地方は中央の2軍じゃない!   作:小魔神

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第92話

「どうだ、勝った感想は?」

 

「まぁ、順当でしたね。多分、あの展開なら何度やっても私が勝ちますよ」

 

 まさに完勝。道中前に出てからは全く負ける気がしなかった。

 誰も叩きにくる娘がいなかったせいもあって、完全にマイペースで走れたからね。一番、力のある私が展開にも恵まれればこうなるのは当然なんだけど。

 

「本当は白山大賞典であんな走りをさせるつもりは無かったんだがな。とはいえ、お前の成長を加味すれば勝てても当然か。で、戦法としては使えそうか?」

 

「行けると思います。ただ、今回はスローな流れだったので前を叩けましたけど、力のあるウマ娘が引っ張っていたら叩けないかもしれません」

 

「実際サウスも盛り返してはいたからな。去年のあいつならお前を併せきった可能性はある。まぁ、あの機転は見事だったな」

 

「うまくサウスヴィレッジさんを内に押し込めましたね。あぁなると内側を走っている方はきついですから」

 

 金沢のダートは内が重いのもあるし、そうでなくてもコーナーでは内に押し込まれるとかなり厳しい。外側で走っている方は内に重心を持っていけるけど、内側は外に張って走ることになるからだ。まぁ、ただの併走なら内側が有利なのはそうなんだけどね。

 

「タイムも想定通り。この一戦に関しては言うことなしだ。次はいよいよ中央で通用するかだが」

 

「アルゼンチン共和国杯ですね。昔の私ならやらなかったかもしれないですけど、ここ負けてもいいと思うんですよ」

 

「と、言うと?」

 

「とりあえずどんなペースであろうと前を叩いて引っ張りますけど、垂れて負けます。そうすればジャパンカップの警戒が緩むと思うんですよ」

 

 逃げウマ娘にとって一番楽な展開は無視してもらうこと。後ろで牽制しあって仕掛けが遅れればしめたものだ。なら、そのためにも私の逃げは大したことないと意識してもらえばいい。

 

「まぁ、それも1つの手ではあるな。が、あまりおすすめはせん。そもそも、スペシャルウィーク辺りに勝つには届かない後方に置くかもがき合う必要がある。そしてそれはレース展開で左右される」

 

「そういう話でしたね」

 

 実際はもがきあいでも厳しいと最近は思っているんだけどね。何て言っても私とスペシャルウィークじゃトップスピードが違う。なんとか、併走できる展開になれば勝てる自信もあるんだけどスピードの差で置いていかれればそれも難しい。

 

「それにJCはまだ出走メンバーがハッキリしていない。つまりレース展開の予想ができない訳だ。天皇賞が終われば多少は見えるだろうが今は下手な小細工は考える必要がない。その時になれば自然と見えるだろうさ。勝って回りをびびらせた方が本番にはいいさ」

 

 まぁ確かに今の時点じゃなんとも言えないか。実際、強力な逃げウマ娘が出走すればこの戦法も使えるか分からないし。それならまだ、宝塚の時みたいにスペシャルウィークが仕掛けてくれた方が可能性はあるか。

 

 ていうか大事なことを忘れてた!

 

「そういえばスペシャルウィークって前走は結構な惨敗だったじゃないですか? 天皇賞はどうなんですかね」

 

 もしここでも惨敗するようなら、他の娘も含めて色々と考えないといけないことが出てくるはず。

 

「確かに事前の動きは悪いにしても負けすぎではあったな。が、地力はあいつが一番なのは間違いない。セイウンスカイやメジロブライト、それにツルマルツヨシらが出走するだろうが、格好はつけるだろ」

 

 改めて聞くと凄いメンバーだ。

 でも、JCはここに海外の強豪が加わってくるわけだしなぁ。さっきトレーナーさんが言っていたけど、本当に展開が読めない。

 

「一応聞くんですけど、仮にセイウンスカイ辺りが勝ってJCに出てきたらこの戦法無理ですよね?」

 

「その時はまた菓子折りでも持って打ち合わせするしかないな」

 

「まぁ、そうですね」

 

 でもあのときはお互いに約束を破ってたけどね。それでもセイウンスカイは比較的話が分かるウマ娘だ。それ相応のメリットを提示すれば何とか乗ってきてはくれると思うけど。

 

「それに今のお前にはもっと重要なことがあるんじゃないか?」

 

「えぇ、そうですね!」

 

 そうだ、今日の本題はこれじゃない。私たちにとって一番大事なことそれは…。

 

 

「イエーイ、なんと白山大賞典勝ちましたよ私!!!」

 

 勝った勝った勝った!

 私が一番勝ちたかったレースの1つ白山大賞典。金沢1のビッグレースを制したんだ。スゴいぞ私!

 

「いやーよくやった! 去年サウスに先を越された時はハッキリ言って悔しくてたまらなかったが、これでその気持ちとはおさらばだ」

 

「にしても、ついに勝っちゃいましたねトレーナーさん。実は結構緊張してたんですよ。勝てるって自己暗示してましたけど」

 

「俺はお前が勝つと思っていたがな。それにしても自分の教え子が中央勢を相手に白山大賞典を勝つとはな。中央での勝利とも違う喜びがある」

 

「こればかりは金沢の人間にしか分からないでしょうね。まぁ私は人間じゃなくてウマ娘ですけど」

 

 白山大賞典は、ハッキリ言えば全国的にそこまでは価値の無い、あくまでG3の交流重賞。そんなことは私も分かっている。 

 でも、金沢では一番格式の高いレース、だからこそ金沢の人間とそれ以外では懸ける思いが違う。

 何が言いたいかと言うと、めちゃくちゃ嬉しいってこと!

