『坂下4コーナーカーブ直線であります。先頭は粘っていますユニオングローリアス。ユニオングローリアスが逃げ切るのか。外からはグングンとタイキヘラクレスが伸びてくる』
盛岡ダート2,000m。シロヤマさんが勝ったダービーグランプリに今年はノマドちゃんが出走している。ちなみに最低人気だ。
『差し切りましたタイキヘラクレス。2着にはユニオングローリアスが粘り切っています』
「どう見た?」
一緒にレースを見ていたトレーナーさんが声をかける。
「いいものを見せてもらいました。スローとはいえ3コーナから位置を上げてゴールまで伸び続けてましたね。かなりの持続力ですよ。正直ノマドちゃんがここまで走れるとは思いませんでした」
「インが空いてたとはいえ、あの仕掛けで持たせるとはな。お前といいノマドといい、もう少しレースを覚えてほしいもんだ。まぁ、今のお前はそこまで不器用じゃないがな」
1,2着の娘は中央所属。
そして地方最先着の3着に食い込んだのは、なんと最低人気のノマドちゃん。
これは泣いているファンも多いだろうなぁ。…悔し涙の人の方が多そうだけど。
レースの方もスタミナがあることを証明した悪くない内容だ。少なくとも、不器用なりには走り切っている。けど同時にスピードが足りないところも見えてしまったかな。
「ところで、トレーナーさん気づきましたか? ノマドちゃん、3着なのに一回も名前呼ばれてないですよ」
後日、それを知ったノマドちゃんは凹んでいたけど、その詳細は本人のためにここでは言わないことにする。
とにかく、後輩がG1の舞台で頑張ったんだ。先輩の私が無様な姿を見せるわけにはいかないよね。
まったく、また一つかかるプレッシャーが増えちゃったよ。まぁ、私はそういうのあまり気にしないけどね。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
『ワールドカップもジャパンカップも想いは一つ頑張れ日本。ジャパンカップの本バ場入場です』
そして迎えたJC。毎度のことながらバ場は良。
こればっかりは本当に運がないなぁ。
ただ、今年は去年と違って圧倒的に恵まれた点がある。
『それでは各ウマ娘のバ場入場です。1枠1番、金沢最強は日本を飛び越え世界最強へ。黄金の意思に陰りなし。4番人気カナメは悲願のG1勝利に向けてどのような走りを見せるのか』
そう、絶好枠を引き当てたのでした!
この枠なら出遅れさえなければ自然と位置がとれる。出遅れなければね…。
あとは有力な娘たちがどんな風に走って来るかだけど。
せっかくだし、考察タイムといきますか。
『サンクルー大賞ではエルコンドルパサーの2着。文句なしのドイツ最強ウマ娘、ティガーヒューゲル』
まずは事前評価の高いティガーヒューゲル。人気も私より上の3番人気。
エルちゃんと走っていたレースを見た限りだと先行するタイプ。スパートは早めにかけてくるはずだから、上手く距離を稼いでおかないといけないね。
『昨年の沈黙の日曜日、サイレンススズカが涙をのんだこの府中で君は世界に向けて羽ばたいてゆけ、ラスカルスズカ』
唯一のクラシック組から参戦した娘。バックボーンもあるし人気もするよね。
でも、レースになればどうかな?
『昨年、今年の香港年度代表ウマ娘。初の香港ウマ娘の参戦クォルトロン、13番人気の低評価は不服でしょう』
香港年度代表ウマ娘かぁ。
正直あんまりぴんと来ないんだよね。レースも見たことないし…。でも本人はすごく日本が好きみたい。なんで知っているかって? さっき裏で喋ったからね。
『最強のシルバーメダリスト、今日こそ輝くステイゴールド』
何か不思議なウマ娘、ステイゴールド。
シャインちゃんに教えてもらったけど、白山大賞典にも来ていたみたい。
レーススタイルもよくわからないんだよね。基本的にはステイヤー気質だと思うんだけど…。
まぁ、あんまり考えても仕方ない。それに今回の私の走りをする上ではあんまり障害にはならなさそうだし。
ちなみにさっきからチラチラ見られているのは気のせいなのかな?
