生まれ変わり。俺は今それを体験している。昔は生まれ変わりに対してあったら良いなと思っていたが実際に体験してみると喜びは沸いてこなかった。
理由はわかっている。それは前世への不完全燃焼に終わったせいだ。もし寿命的に死を認識していたなら俺は手放しでこの状況を喜べただろう。
しかし、俺の意識が飛んだ当時は25歳、まだ人生半ばどころか序盤に当たる位置だろう。
それに転生した状況が状況だった。意識が目覚めるのがまだ腹のなかにいるときからだったのだ。まだ目も見えないし、耳も聞こえないそんな時期に意識だけが目覚めるってのは苦痛だ。出られるまでに出来ることは体を動かすことと考えることだけで、バカみたいに長い時間をずっと一人だ。心が複雑骨折した……もう思い出したくない。
今はやっと、目や耳がしっかり使えるようになったところだ。ここまで長かった……しかし今回、俺は何処に生まれたのだろう? 部屋の内装を見る限りこの部屋は物がほぼない。つまり、赤子に一室与えられる程は裕福なようだ。しかしそれは具体的に何処かわかるような特徴ではないので判断がつかない。そこのところは結構気になるので早く知りたいところだ。
それについてあーかもこーかもと考えていると扉が開くた音がきこえた。扉の方向に目を向けると、見知らぬ女性が入ってきた。状況から考えるに母親だろうか?
母親らしき人は視線を向ける俺を見て表情を驚いたように変えた。
そしてゆっくり俺がいるベッドに近付いてくる。
俺はそれを目で追いながら考える。
あの人の服はなんと言うか古くさい、物理的なことではなく時代的に。あの人が着ている服はTシャツなど現代で一般的な服と比べピッシリとしていて、何処か中世擬きのアニメの何かで見たような形だ。メーカーのロゴも見当たらない。もしかして過去に生まれ変わったのか? それともこの人が中世ぽい仮装をする変人というだけなのか?
そんなことを考えていると近付いてきていた母親擬きは俺を見つめて言う。
「目で追っている……見えるようになったのね。ふふ、私はお母さんですよ~」
と嬉しそうにしながら今生の母親は言う。
やっぱり母親だったのか……ん? 日本語? あれ? ここ日本? 母親の外見から日本じゃないと思ってた……もしかしてハーフ? ……全然分からねぇ!
俺がそんなこと考えていると現母親は
「あぁ、そうだったあの人にも伝えないと!」
と言って部屋から出ていった。
あの人って言うのは多分今生の父親のことだと思うがどんな人なのだろう、とさっきまで続けていた思考を切り替えその人物のことを考える。
しばらく考えていると、ドアが開き二人の人が部屋に入ってくる。片方は現母親でもう片方は見知らぬ男性だ。その男性は整った髭を生やしていて、現母親とデザインは違うが同じようにアニメの中世的な服を着ている。この人が多分父親なのだろう。
父親らしき人は笑みを浮かべながら言う。
「順調に育っているな。生まれてから一度も泣かないから心配していたが杞憂だったか」
「そうよ、この子はしっかりと育っているわ」
現母親は現父親(仮)に言った。
「タルクこの人があなたのお父さんよ」
現母親は俺を見ながら手を横の父親擬きに向けて言う。
やっぱりあの人は父親だったか。タルクというのは俺のことだろうか?
「言ってもまだ分からないと思うが……」
「分からないとしても、最初に知ることが親のことだったら嬉しいじゃない」
「だからといって、顔を合わせる度にするか?」
それは思った。前までは声しか聞こえなかったから壊れたラジオみたいに繰り返されて怖かった。
それにしても二人の会話を聞いている度に思うことだが悪そうな親じゃなくて良かった。
生まれたときの俺は腹の中でのボッチ期間で心がボドボドだったから、今の親より感じが悪かった場合の俺の姿は想像したくないな、と俺は安心しながら眠りについた。
それから二週間程経ったある日の昼
明るい光が窓から射し込む。今日も晴れのようだ。しかし、今日の天気とは裏腹に俺の気分は暗い。それは俺があることに気づいたせいだ。
生まれてから一度も排泄機能が働いていないことに!
状況に慣れてきてやっと気づいたが、何だこの体!? 親達も当たり前のように接してくるけど気づいてないの!? …………もしかして俺がおかしいの……? 考えても考えても分からない。
ガチャと扉の開く音がする。入ってきたのは現母親だった。
「そろそろかしら……」
何が? いったい何の話? とよくわからないことを言う現母親の方へ意識を向ける。
すると真横まで近付いてきた現母親は人差し指を俺に差し向け大きなSを描くように動かした。母親の指が通った所には紫の光が残った。母親は紫の光が形作ったSの真ん中を押し込む。すると、そこには少しの光と共に紫の四角い面が現れた。その四角には数字とアルファベットが写っている。
………………は???????????
