「うぉいひぃよ、お兄ちゃん」
“
とある番組で“天才料理少年”ともてはやされ、大人の都合で消費された大翔を両親が気遣い、静岡県の親族に預けられたのが5年前。
同年代の子と接する機会がなかった大翔は転校先の学校でも浮いた存在になっていた。
そんな大翔を普通の生活に戻してくれたのが、それで良いのかという量の餃子(推定200個)を完食し、デザートの胡麻団子を幸せそうに頬張る「各務原なでしこ」であった。
精神的にも落ち着きを取り戻し、料理が再び出来るようになった大翔は地元の山梨に戻ることになったのだが、その時目の前のなでしこが大泣きしたのは今も忘れられない記憶であった。
「ごちそうさまでした」
「お粗末様でした」
パンッと勢いよく合掌するなでしこの頭を当然のように優しく撫でる大翔は、第三者が見れば完全に飼い主とペットであった。
「えへぇ、ヤマトお兄ちゃんのご飯はやっぱり美味しいね」
「引っ越してきて早々になでしこに料理を振る舞えてオレも嬉しいよ」
山梨に越してきた各務原家は目の前のなでしこが惰眠を貪っている間に食料の買い出しに出掛けていた。
お腹が空いて起きてきたなでしこは冷蔵庫にも備蓄庫にも何もないことに絶望し、唯一の知り合いである相模原家に助けを求めた。
その結果、原チャに積めるだけ積んだ大翔が現れたのだった。
独特のゆる~い雰囲気を全身から放出し、食休みをするなでしことキッチンで後片付けに勤しむ大翔。
同い年なのに気が付いたらお兄ちゃんと呼ばれ、気が付いたら餌付けし終わっていて、気が付いたら好きになっていた。
大翔にとってなでしこは摩訶不思議な存在であった。
後片付けも終わり、リビングに行くと先程までだらだらしていた筈のなでしこは姿を消していた。
「じゃっじゃ、じゃーん」
なでしこの声で後ろを振り向くと、そこには本栖高校の制服を着たなでしこ(女子高生Ver)が決めポーズをしていた。
「えへへ、明日から同級生だよお兄ちゃん」
「あぁ、そうだな」
冷静に返した大翔だったがその心の内は。
「(うわ、可愛いい。なでしこ超可愛い、めっちゃ可愛い。こんな可愛い生物存在したんだ。てか制服なでしこなんてどんだけレアなんだよ。あぁ~も~本当に可愛すぎ。カメラは、カメラはどこだ。神様仏様森羅万象のありとあらゆる方々、なでしこと同学年に生まれさせてくれて本当にありがとうございます)」
外に出さないだけで狂喜乱舞していた。
「なでしこ」
「なに?」
大翔はなでしこに顔を近づける。
その距離はあと少しでキス出来てしまいそうな距離だった。
「大好きだよ」
「えへへ、あたしも」
言葉にのせた好意の方向は違うけどいつか必ず振り向かせてやる。
大翔の長い長い(本人が思っていた以上に)長い欲望の戦いが幕を開けた。
富士のキャンプでしぐれ煮を作成したなでしこ。
その出来には皆が称賛を送った。
「えへへ、此れはお兄ちゃんが教えてくれたんだよ」
「え、なでしこお兄さんいたの」
「確か大垣さんがお見舞いに行った時はそれらしい人居なかったんだよね」
千明と恵那の問いに顔を赤らめながら明らかに照れた感じで頭をかくなでしこ。
「いや~、“おにいちゃん”って言っても再従兄弟で同い年なんだけどね。2年くらい前に静岡にいた頃に長く家にいてね、あたしにすごくよくしてくれたんだ」
その時のことを思い浮かべ、顔がにやけるなでしこ。
「いっぱい、美味しいもの作ってくれてね。この間も「なでしこにだったら毎日お味噌汁作って上げるよ」って言ってくれてね」
「一寸待て」
なでしこの発言に待ったをかける千明。
「なでしこさん、意味分かってる?」
「え、文字通り毎日朝御飯作りに着てくれるって訳じゃないの」
なでしこ(と起き抜けの美波)を除く4人は一斉にため息が出てしまった。
「「「「(その再従兄弟さん、苦労しそう)」」」」
「え、何々みんなして」
今自分が思ったことが特大のブーメランであることに気が付かない4人であった。
相模原 大翔(さがみはら やまと)
なでしこ達と同い年別高校に通う男子高校生。
元子役だったこともあり、顔面偏差値は極めて高い。
一時期「天才料理少年」ともてはやされたが飽きられてしまい、引きこもッてしまう。
両親の英断で母方の再従兄弟で家族全員がおおらかな各務原家に預けられ、見事に復帰。
特になでしこのことは異性として好意を抱いているが、なでしこ本人からは完全に「兄」としてしか見られていない。
まぁ、大人になるまでに何とかしようと、腹黒く計画を進行中。
本人は策士ぶってるが周りからはなでしこに向いている好意はバレバレ。