「リラックスは…できたんだよな?」
「リラックスはともかく気晴らしにはなりましたよ、色々あったんで」
どうも先輩たちと外出すると碌なことにならない。
特に今回はシロヤマさんが色々ひっかきまわしてきたし…。トレーナーさんに語ることではないけど。
「まぁ、深くは聞かないようにするが」
「そうしてださい。それよりJCですよ、出走メンバーが確定しましたね」
「あぁ。グラスワンダーは回避、セイウンスカイも怪我。クラシック世代も3強は出走してこない。必然的に日本総大将はスペシャルウィークだ。ただ、今年は海外勢がかなり強力だ」
「えぇ、エルちゃんを倒したモンジュー。ドイツの強豪ティガーヒューゲル、それに英ダービーウマ娘と独ダービーウマ娘も出走するんですよね」
去年に比べてもかなりのビッグネーム。ただ、今年はアメリカの強豪ウマ娘がいない。これはラッキーだ。一般的にヨーロッパのウマ娘は瞬発力に秀でて、アメリカのウマ娘はハイペース戦に耐性がある。
私の戦法を考えると、ヨーロッパのウマ娘とは相性が良いはずだ。
「よく知っているな」
「新聞に書いてありましたから。ただ、その新聞少しイラついたんですよね」
「何か書かれたか?」
「逆です。今回のJCは世界のダービーウマ娘が4人出走するって書いてあったんですけど、石川ダービーを勝った私の名前が書いてないんですよ」
「まぁしょうがないだろ。正直、お前も書かれるとは思っていなかっただろ?」
「ですけど、なんか地元がバカにされているみたいじゃないですか」
そりゃあ石川ダービーがメジャーなレースじゃないことくらいは理解している。理解しているけど、実際に無視されるのは気分がよくない。まぁこれは我儘みたいなものだけど。
「世間的にはお前は石川ダービーウマ娘というよりは、地方最強っていうくくりで見られているからな。石川ダービーよりもこの前のアルゼンチン共和国杯を勝った方が印象は強いさ」
「もしかしてですけど、このレース日本のウマ娘でスペシャルウィークの次に人気があるのって私じゃないですか?」
「実績的にはそうだろうな。おそらく3~4番人気ってとこだろう」
「テンション上がりますね」
これだと新聞の印もぐりぐり。
また、スクラップにしないといけない記事が載っちゃうなぁ。
「緊張するか?」
「何言っているんですか? 今回のメンバーで一番人気を背負った回数は私が一番多いんですよ。今更3番人気で緊張なんかしませんよ」
「確かにそうだな。何も間違っちゃいない素晴らしい理論だ」
「私は純粋なので素直に受け止めておきますよ」
実際のところは緊張もしているし、不安もある。
けど、どんなレースでも多かれ少なかれそういう感情はあるわけだし今回もそれと一緒だと思えばいい。
「作戦も…今更考える必要はないな。前走である程度、手応えも課題も掴めている。後はお前の方で上手く調整してくれ」
「またえらく放任ですね。でも、任せてください。少なくともベストは尽くしてきますよ」
この作戦のいいところは出し惜しみがないことだ。少なくとも脚を余すことはない。負けたとしたら自分の脚が足りなかっただけ。
ただ、トレーナーさんの顔は渋い。何かあったかな?
「…今回は勝ってくるとは言わないのか?」
「言ってほしいんですか?」
渋い顔の理由はそれかい。
言ってもいいんだけど、最近それを言ったときはほとんど勝ててないからなぁ。
「そうだな。言ってくれた方が嬉しい」
ありゃ珍しく素直なトレーナーさんだ。まぁ、これは一種のお決まり事だからね。あんまり縁起は良くないんだけど言っちゃうとしますか。
「欲しがりですね。でもまぁ期待に応えるのがスターですから。それじゃあ勝ってきますよ。JCの後にはあなたは世界一のウマ娘のトレーナーです」
「人の期待に応えるのがスター。そしてその期待を上回るのがスーパースターだ。お前には後者になってほしいものだな」
「もうすでにトレーナーさんの中では私はスーパースターでしょうに」
「違いない。お前は俺の期待を上回ってきたからな」
「なら今回もそういうことですよ」
あぁもう勝ちたい!!