オイオイオイオイオイオイオイステイシアの窓!? ステイシアの窓なんで!? …………ステイシアの窓ってSAOのやつだったはず……なんで……………………………………?
いや、待てよ? それだったら俺の排泄機能が働いていないことに説明が着くような……?
現母親はステイシアの窓のような物を見て言う。
「しっかり天命の最大値、増えているわね」
天命、それもアリシゼーションに登場した言葉だ。作中にて天命の数値が表すのは命の数値、つまりゲームで言うHPだ。どんどん今いる世界がアンダーワールドであることの証明が成されていっている。本当にここはソードアートオンラインの世界なのだろうか? まだ前いた世界への生まれ変わりはテレビの特集などでの取り上げを見て可能性を否定仕切れなかったからなったらなったで 本当にあったんだ と言う感じに割りとすんなり落とし込めただろうが、創作物の世界に関しては転生したものがいるとしても証言がないから有り得ないと否定していた。だから信じがたい。しかし状況からすればここはアンダーワールドなんだよなぁ…………もう少し様子を見ておこう。そう考えて眠りについた。
それから二年程が経った。その二年の間俺はこの世界について聞こえてきた知識と今の年齢で喋れそうな範疇の質問を現親にして得た知識を俺の持つアンダーワールドに関する知識と照らし合わせる作業を続けていた。今のところ俺の知識に反する情報はない。貴族の在り方や禁忌目録の存在そのどれもが俺の知識と合致していた。
二年の内最初の方こそ現状を認められずにいたが、別に嫌な訳じゃなかった。人の良さそうな親の元に生まれ新たな人生を歩む機会を得た。嫌なはずがない。だからこそ、中盤に差し掛かる辺りにはその気持ちに折り合いをつけることができた。まあ、だから今は ここがアンダーワールドである ということを受け入れるようになった。今では楽しみですらあるぐらいだ。
この世界はアンダーワールドだ。俺がまだ確かめていないところはあるが、多分そうだ。アンダーワールドというのはソードアートオンラインという作品の中にある仮装世界の一つでこの世界の日本の自衛官である菊岡 誠二郎率いるラースという組織がゲーム作成支援パッケージであるザシードを基盤にして作った。目的は人間と遜色ない思考を持つ人工知能《高適応性人工知能》を作ることでこの仮装世界に居るライトキューブというクソデカい容量を誇る箱に赤子のまっさらな魂をコピーして出来た人工知能達が禁忌目録を破り《高適応性人工知能》になることを望んでいる。尚アンダーワールドは外の世界の1000倍の早さで時間が過ぎることと人の魂の寿命が150年しか持たないという考えがあることからアンダーワールドには基本的に外の人間が入ってくることはなく人工知能達だけで世界が回っている。
つまり、この世界に生きる人は外部から入ってきた人以外全ての人が人工知能ということなのでこの世界で生まれた俺は人間ではなく人工知能ということになる。なんと言うか不思議な気持ちだ。今でも前と同じように考えることができるのに人間ではないというのは。それに気づいたとき同時に嬉しくも思った。何故なら作品のキャラクター達の人生に自分がいるし本編での死者を生存させることもできるかもしれないからだ。考えるだけでわくわくが止まらない。
今は人界歴366年。ユージオ、キリト、アリスの三人がまだ5歳だ。これから6年後アリスは禁忌目録を破り整合騎士に捕まえられる。その出来事はユージオの心に大きな爪痕を残し6年もの間心を閉ざすきっかけになる。そんな出来事は起こってほしくない。しかし、あの出来事がなければ最高司祭が人々を剣に変えるのを止める者は居なくなり、多くの犠牲者が出てしまう。それに俺は6年後でも9歳で住まいがセントリア、ルーリットに行く口実もなければ力もない。介入するには無理があるだろう。介入するタイミングは今の俺の立場や年齢から考えなければ。今生の俺は人界歴363年五等爵士の貴族に生まれた。修剣学院はティーゼ達の入学年齢からして16歳、それなら俺が入学するタイミングはユージオ達が入学するタイミングと合致する。ここが最適だと思う。そこまではあと13年、その間に出来ることをやれるだけやって備えないとな。
まずは剣の道を進むことを父さんに伝えるか。話を盗み聞いた感じから父さんは剣に纏わる仕事はしていないようだから断らないか少し心配ではあるが俺がこの2年の間見てきた父さんは一度もキレることはなかったし、俺の質問にもしっかりと真摯に答えてくれてるような人だから多分大丈夫なはずだ。と考え部屋に父さんが来るのを待った。
待っている間が暇すぎるので俺は今の自分について考えることにした。
