10月10日。
今日は白山大賞典の1日前。 早めに練習を切り上げた私は部室でテレビを見ていた。
お目当ては京都大賞典。言わずと知れた中央G2レースだ。このレースにはスペシャルウィーク、メジロブライト、そしてテイエムオペラオーさんが出走する。
『内からツルマルツヨシ、内からツルマルツヨシ、最内メジロブライト。スペシャル動きが悪い6番手。先頭はツルマルツヨシ、オペラオーが突っ込んできた。内からメジロブライト。しかしツルマルツヨシ、ツルマルツヨシです。スペシャルウィークは惨敗』
「意外な結果でしたね」
結果はまさかのツルマルツヨシの勝利。はっきり言って私はあまり知らないウマ娘だ。本命のスペシャルウィークもオペラオーさんも負けてしまった。スペシャルウィークじゃともかくオペラオーさんは不運だったけどね。
「あぁ。スペシャルウィークはキレがなかったな。結果としてマークしていたテイエムオペラオーも共倒れだ」
「それでも切り替えたオペラオーさんの脚は凄かったですよ」
皐月賞もそうだったけど、オペラオーさんの一瞬の切れ味はかなりのものだ。ああ詰まった状況であの脚はスペシャルウィークやグラスワンダー、エルちゃんにも劣らない。
羨ましいなぁ、私にその脚があれば今ごろG1ウィナーなのに。まぁ、そんなこと言っても仕方ないんだけど。
「確かに非凡なものがある。が、世間の見方はスペシャルウィークの取りこぼしだろうな。それだけ今の中央はスペシャルウィークとグラスワンダーの影響がでかい」
「あの2人は強いですからね。一緒に走った私は分かります。でも勝てない相手じゃない。少なくともサザンアップセットに勝つよりは簡単でしょうね」
あの2人の力は疑わない。でも勝てないわけじゃない。宝塚記念も東京大賞典に比べれば見せ場もあったわけだから。
勝つ可能性は必ずある。そしてそれを手繰り寄せるのが今の私に求められることなのは分かっている。
本当は勝つだけならあの2人に金沢のダートで走ってもらうのが一番なんだけどね。まぁわざわざ来ることはないんだけど。でも、そこを無視してあの2人が最強だと持ち上げられるのは腹が立つのは事実だ。負け惜しみなのは分かっているけど、私はアウェーの舞台で戦っているわけだから。
でも、流石にこれを口に出すのは情けないから言わないけどね。
「お前の適性ならそうだろうな。どっちもその路線のトップだが、芝の方がお前は戦える」
「なんでも、スペシャルウィークは今年で引退らしいですね。エルちゃんもそうみたいだし、なんとなく寂しいです」
力のあるウマ娘はシニアの1年目に引退することが多い。特にヨーロッパなんかじゃ早期に引退して後進の育成に携わる傾向が強いみたい。
でも、この金沢みたいな地方のウマ娘や中央でもダート戦線のウマ娘は現役期間が長い傾向にある。理由は簡単で引退しても仕事がないからだ。
スペシャルウィークもエルちゃんも何かしらのオファーがあったから引退するわけだからね。生憎だけど私にはそれはない。
「お前のことだからライバルが減って喜ぶのかと思ったがな」
「まぁその気持ちもありますよ。私はまだまだ走りますからね。トレーナーさんの老後資金も稼いであげないといけないですし」
でもそれは悪いことじゃない。そもそも地方の私にはそういう仕事が無いのは分かっていたし、実力者から抜けていくってことは賞金も名誉も得られやすいからだ。まぁ、上が抜けてもオペラオーさんみたいに下の世代から有望株が生えてくるのがこの世界だけど。
「ぜひ稼いでもらいたいものだな。そのためにも分かってるな?」
「えぇ。まずは白山大賞典勝ってきますよ」
少なくとも、このレースに勝てないようじゃJCなんて勝てるわけもない。
エルちゃんとはもう戦う機会はないけど、スペシャルウィークとはあと一回は戦える。精々、彼女の経歴に傷を付けて賞金ももらえるよう頑張りましょうか。
そのためにもシロヤマさん、まずは越えさせてもらいますよ。