「「あ」」
今年何度目かになる偶然の出会いに感謝した瞬間だった。
山梨の大学に進学した僕は、歳の近い叔父の家の一部を間借りさせて貰いながら大学生活を楽しんでいた。
といっても、ボッチな上に人が密集している場所は苦手な自分は週末になると取り立ての免許と、このために必死で貯めた貯金を0にして買った相棒、スズキのVストローム(足りずに親に借金した)でソロキャンプに出掛けるようになっていった。
叔父のキャンプ道具を引っ張り出して、必要最低限のギアで向かった先は本栖湖。
ソロだからこそ簡単に設営を終え辺りの散策兼薪拾いに出掛けた。
秋にもなるとオフシーズン、場所も関係なくお気に入りの場所に設営して後は自分の思うがままに楽しむキャンプが始まるのだ。
そんな中、湖畔に最近良く遭遇するようになった少女と出会った。
「こんにちは」
「こんにちは」
互いにコミ障な気質だからか挨拶こそすれど、後は自分達の時間を楽しむために行動をする。
薪を集め終わると火を起こし、お湯を沸かし、叔父から貰ったお茶を煎れる。
最近はコーヒーよりもお茶を飲むことが多く、叔父の友人がくれたボール型の茶漉しを利用させて貰っている。
少し、まったりしたら夕飯の準備に取りかかる。
叔父達の影響でキャンプ飯に填まって以来、作るのが楽しくて仕方がない。
かといって、大学に進学するまで料理なんてしたこと無かったから未だに簡単なものしか作れないけど。
「ふっふっふ、今日は豪華に水餃子だぜ」
1.持ってきたクッカーに水と鶏ガラスープの素を入れる
2.一煮たちしたら事前に火を通しておいた薄切り玉ねぎと人参を入れる
3.塩コショウで味を調節し、最後に水餃子(冷凍)を入れる
4.水餃子が茹で上がったら完成
「旨そう、シェラカップに取り分けて辣油をかけて、いただきまーす」
うん、やはり旨い。
そして、中華風なせいか中国茶がよくあうぜ。
すぐに1回目を食べ終えて2回目を作り始めた時、湖畔にいるあのこの子とが気になった。
「また、カップラーメンなのかな」
志摩リンは失態を犯していた。
「寒い、秋だからって油断した」
秋の陽気と少し肌寒い風に負け眠ってしまい持ってきたガス缶が空だったことに気が付いた時は既に辺りは暗くなっていた。
「今から薪探すの危ないしな、今日はさっさと寝よう」
ブランケットに包まれながらガタガタと震える身体を擦り、さっさと寝ようと決意するリンだったが、先程からお腹がなって眠気が来ないのであった。
「寒い(あのお兄さんは大丈夫かな)」
リンは最近良く顔をあわせる青年のことを思い出した。
会えば挨拶する程度の間柄だが、干渉しょうとしてこない青年のことをリンは少なからず好感をもっていた。
突然、リンの鼻が美味しい匂いを嗅ぎとった。
空腹のあまり物凄い勢いで後ろを振り向くと。
「あ、ごめんね。作りすぎちゃってさ、もし良かったら食べて」
今しがた頭の中に思い描いた青年がご馳走(にしか見えない)を持ってきてくれたのだった。
「はい、ガス缶」
「ありがとうございます」
紆余曲折を経て現状を知られたリンは水餃子に温かいお茶をご馳走になり、その上ガス缶まで恵んで貰っていた。
「気にしないで、最近良く会うね」
「そうですね」
「僕、“
「志摩 リンです」
その後、何度と無く会話が途切れるが互いのことを話た。
「それじゃ、気を付けてね」
「ありがとうございました、おやすみなさい」
凛悟が自分のサイトに戻っていき互いに一人の空間になる。
就寝の準備を終え、眠りに就こうとしてふと空を見上げる二人。
「「(今日は月が綺麗だな)」」
全く同じことを思ったことは、二人が見上げた月も知らないことであった。
数日後
「(あの水餃子美味しかったな)」
リンはアルバイト先の書店でこの間恵んで貰った水餃子に思いを馳せていた。
「(いい加減、カップヌードルも飽きてきたし、そろそろキャンプ飯でも挑戦しようかな)」
手元のキャンプ雑誌に目を向けると美味しそうで簡単そうなキャンプ飯が特集されていた。
「すいません、取り寄せを頼んでいた者ですが」
客が来ていたことにすら気付かず妄想に耽っていたため、ワタワタと慌ててしまい、立ち上がった瞬間に思い切り脛をぶつけてしまったリン。
あまりの苦痛に声も出せないでいる。
「あの大丈夫ですか」
「はい、ご心配無く」
リンが顔を上げると、先程思いを馳せていた水餃子の後ろに朧気に写っていた青年が目の前にいた。
「「あ、どうも」」
リンがなでしこと出会う1週間前のことであった。
原 凛悟(はら りんご)
大学1年生の男子生徒。
ジェンダーな体格で弄られてきた同年代恐怖症ともいえるコミュ障。
元々、キャンプは好きだったのでそのまま趣味になった。
現在は獣医の叔父の家の一部屋を間借りして大学に通っており、バイト代の大半は相棒に消えていっている。
数年後に奥さんとの出会いを聞かれた時、小学生かと思ったと素直に言って脛を蹴り上げられてしまう程度には対人コミュニケーション能力は上がっている。