 

「それにシロヤマに勝ったのもあるしな」

 

「そう言えばトレーナーさん、それを気にしてましたもんね」

 

「あいつは自分がガキだってことを分かっていない。背伸びしているだけの子供さ。いくら口調や見た目を取り繕ろってもそれは変わらん」

 

「まぁ、それはそうでしょうけど」

 

 なんかウマ娘って慇懃無礼な娘が多いよね。この前のエアグルーヴもそうだけど、妙に偉そうっていうか。まぁ、私もそう思われているのかもしれないけどさ。

 

 にしてもトレーナーさんはきついこと言うなぁ。

 

「あいつは環境に恵まれなかったな。せっかくの才能が埋もれてしまった、言いたくはないが本来のあいつはもっと上の次元で戦えるウマ娘だった。初めて金沢で走った姿を見たときは心底驚いたよ」

 

 あぁなるほど、そういうことか。

 多分、トレーナーさんはシロヤマさんを担当したかったんだ。考えてみれば、トレーナーさんはシロヤマさんの走りはずっと評価をしていた。多分、あの才能に惚れ込んでいたんだろう。

 

「それなら私はトレーナーに恵まれましたね。才能が上のシロヤマさんに勝てたわけですし」

 

「シロヤマだってトレーナーには恵まれたさ。あっちの方が俺よりも上だ。ただ、放任がすぎたな。シロヤマの意向を尊重したんだろうが、あいつに重荷を背負わせてしまった」

 

「別に良いんですよ。シロヤマさんにとっては、レースで結果を出すことよりもそっちの方が優先することだった、それだけです」

 

「俺も頭では分かっているんだがな。ただ、シロヤマにそれをやらせてしまったのが申し訳ないのさ。それは金沢の上役はみんな思っている」

 

「でも、シロヤマさんだからこそできたことはあると思いますよ。そりゃ私も馬鹿じゃないですから、金沢のレースの不自然な点なんていくらでも分かります。でも、そのお陰で金沢は存続できた」

 

 本来、金沢に所属するメリットはほとんどない。けれど、私みたいな金沢デビュー組はともかく、冬場はレースがなくて賞金も低いここに中央や他場から移籍してくるのはそれ相応の旨味があるからだ。

 それがなんなのかは言わないけど、つまりはそういうこと。そしてそれをある程度融通していたのがシロヤマさんなんだと思う。もしかしたら、シロヤマさんにやらせていただけなのかもしれないけど。

 

「本来、そうなった時点で廃止になるべきだった。少なくとも当時の俺はそう考えていた」

 

 まぁ、それも1つの考え方だとは思う。だって私たちのレースの性質上、それは許される行為ではないのだから。

 けど、その行為はある意味で多くの人を救っていたのも事実だ。だから、トレーナーさんは何もしなかったし、何も言わなかった。それも無責任ではあると思うし、トレーナーさんも分かってるはずだけど。

 

「今は違うんですか?」

 

「どうだろうな。あの時の金沢は正しい姿じゃなかった。だが、そのお陰で今があるのも事実だ。そして、お前に出会えた」

 

「なら私たちのキューピッドはシロヤマさんですね」

 

「だけじゃないがな。グリンやサウスだって中央から金沢を選んでくれた。そして、あの2人は金沢で中央OPレベルの激戦を繰り広げて客を呼んだ。まぁ、それもシロヤマの活躍や名前が理由の1つだろうがな」

 

 確かに私が金沢に入るころ、あの2人が金沢の主役だった。交流重賞でも上位に入っていたし、金沢にもこんなウマ娘がいるんだと誇らしかった。それが入学した理由の1つなのは間違いない。

 けど、トレーナーさんに言わせればそれもシロヤマさんの功績みたいだし。だったらなぜ?

 

「そんなシロヤマさんをどうして嫌いなんですか」

 

「どうしてだろうな? ただ、明日からのあいつは好きになれるかもしれない。なんだかそんな気がするんだよ」

 

「まぁ、そんなとこはどうでもいいんですけどね。それより祝勝会しましょう! そこで借りてきた猫みたいに黙りこくってるノマドちゃんも可哀想じゃないですか」

 

 あー嫌だ嫌だ。こういう、重苦しい話しはもう結構。結構頑張って付き合ってあげたんだから、もういいでしょう。それにトレーナーさんの決め顔もちょっとうざかったし。

 

「あ、私もそろそろ喋ってもいいですか? なんか雰囲気重そうだったんで」

 

 ノマドちゃんは空気が読める娘だね。でも、ノマドちゃん意外と図太いところあるから、面倒くさくて口を開かなかっただけの可能性もあるけど。

 

「あー分かった分かった。それじゃ飯でも買いにいくか、金なら払うから領収書だけもってこいよ」

 

「いやいや、半分は私が出しますよ。大体、賞金の取り分だって私の方が多いですし」

 

 実際、お金で言えば私の方がトレーナーさんよりは持っていると思う。なんせレースって言うのは賞金が凄いからね。

 

「さすがカナメさん太っ腹です!」

 

「教え子に金を出させる訳ないだろ。こういうのは年上の面子がある。黙って領収書をもってこい」

 

「そんなこと言って経費で落とすんでしょう? まぁ分かりましたよ。それじゃノマドちゃん行こっか」

 

「はい!」

 

 うん。やっぱり、これくらいの空気感の方が私は好きだな。

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