地方は中央の2軍じゃない!   作:小魔神

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第87話

『今年の白山大賞典はかなりのメンバーが揃った。中央勢からは古豪キョウトシチー、デビュー7年目の彼女は今年も東海ステークスを制すなど好調を維持。一昨年の本レースを制したように金沢の適正も問題なく本命の1人だろう。そんな彼女に前走武蔵野ステークスで先着のマチカネワラウカド、更にここまで地方交流戦では複勝率100%オースミジェットが参戦』

 

 目の前に広がるのは金沢のレース新聞。普段は大した記事も載っていなければ予想も当たっていないけど、今日は白山大賞典の特集号だけあって、記事にも力が入っている。

 

「今年の中央勢はこんな感じだ」

 

「なるほど。強いんですか?」

 

 正直、名前が上がっているウマ娘の力についてはほとんど分からない。ただ、キョウトシチーだけは白山大賞典を勝ったこともあるし去年は2着と金沢に縁があるので何度か見たことはある。そつのないウマ娘と言った感じだ。

 

 そういえば、マチカネワラウカドも一時期はあのマチカネフクキタルと一緒にテレビに出ていたような気もする。

 

「キョウトシチーはこの路線のお馴染みウマ娘だ。とにかく安定感がある。こいつが中央の中だと大将格だと思っていい。が、本当に警戒すべき相手はこいつじゃない」

 

「ですね」

 

 記事に再び目を落とす。そこに見えるのは金沢のウマ娘の項目。記事を見ると実際にページを割かれているのは中央のウマ娘よりも金沢のウマ娘、というか私とシロヤマさんだ。

 

 おそらくこのレースは私とシロヤマさんの二強対決というのが世間の、いや金沢の見解なんだろう。そしてそれは私とトレーナーさんのそれでもある。

 

『しかし、今年は地元勢の奮闘に期待せざるを得ないだろう。昨年の覇者サウスヴィレッジも参戦するが、より注目されてるのはこの2人。まずは中央のファンにもお馴染みだろうカナメ。金沢のコースでは連対率100%、前走の宝塚記念3着の実績は中央勢を含めても最上位。ここをステップにジャパンカップに向かうことを表明しており、情けないレースはできない。そしてそのカナメと同じく、いやそれ以上の評価を受けるのが金沢の皇帝シロヤマルドルフだ。昨年浦和記念を制覇、その後の東京大賞典では3着とダート戦線ではトップクラスの力の持ち主。かつての地方最強ウマ娘の力量に衰えは見えない』

 

「やっぱり私とシロヤマさんの2強ムードですか。けど一番人気は私でしょうね」 

 

「だろうな。キョウトシチーやシロヤマもかなりの力の持ち主だが中央のファンに一番馴染みがあるのは芝戦線で走っているお前だ」

 

「マークされますか?」

 

「お前をマークするとしたらキョウトシチーが筆頭だ。シロヤマにしろマチカネワラウカドにしろ、あいつらは自分のタイミングで仕掛けるはずだからな」

 

「なおさら時計勝負に持ち込んだ方が良さそうですね。正直なところ同じ位置でスパートすればシロヤマさんにも負けないとは思いますが」

 

 シロヤマさんの脚は確かに凄いけど私の脚はもっと凄い。バカみたいな言い方だけど、これは間違いないはずだ。自惚れているわけじゃないけど、私の脚はそこらの強いウマ娘とは一線を画す。まずシロヤマさんには負けない。

 

「あぁ、一対一の戦いならまずお前が勝つ。が、レースなら別だ。シロヤマは力を使いきれる、簡単に言えばレースが上手い。東京大賞典もあいつの仕掛けどころは完璧だっただろ?」

 

 あのレース、シロヤマさんはサザンアップセットと限りなく同じタイミングで仕掛けていた。つまり、完全にサザンアップセットの動きを読み切っていたわけだ。加えて私のサポートのために距離損をしたうえで3着。確かに強い。

 でも、さっきも言ったけど今の私の方が脚力は上、ならその強みを発揮させないようにするだけだ。

 

「そうですね。ただ今回は私が強制的にペースを上げますから、その長所は潰せますね。問題は私が差されないかどうかだけです」

 

「そこはなんともだな。お前なら2,100mでも2分11秒程度で纏められると思っている。そして、そのタイムで走ればまず勝てるとは思う」

 

「まぁ前半のペース次第ですけどね。できれば前半が緩いところから一気に仕掛けたいところですけど」

 

 2分11秒は良バ場ならかなり早いタイムだ。でも、芝ならともかくダートなら高速決着の方が私には合う。ただ前半があまりにも早いと無理脚を使わされるし、前にでるのも大変だからやめてほしいなぁ。

 

「今回のメンバーは強力な逃げウマ娘がいない。もしかしたらサウスが逃げるかもしれないくらいだ。が、今のあいつはもうハイペースで引っ張る力は無い。中盤からはお前がペースを握れる」

 

「仕掛けどころは2周目の向こう正面ですか?」

 

「いや、そこだとシロヤマ辺りは仕掛ける。お前が仕掛けるのは先行争いが落ち着いた1周目のホームストレッチだ。そこから一周ペースを握れ」

 

「さすがに全開では無理ですよ?」

 

 いくら私でも全力で一周を逃げ切るのは無理。

 百万石賞のメンバーならともかく、今回のメンバーなら差されて終わりだ。まぁそれでも着内には残れそうではあるけど。

 

「あぁ。徐々にペースを上げるイメージだ。ただ向こう正面ではペースを上げておけよ? ここでシロヤマにポジションを上げられるときついからな」

 

「分かっています。ただ宝塚記念から白山大賞典まで3ヶ月以上空いているのでレース勘がどうなっているか不安ですね」

 

 シロヤマさん、というかシロヤマさんのトレーナーのチームは向こう正面で仕掛ける戦法を使うことが多い。実際にこれでかなりの実績を残しているし警戒はしないといけない。だからペースを緩めることはできないし、しない。

 ただそれをやる上で一抹の不安があるのも事実だ。百万石賞の時はシャインちゃんに忖度したのはあったにしても、時計感覚が狂っていた。今回はあの時以上に感覚が開くわけだし。

 

「イヌワシ賞を走らないと言ったのはお前だろうが。まぁ心配はいらないと思うぞ。今のお前なら走り切れる。この夏でお前はまた一つ成長したしな」

 

「自分じゃ実感あまりないんですけどね。ただ、タイムは以前よりも伸びたのは確かです」

 

 きっと今が私の成長のピーク。なんとなくだけどそんな気がする。どうにかしてこの秋で結果を出していくしかない。

 

「いずれにしても走れば分かる。頑張れとは言わない勝ってこい」

 

「ちなみにノマドちゃんには何か言ってあげたんですか?」

 

 ノマドちゃんも白山大賞典に出走するわけだし、トレーナーさんも何かアドバイスはしてるはず。本来はチームメイトといえど聞かない方がいいんだろうけど、今の私とノマドちゃんの力関係なら聞いても問題ないでしょ。

 

「あぁ。追走頑張れよってな」

 

「まぁ、まずはそこからですもんね」

 

 さて、ノマドちゃんは私のスパートについて来れるかな? 

 うーん、無理かなぁ。

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