。少なくとも私はそう思う。間違いなくね」
「グリンさんじゃなくてですか?」
うーん、これは意外。シャインスワンプさんはグリンスマイルさんに心酔してるってトレーナーさんが言っていたから、てっきりそれを挙げるのかと思っていたけど。
でも、カナメさんを挙げるのは当然と言えば当然かぁ、だってあの人強すぎるし。
「うーん、グリンさんは尊敬しているし強いとも思うけど、それでもカナメちゃんの方かな。はっきり言って脚が違いすぎるもん」
「私からしたら、そのカナメさんに何回も勝っているシャインさんもすごいと思いますよ」
これについては心からそう思う。私もカナメさんとは一緒にトレーニングをしているけど、ハッキリ言ってあれは化物。天地がひっくり返っても先着できる気なんてしない。そのカナメさん相手に何度も勝つあたりシャインスワンプさんも相当の実力だったのは疑いようがない。
できれば、シャインスワンプさんとも走ってみたかったなぁ。
「はは、ありがとう。でも、あれはたまたまだよ。今のカナメちゃんには手も足も出ない、例え私が怪我をしてなくてもね。それに私を褒めるためにカナメちゃんを持ち出してる時点でそういうことだし」
「じゃあシロヤマさんはどうですか?」
シロヤマルドルフ、言わずとしれた金沢の皇帝だ。カナメさんに対抗できるのは金沢だと彼女しかいないと言われている実力者。
そして、イナズマちゃんやダズちゃんと同チームの先輩でもある。
「また難しいことを言うね。私はシロヤマさんとは一緒に走ったことがないから難しいけど、それでもカナメちゃんの方が強いと思うよ。少なくとも芝なら負けないんじゃないかな」
「やっぱり凄いですねカナメさんは!」
「私から見ればあなたも十分強くなると思うけどね」
「本当ですか? じゃあそのうちカナメさんに勝っちゃったり」
なんと言ってもカナメさんに先着している人の言葉だ。そんじょそこらの人とは言葉の重みが違う! 例え単なる社交辞令でも嬉しいものは嬉しい!
「可能性はあるかもよ。さぁ、そろそろトレーニングの時間でしょ。頑張ってね!」
話はこれまでとばかりに切り上げるシャインスワンプさん。まぁシャインスワンプさんにはシャインスワンプさんの予定があるだろうし、ここらで失礼しますか。
「ありがとうございます! では、シャインスワンプさん色々と助かりました」
とりあえず聞きたいことは聞けた。次はあの人のところに行こう!
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「金沢の中で一番強いウマ娘って誰だと思います?」
「…よく私に話しかけてきたな。お前、あのチビの後輩だろ。まぁ見た目だけならお前の方が先輩に見えるけどな」
「ちょっと調べてて。それで、トレーナーさんに聞いたらサウスヴィレッジさんにも聞いた方がいいって言われました」
というわけで次に聞きにきたのはサウスヴィレッジさん。去年の白山大賞典チャンピオンにしてトレーナーさんとはなにやら因縁がある相手。
「なるほどな。で、一番強いウマ娘か。そりゃシロヤマじゃないか?」
ふむふむ、サウスヴィレッジさんはシロヤマルドルフさんと。私の予想通りの答えだ。なんと言ってもサウスヴィレッジさんはシロヤマルドルフさんに先着したことがない。でもそれはサウスヴィレッジさんが弱いとかそういう訳じゃなくてシロヤマさんが強すぎるだけ。
私がサウスヴィレッジさんに挑めばケチョンケチョンにされておしまいだし。
「でも、トレーナーさんはサウスヴィレッジさんなら自分を挙げるって言ってましたけど」
「まぁそうだな、確かにそうだ。…やっぱりこれも衰えなのかね」
どこか悲しそうなサウスヴィレッジさん。そう言えば最近はサウスヴィレッジさんが優しくなったって周りの娘たちも言っていた気がする。