『さぁここからは全てが世界のダービーウマ娘。昨年のイギリスダービーウマ娘、スカイスクレイパー。天才トレーナーとの二人三脚で勝利を目指します』
レースの本場イギリスのダービーウマ娘。でもその割には全く人気していないんだよね。近走は不振だし、ダービーはトレーナーのお陰だとか言われているけど、地力はあるはず。
『そして真打の登場です。逆襲のランから一ヵ月、天皇賞春秋連覇の日本総大将。去年の日本ダービーウマ娘、スペシャルウィークが勝利を掴みに戻ってきました』
なんやかんやで一番のライバルはこのスペシャルウィークに間違いない。
とにかくこのレースで考えないといけないのはスペシャルウィークに喰われないこと。その結果、他の娘にやられたとしても仕方ないって割り切る必要がある、まぁそこまで割り切れるかっていうと別の話ではあるけれど。
『このウマ娘からも目を話すことはできません。フランス、アイルランドのダービー制覇。そしてあのエルコンドルパサーを差し切った世界の脚。凱旋門賞ウマ娘、これがモンジューです』
で、もう一人の注目ウマ娘がこの娘。エルちゃんを差し切ったあの脚は流石の一言。願わくばスペシャルウィークとモンジューで後ろで牽制しあってくれると非常に助かるんだけど、多分そう簡単にはいかないんだよね。
『一昨年、42年ぶりに誕生したティアラ路線のドイツダービーウマ娘、ボーギア。屈腱炎明け初の勝利を府中で目指します』
ティガーヒューゲルと同じドイツのウマ娘。怪我明けだから人気を落としているけど、実績はこのメンバーでも最上位。警戒しないわけにはいけないね。
有力どころはこんなもんかな。
そんなことを思いつつ、準備をしていたところに話しかけてきたウマ娘がいた。
◇ ◾️ ◇ ◾️ ◇ ◾️ ◇
「こんにちは、カナメちゃん。こうして話すのは初めてだよね」
「スペシャルウィーク…さん。確かにそうですね。これまで一緒に走ったことはありましたけど」
私の名前はスペシャルウィーク。
この世代のダービーウマ娘で、日本総大将。
けど、そんなのは私が自分で名乗ったわけじゃないんですけど。
ただ、私は一所懸命頑張ってきただけ。
そして目の前にいるのは同世代の地方代表のカナメちゃん。今までたくさん走って勝ったり負けたりしてきた相手。
「そうだね。でも酷いよね、エルちゃんもグラスちゃんもセイちゃんだってカナメちゃんと仲良くしていたのに私そのこと知らなかったの」
とくにエルちゃんは普段から連絡取り合っているみたいだし、もう少し早く教えてくれてもよかったのに。
でも、グラスちゃんは苦虫を嚙み潰したような顔もしていたけど、あれはいったい何だったんだろう? セイちゃんは横でそれを見て笑ってたし。
「後者二人は仲良しというには、ちょっとあれですけどね。で、私と仲良くしたいから話しかけてきたんですか?」
「それも無くはないんだけどね。でも、一言言っておきたくてね。La victoire est à moi エルちゃんに教えてもらった言葉。良い勝負をしようね」
ちなみに、さっきモンジューさんにこれを言ったら驚いた様子を見せてたけど、そんなに私がフランス語を話すのってびっくりすることなの?
「言葉の意味は分かりませんけど、ありがとうございます。でもスペシャルウィークさん、あなたの一番のライバルはモンジューさんでしょう? 私も頑張りますけどエルちゃんのためにも勝ってあげてくださいね」
ニコリと笑って手を差し出すカナメちゃん。やっぱり良い娘だ、なら私もより一層頑張らないと!
「一緒に頑張ろうね」
◇ ◾️ ◇ ◾️ ◇ ◾️ ◇
ふぅ、びっくりした。
まさかスペシャルウィークが話しかけてくるなんて。
あんまり意識されたくないんだけどなぁ。
でも、エルちゃんから聞いていたように良い娘だったなぁ。言っていることはよくわからなかったけど。
それよりも、あれでスペシャルウィークはモンジューのことを多少意識してくれるかな?
結構、スペシャルウィークはエルちゃんの凱旋門賞を引きずっているみたいだし。
私? そりゃエルちゃんが負けたのは悲しいけど、それはそれ。
レースっていうのは自分のために走るものだからね。変な感情は抱かないに越したことはない。
後悔は別にして、そういう感情を持ち込んだことで消化不良で終わったレースもあるしね。
お願いだからスペシャルウィーク、レースじゃなくてモンジューに勝つレースをしてよね。