次々回には学院編を始められそうです。
人界歴370年6月
両足を前後に開き軽く足を折り曲げ半身になり、右手の木剣の刀身が背中に対して45度程傾いた状態になるように構える。
すると、体が光を放つ刀身の意思に引きずられるように動き出す。右腕が振り上げられる動きに合わせて腰が捻られその勢いを利用した剣が振り下ろされた。
振り下ろされた木剣は地面に触れるギリギリで止まり木剣が纏っていた光は霧散した。
おお……! これは……
「痛くないか?」
「うん! 全っ然痛くないよ! お父様!」
呆気なく出来てしまった…………こんなにあっさりと…………でも子供の成長って大人の成長なんかより全然凄まじいってどっかで聞いた気がする…………なら……当たり前なのか? 凄いな子供の成長力…………ヒビって昨日中ごねてた俺がバカみたいだ。
「そうか、良かった。でもまだ何回も使える訳じゃないから1日4回までにしておくんだぞ。あと天山烈波は使わないようにな、あれはまだ負荷が大きい」
これはそんなに…………って言われてみれば確かに結構疲れた感じがする。全然気づかなかった……。
「うん! わかった!」
「よし、良い子だ」
あと3回か……2回は部屋での練習用に残しておこう。
今は夕方、自室で練習中だ。
どれを使ってみようか。両手剣のソードスキルはまず使えないとして…………"ヴォーパルストライク"と"ソニックリープ"とか突進系は壁にぶつかりそうだし連撃はこの木剣の優先度的に使えないから……"スラント"と"ホリゾンタル"辺りか?
じゃあまずは"スラント"。
左肩左足を後ろに右肩右足を前にするように体を斜めにし足を前後に開く木剣は腰の左側に置く。
光を放ち発動した"スラント"は前と同じように左の逆袈裟斬りを放ち静止した。
一発成功、あの日から感覚を忘れないように繰り返した甲斐はあったようだ。この調子で"ホリゾンタル"も使えると良いけど。
次は"ホリゾンタル"。字の通り地面に対して水平の斬撃を放つソードスキルだ。
"バーチカル"と同じ様な姿勢を取り、木剣の刀身がしっかり地面と水平になるように右腕を後ろに伸ばす。
その姿勢で待機して20秒程が過ぎるがライトエフェクトはかからない。
…………………………………………駄目か。
その後も姿勢や腕の高さを変えて"ホリゾンタル"の発動姿勢を探すも見つからないままに日が落ちた。
…………そう簡単にはいかないか。
ソードスキルの使用による疲れで重くなった体を引っ提げてベッドに勢い良く倒れ込む。
まあ……"スラント"のときは発動に2日ぐらいかかったんだから1日じゃあ難しいよなぁ。
今使えるであろうソードスキルは単発で移動の小さい片手剣スキルと体術スキルあたりだろう。そこまで絞れば俺の知るソードスキルは少ない。しかも両手剣用ソードスキル等他のは体が出来上がって無いだのそもそも剣の権限値が足りないだのでこの2つに集中する時間はかなりある。ゆっくりやっても時間が余るぐらいだろうから焦らず練習しよう。
と逸る心を往なしながら目を閉じた。
空には豆粒程度の大きさの雲すらなく透き通るような青空が視界一杯に広がってる、今日は快晴だ。最近は曇ってばかりだったからなんだか嬉しい。
おっと、そろそろ何時もの集合場所か?
空に向けていた視線を下ろすと視線の先には小さくしかしうっすらとコルレオが映っていた。
ズンズンと歩を進め彼に近づくと呆れたような表情を浮かべた彼がはっきりと見えてきた。
「おい、タルクお前また晴れてるからって空ばっか見て歩いて来たのか…………歩くときぐらい前見て歩けよ。また道に迷うぞ」
そういえばそんなこともあった有ったんだった。
前世の頃はあまり空を見るってことはあまりしてなかったし興味もなかったけど、前世より時間に余裕があって娯楽も少ないこの世界になってからは数少ない娯楽の1つになっていた。
確か道に迷ったのは空の魅力に気づいてから間もなく通学路も雑に覚えてたころだっから道に迷ったんだよなぁ。
正しく年甲斐も無いという言葉が似合う話しだ。今思えば精神年齢32歳のオッサンがどうしてこんなことをしたのかと困惑しているが精神が体に引っ張られているんだ。そうに違いない。
「迷子になったのは1年前でしかも3回だけじゃないか。もう道も覚えたんだから大丈夫だって。それにこんなつまらない通学路見て久しぶりの快晴を見逃すなんて勿体ないって!」
「はぁ……じゃ、行くぞ」
「そうだね」
「今日は2番乗りみたいだね。1番乗りは誰でしょう」
教室前に到着した俺は中を見渡しつつ後ろを歩くコルレオに問う。
「セオシアだろ」
「せいかーい」