今の俺の身体は3歳の子供のものでいろいろ不自由な所が多い。例えば歩くこと。身体の感覚に違いがあって歩きづらいことこの上ない。他には身長の問題でドアノブに手が届かないことだ。このせいで俺は部屋の外を出歩けないから会いたい人がいるときは待ち続けなければならない。
昔は赤子の頃に戻って遊び呆けたいと思ったことは何度もあるが、実際戻ってみたところ退屈で仕方がない。する事は無いのに時間ばかりがあり余っている。というか転生することや赤子になること、など生前憧れてきたことのどれもが体験してみると微妙なってしまっている。なんだか夢が壊れていっているようで悲しい。
まあ、ティーゼの談によると彼女が剣を握りだしたのは3歳かららしいので、俺もそろそろする事の無い日々におさらば出来ることだろう。
ドアの開く音が聞こえた。入ってきたのは…………父さんだ。
俺はその姿を見つけるや否や全速力で駆け寄った。
「おとうさま! おとうさま!」
「うおっ! と……元気だなぁ」
父さんに体当たりした。こういう感じに人と会うときの動きかたで俺がイメージするのは活発な3歳児だ。自分的に3歳というのは人生の中でも活発に動いている時期という認識だ。だからその3歳児の中でも活発に動こうとするなら、体を目一杯動かしつつ声も張り上げるぐらいしなければならないだろう。何故ただの3歳児でなく活発な3歳児かというと……活発な方が剣士目指している感じを全面に押し出せている感じがするからだ。いや、ただテンション高い変な子と思われるかもしれないが何かしないと落ち着かないのだ。体は動くのに原作介入のための行動を何も取れていない現状への不安で。
まあ、今日はそんな前提を加味しても勢い良くとびつきすぎたきはするが。そろそろ本格的に動き出せるんだ。気持ちが高ぶるのも当然か。と考えながら父さんに言葉を掛ける。
「おとうさま! おれきめたよ! なりたいもの!」
俺のその言葉を聞き父さんは少し目を見開きいた後笑みを深めて言う。
「そうか……何になりたいんだ?」
「おれね! けんしになりたい!」
「剣士か……本当になりたいんだな?」
「うん!」
「そうか、わかった。それにしても、もう目標を持つなんて偉いじゃないか」
父さんは俺の頭を撫でつつ言う。
「ありかとう! おとうさま!」
「昔、俺が使っていた木剣を持ってこよう。まっていてくれ」
「わかった!」
父さんが部屋を出た。
はぁ、と俺は安堵のため息をついた。本当によかった~。父さんのことだから許してくれるとは思っていたけど不安はあった。
少しすると、父さんが両手に木剣を持って部屋に戻ってきた。そして右手に持つ木剣を俺に差し出しながら言う。
「ほら、これからはお前のものになる剣だ大事に扱えよ」
「うん!」
「いい返事だ。着いてこい」
「わかった!」
と返事を返しつつ父さんの背中を追う。
父さんが向かったのは隣の部屋でそこは所々棒のようなものが地面から伸びている以外に何もなかった。
「おとうさまここは?」
「剣を練習するところだ」
「まずは剣を構えるところからだ俺の真似してみてくれ」
「わかった!」
父さんはそう言うと左手の鞘に収まった木剣を抜き放ち、鞘を置いた後に軽く両足を前後に開き腰を少し落として両手で握った木剣を体の正面に持ってきて止まった。
俺もそれに習って姿勢を変える。
「よしよし、そんな感じだ上手じゃないか」
「ほんと!?」
「ああ、はじめてなのに凄いぞ」
「やったぁ!」
「腰をもう少し落としてみるともっとうまくなるぞ」
「わかった!」
しばらく構えの形の調整を行っていると日が傾いてきた。
「今日はそろそろ終わりにしよう」
「わかった!」
そうして、俺は自室に戻った。
今日の練習はずっと構えの練習だけだったな……これからの13年でキャラクター生存を目指せるだけの強さを求めるなら、一般貴族の剣技だけでは足りない。父さんから学べるであろうハイ・ノルキア流のソードスキル以外のソードスキルも出せるようにならなければならない。道は長いなぁ。しかし、キリト達と同時期に修剣学院に入学できる機会を得られたんだ。ユージオが生きている間に正攻法で会えて生存への道を開けるかもしれないんだ。頑張らないわけにはいかない。
ユージオはSAOのアリシゼーションに出てきて作品の主人公であるキリトの親友だ。彼は修剣学院入学から1年と1ヶ月後にセントラルカセドラル最上階での戦いで死んでしまう。俺は何とかしてそれを避けたい。だから俺は修剣学院入学までに彼らに手を貸せるぐらいに強くなってユージオの成長を促進させるなり知識を増やして相手への対策を促すなりしてユージオの未来を変えて見せるのだ。と決意しながら眠りについた。