でも、私からすれば以前のサウスヴィレッジさんも十分に優しかったとは思うんだけどなぁ。
「ちなみにカナメさんはどうですか?」
「強い。はっきり言って、脚だけなら私の全盛期や今のシロヤマより上だ。が、レースならシロヤマが勝つだろうな」
おぉ断言。
トレーナさんが言っていたけど、サウスヴィレッジさんはもともとカナメさんはかなり高く評価していたみたい。だからこの評価も頷ける。
「それはまたどうして?」
「脚以外の全ての要素でシロヤマが勝るからだ。シロヤマは自分の力を100%使いきる。だがあのチビは違うだろ?」
「先輩のことなので答えにくいですね」
私も人のことを言える立場じゃないし何も言わないけど、私はトレーナーさんには不器用なタイプだとよく言われる。そしてカナメさんに似ていると。これでなんとなく察してほしい。
「まぁ、そういうことだ」
サウスヴィレッジさんはそんな私を見て、察したように笑っていたけどね。
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「金沢の中で一番強いウマ娘ねぇ。私って答えたいところだけどシロヤマさんかしら」
「グリンさんもサウスヴィレッジさんと同じ意見なんですね」
グリンさんとサウスヴィレッジさんは長らく金沢のトップ戦線で競っていたウマ娘。同世代なんだから意見が揃うのもおかしくはないか。
「あいつと同じ意見なのは癪だけど仕方ないわね。やっぱり私たちにとってシロヤマさんって言うのはそれだけの存在なのよ」
「ちなみにカナメさんはどうですか?」
「カナメちゃんねぇ。確かにカナメちゃんは強い、それは間違いないわ。でも、レースならシロヤマさんが勝つんじゃないかな。カナメちゃんは脚があるけど、レースセンスはまだまだ。実際にこの前の百万石賞では私が勝ったでしょ?」
確かにカナメさんはグリンさんに負けた。私が言えることではないけれどグリンさんに比べればカナメさんは格上だ。はっきり言って負けるとは思ってもいなかった。
サウスヴィレッジさんも言っていたけれど、それがカナメさんの弱点ということだ。
「確かに。でも、それはグリンさんが強いからじゃないんですか」
「分かってて聞かないでよ。私がカナメちゃんと真っ当に戦ったらちぎられておしまいよ。脚が違いすぎるもの」
なるほど。やっぱりグリンさんもそれは分かっている。
つまりグリンさんとサウスヴィレッジさんの言っていることはほとんど一緒だ。要は世代によって見え方が違うってこと。
でもその本心は自分達に近い存在の方が強くあってほしいってことだと思うけどね。
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「というわけで皆さんに聞いてみたところ、カナメさんとシロヤマさんの名前しか挙がりませんでした」
あの後も何人かに聞いたけど、返ってくる答えはほとんど一緒。傾向で言えば先輩になるほどシロヤマさん、逆に私たちに近い世代はカナメさんを挙げてたかな。
「だろうな。まあ、概ね順当な結果だろ」
「ちなみにトレーナーさんはどう思っているんですか?」
「選択するとか迷うとかそういう次元じゃない。問題なくカナメだ」
「言いきるんですね」
シロヤマさんは強いウマ娘だ。もちろん私も全盛期は見たことはないけど、それは間違いない。でも、その全盛期を見ていたトレーナーさんはカナメさんの方を上にとった。
なんというか、その事実が私には嬉しかった。もちろん直接私には関係ないんだけどね。
「あぁ。あいつに適した条件で走らせれば金沢であいつに追いすがれるやつは1人もいない」
「シロヤマさんもですか?」
