「よー、シロヤマ」
相変わらず馬鹿でかい部屋だ。大体、一生徒であるこいつが学園で部屋を与えられているのもどうかと思うが、中央のトレセンでも生徒会の連中が部屋を持っていたし似たようなものではあるか。
「なんだいサウス?」
「白山大賞典出るんだろ? 一応、確認してやろうと思ってな」
もともとシロヤマのやつには声をかけようとは思っていたが、どうもやらされてる感があるな。とはいえ、私の引退レースだ。私は私のために動くだけだが。
「あぁそのことか。まぁ出走してもいいんだが、君はどう思う?」
「出走してくれた方が私としてはありがたいがな。何て言っても引退レースだ、役者が多い方が盛り上がるだろ」
「なら出走するとしようか。君は金沢を盛り上げてくれた功労者だからね。本当のことを言うと君に花を持たせようかとも思ったんだよ」
にしても軽いなこいつ。もう少し熟慮してもいいだろうに。まぁ大方のところこうなることは予測していたんだろうな。にもかかわらず私が来るのを待っていたと。こいつとしては私の顔を立てたつもりなんだろうが。
だからこそ花を持たせるって言うのも噓じゃないんだろう。まぁ、今回の出走者を見ればそれも無理な話なんだが。
「どうせあのチビが出走する時点でそりゃ無理だろ。前走のグリンはよくやったよ」
カナメ。少なくともあのチビは私を全力で潰しに来るに違いない。あそこまで啖呵を切ったんだからな。そしてあのチビと私の力量差は…。
そう考えるとグリンが勝ったのは素直に称賛しないといけないな。なんせ私含めて誰も思わなかったに違いない、グリンが勝つと。
実際、グリンとしても万一の可能性に賭けてただけだろうしな。ただ、実際グリンのことが羨ましくないと言えばウソになる。
「確かにあの時の彼女はしてやったりだっただろうね」
「それによく考えれば、私は本気のチビと走ったことがない。東京大賞典は色々あったしな。お前がいてくれればあいつの本気の脚を見られるだろう?」
「あぁ、その節は協力してくれて助かったよ。それでカナメの本気の脚か。確かに彼女は強いからね、力が通用するのか確かめたい気持ちは分かるさ」
カナメの脚はシロヤマも越える金沢最強だ。それは私も認めてはいる。
だが、私もグリンもレースでは最強だとは認めてはいない。
「通用ね。シロヤマ、知ってると思うがみんなお前かチビかどっちが強いかで騒いでる。で、私もグリンもお前を推している。格下みたいな言動はやめろよ」
「盛り上がることはいいことだよサウス。でも君が私を推すとはね。君はカナメを評価していたし、何よりこういう時は自分を挙げると思っていたが」
「やっぱりそうだよな。確かに少し前の私なら自分を挙げてただろうな。そういう意味では私は終わってるのさシロヤマ。だが、カナメじゃなくてお前を挙げたのは間違いじゃない。金沢最強はシロヤマルドルフだろ?」
「サウス、今のカナメは強い。あの宝塚記念を見ただろう。あんなレースができるウマ娘を見たことがあるか? 少なくとも今の金沢には1人もいない」
あぁ、いないだろうな。中央の芝G1で3着、菊花賞では2着。中央にいた私には金沢の連中よりもそのことがどんなことかは分かるつもりだ。
だけど、タイトルだけならお前だって負けてないだろ?
「お前はどうなんだシロヤマルドルフ。地方の頂点を掴んだお前はよ」
ダービーグランプリ、それがシロヤマの勝ったレースだ。
地方の王者を決める戦い、しかもメンバーもかなりそろったそれをこいつは快勝した。おまけに従来のレコードを0.6秒も縮めてな。私も映像でしか見たことはないが、あの時のあいつは怪物だ。全盛期ならサザンアップセットにも引けを取らないに違いない。
「まったく、いつのことを言っているんだサウス」
「私はなシロヤマ、あのチビには中央の頂点を掴んでもらいたい。それと同時にお前には金沢最強でいてほしいんだよ。なぜだか分かるか?」
「全盛期の君に勝ったからかい?」
「まぁそれもあるわな。お前は全盛期の私とグリンを倒したわけだ、強くあってほしいのは間違いない。でも一番の理由はそれじゃない。お前には報われてほしいんだよ」
「報われる?」
「お前は強い、それはもう色んな意味でな」
金沢の皇帝シロヤマルドルフ。
こいつ自身はシンボリとは仲が悪いようだし不服かもしれないが、皇帝と呼ばれるだけの理由がある。こいつがいなければ今の金沢は間違いなくない。そのやり方自体はどうかと思わなくはないが、それでもこいつの努力、成果は決して軽んじていいものじゃない。
「私は最後にそんなお前に叩きのめされたいのさ。」
まったく、金沢最強の脚に皇帝、そしてライバルか。私の引退レースは派手になりそうだな。