「もちろんだ。この前の東京大賞典ではシロヤマが先着したが、あれはカナメにとっては不適な舞台だった。仮に芝で走らせればあのくらいじゃすまない差をつけてカナメが勝つさ」
確かにカナメさんの適正はどちらかと言えば芝だ。シロヤマさんはダートしか走ったことないから単純に考えればカナメさんが先着するんだろうけど。
「ところで、どうしてこんなこと私に調べさせたんですか? トレーナーさんが直接聞けばよかったじゃないですか」
これはずっと疑問だった。だいたい、サウスヴィレッジさんやグリンスマイルさんとは面識あるって言っていたし、私が聞くよりも早いでしょうに。
「俺が聞くとみんな気を遣うだろ? いや、そうでもない連中ばかりではあるか。とにかく、今回調べさせたのは改めてあいつの評価を聞きたかったからだな。もう分かると思うが今の金沢はあいつとシロヤマの2強だ」
「皆さんに聞いた感じは確かにそうですね。でもそんなの聞く前から分かってたことじゃないんですか?」
実際に私もその二人のどっちかだとは思っていたし、トレーナーさんならなおさらでしょう。だったら、そこに何らかの意図はあるはず。
「まぁそれはそうだな。多分、分かっていないのはカナメくらいのもんだ。今のあいつは心のどこかで金沢の看板を背負うのを拒んでいる。だから白山大賞典ではっきりさせてやろうと思ってな」
「何をです?」
「最強はお前だってことをだよ」
「でも、そんなの意味あるんですか? それを自覚したところで強くなるわけじゃないし」
気持ちで勝てるなら、今ごろ金沢のウマ娘が何人も中央重賞を取ってるはずだし。結局は脚なんだよね。脚が遅い娘が気合いを入れても、気合いの入った敗者が生まれるだけ。
はぁ、こんなこと考えると嫌になるよね。
「お前はリアリストだな。まぁその通りではある。だからこれは俺のエゴなんだよ。あいつに金沢最強の座をつかんで欲しいっていうな」
「でも、カナメさんはそんなの気にしてなさそうですけどね。ですよね、カナメさん?」
カナメさんってなんだか達観している感じするしね。目先の称号に興味がないっていうか、とにかくストイックって感じ!
それでいて気配りもできるんだよね。いつも私に気を遣ってくれているし。もしかして今も会話の邪魔にならないように部屋の外にいたりして。
「あちゃーバレちゃってた?」
カナメさんの声が聞こえる。ということはもしかして!
「お前、聞いていたのか?」
まさか、本当にいるとは。
カナメさんって小さくて中々見つけられないんだよね。本人には言えないけど。
「そりゃもうバッチリと。で、金沢最強の称号ですか。本当はその称号欲しいのトレーナーさんじゃないんですか?」
「いや、それは」
「いいですよ。シロヤマさんにサウスヴィレッジさん、そしてグリンさんにも勝てばいいんです。それだけのことでしょう?」
「おぉ、カナメさんすごいです」
さすがカナメさん、そこまで言いきれるなんてすごい自信! やっぱりカナメさんは違うなぁ。実力に裏付けされたものだろうけど、普通中々言えないよ。
「どうせならノマドちゃんも白山大賞典出走してみたら? MRO金賞も勝ってるし間違いなく出走できると思うけど」
「いいんですか?」
カナメさんの誘いに思わず胸がときめく、別に恋とかじゃないけども。でも、確かに今の私なら賞金は足りるはず。もちろん実力差はあるし、トレーナさんの許可は必要だけど出れるなら出たい!
「いいですよね、トレーナーさん」
「構わないが、今のノマドはハッキリ言って通用しないぞ?」
「それでも出走したいです。カナメさんの胸を借ります」
白山大賞典は私には向いている舞台だし、もしかしたら万一にも一発見せることができるかもしれない。
それでなくても、本気のカナメさんと走れるなんて滅多にないわけで。とにかく決まったからには全力をつくすのみ!
あ、ちなみに私の思う最強はカナメさんじゃなかったりするんだけど、今は言わなくてもいいかな。
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「では、トレーナーさん、カナメさん今日はありがとうございました!」
そう言うとペコリと頭を下げて部屋を出ていくノマドちゃん。きっと私がトレーナさんと話したそうにしてたから気を遣ったんだろうね。
「行ったか。で、カナメどうしてあんなこと言ったんだ?」
「ちょっとノマドちゃんの前だったんでカッコつけちゃいました。で、私って勝てます?」
一応、ノマドちゃん相手にはできる先輩を演じているからね。実際、ノマドちゃんも私のこと尊敬しているというか、まぁ色々あるから変なことはできないし。
「お前はシロヤマを神格化しすぎだ。確かにあいつは強い、強かった。が、今のあいつならお前の脚力で十分先着できる。サウスやグリンなんて最早敵じゃない」
「じゃあ勝つための作戦はあるんですか?」
まぁ、あるんだろうけどね。さてトレーナーさんはどんな作戦を選ぶかな。
「時計勝負だ。この前言ったようにレースの途中からでいい。お前がレースを引っ張れ。そうだな2周目からはもうスパートだ」
なるほど、早速あの作戦を試すと。確かに百万石賞を考えると、さっさと時計勝負にした方が勝率は高いのは間違いないかな。問題はその時計勝負に対応できそうな人がいることだけど。
「できなくはないと思いますけど中央の娘たちなら対応してきませんか?」
基本的に中央のレースはペースが早い。もちろんコース差もあるけど単純にハイペース耐性で言えば地方のウマ娘が見劣るのは間違いない。
「そんなことはない。というよりは白山大賞典に出てくるような連中ならシロヤマの方が強い。だいたい、去年はサウスが勝っているんだぞ?」
あ、そっか。言われて見ればシロヤマさんより強いウマ娘なんてそんなにはいない。中央っていう看板に惑わされちゃだめだ。トレーナーさんが言ったように白山大賞典も中央から見ればただの地方交流重賞。一戦級は出てこないんだから。
「確かにそうですね。で、シロヤマさんを相手にして私は先着できるんですか?」
「あぁ。それにお前も分かっているだろ? 自分がシロヤマに勝てるってことくらい」
うーん、それを言われちゃうか。
でも今までのレースと私の今の実力から考えると、結論はでちゃうんだよね。あんまり言いたくはないんだけど。
「断言はしませんよ。ただ、自分のレースをすればなんとかなるでしょうね」
「どうも金沢の連中は節穴が多い。お前が最強なのにな」
なんか今日のトレーナさんは私を持ち上げるなぁ。まぁ最近は結構褒められることも多くはなったけど。でも、どうも腑に落ちない。
「で、本当にそれが目的でノマドちゃんを動かしたんですか?」
「まぁそれもあるが、本当はシロヤマを焚き付けたかったんだよ。考えてみればシロヤマは白山大賞典に出走する気はなかっただろうしな。あんな風にノマドが動けばサウスあたりがシロヤマに発破をかけるさ」
「そこまでして私とシロヤマさんを戦わせたいんですか?」
トレーナーさんはどうしてシロヤマさんをそこまで気にかける?
ハッキリ言うと私が勝つためにはシロヤマさんが出てこない方が都合が良い。
ということはどうにかしてシロヤマさんに出走してもらいたい理由があるはず。
「あぁ。あいつは縛られてるものが多いからな、まぁ半分以上はあいつが勝手に縛ってるだけなんだが。それでいて自分が強いっていう自負もある」
「話が見えませんね」
回りくどいのは好きじゃない。トレーナーさんもそれは知っているはず。そんな思いを込めた一言だったけど、トレーナさんなら伝わるでしょ。
「はぁ。はっきり言って俺はあいつがあまり好きじゃない。だからぶっ潰してこい。簡単に言えばそういうことだ」
「なーるほど。分かりやすくて良いですね。そういう理由なら頑張って走りますよ。いやー、変に高尚なことを言われるかと思いましたよ」
まぁ、これが本当の理由じゃないことくらいは分かるけどね。それでも変なお題目を言われるよりは遥かにましだ。それにこういうバチバチな感じは嫌いじゃない。
「やっぱりお前は良い性格してるよな」
「知ってたでしょうに」
「まぁな」
相変わらずトレーナーさんも良い性格してますよ。レースに勝ったら本当の理由を教えてもらいますからね。