セオシアは日の光を浴びながら机に突っ伏し眠っている。彼は鍛冶屋の親を持つ少年で何時も教室に最速で来て今のように寝ている。前に理由を聞いたら何となくとかなり曖昧な返事が返ってきた。
本当にそうかもしれないけど、前に「君のお父さん鍛冶師なんだ! すごいね!」と声をかけた後にあからさまに不機嫌になっていたことや彼の元々のちょっと荒めの口調だったこととかが関わっていそうな気もする。
「天気が良いだけあって何時にも増して気持ち良さそうだね。いいなぁ」
「いいなぁ、って何がだ?」
「こんな綺麗な空の下で寝れてることだよ」
「そうか? 寝ているんだったらどんな空でも変わらないだろ」
コルレオは納得出来ていないようで首をかしげた。
俺もこんな空の下で寝たい…………! 今寝たら絶対授業まで起きてられないから出来ないけど。
俺はセオシアに向かって歩き出す。
「どうしたんだ?」
「せめて寝起きの感想でも聞こうと思って」
「寝起きの感想? そんなもの有るか?」
「…………起きたときいい感じに日が差し込んでたら気持ち良くなる…………みたいな?」
まあ、かなり感覚的だから何って聞かれて具体的に思い浮かぶ訳じゃないけど。なんか…………そういう感じの…………あれだよ。
「…………?」
またもや 、分からない と首をかしげるコルレオをから視線を外しセオシアの席に近づき背中を軽く叩く。
「お~い 起きろ~」
「う、ん?」
「おはよう 何時も通り良い睡眠っぷりだったね」
「あぁ、たらくくん?」
まだ軽く寝惚けているらしく舌の足りていない彼はゆっくり体を起こし、欠伸を1つしてから言う。
「どうしたの?」
「今日の起き心地はどうだったのか聞きたくて」
「? …………何時も通りだけど?」
「あれ?」
お前もコルレオタイプだったのか…………あんなに何時もより気持ち良さそうに寝てたのに……!
「え?」
「あー、いや分からないなら良いんだよ」
「そう……?」
は何がしたかったんだ? という顔をしてこちらを見ていた。
揃いも揃ってそんな顔を……サカーゼには伝わったのになぁ。
はぁ~…………
去年の7月になってようやく習い始めた算術に頭を悩ませるふりをしながら周りに合わせるようゆーっくりと、ゆーっくりと進めていく。
最初の頃は周りの動きを気にしつつ動きを寄せることがストレスでかなり疲れていたが慣れは凄いもので最近では周りをほぼ見ずにでも周りの動きに合わせられるようになって余裕が出てきていた。余裕が出来すぎて授業が退屈に思えるぐらいだ。
え~っと次は……8……8? …………何か忘れてるような…………8……8……8ヶ月? ……あ、思い出した……昨日の朝考えてたことなのに秘奥技の話に上書きされて忘れてたな。ええっと~……確かサカーゼにお兄さんの近況を聞こうとしてたんだっけ……授業終わったら聞いてみよ。
それにしてもサカーゼのお兄さんが鍛冶師見習いになったあの日がもう2年も前しかも俺が前にサカーゼのお兄さんの事を聞いたのは8ヶ月も前…………聞いてなさすぎだろ。
それにしても懐かしいなサカーゼのお兄さんが鍛冶師を目指すようになったのって俺達が入学してから2週間ぐらいの頃だったか。あそこら辺は今生の中でも特に記憶に残っているからよく覚えている。というか他で大して記憶に残る用な事がなかった。
あの家業を熱心に手伝っていたお兄さんが何故そうなったかと言えば、それは俺が初めてサカーゼとパン屋に行った日の帰りに聞いた兄の悩みが鍛冶師になることだったのが切っ掛けでそれをあの手この手で聞き出したサカーゼが色々と動き回って鍛冶師見習いになれる状況を作って兄を説得したからだ。
俺自身のその話しへの関わりは手当たり次第鍛冶屋に行って頼み込もうとしていたサカーゼに鍛冶屋の息子である がコルレオと仲良くなっていたからその伝手で紹介したぐらいだったが彼から話しは進行形で聞いていたので話しの盛り上がりもそのままに聞けたのでとても印象に残っている。
「おーい、サカーゼ最近のお兄さんの鍛冶の腕前はどう?」
授業を終えると最近の席替えで横に来ていたサカーゼに声をかけた。
「ん? ん~……何をやってるのかは僕じゃあ見ても良く分からなかったけど動きを見ていたら上達してる! って感じはしたよ。…………そう言えばタルクが兄ちゃんの話するなんて珍しいね」
「いや~今日の授業中ここ最近あの人の事を聞いて無かったな~って思って気になったんだ」
「そっかぁ……じゃあ会いに…………あ……タルクってセオシアのお父さんが苦手なんだっけ?」
「そうだよ」
「すっごい怒られちゃったもんね~」
そうそう。あれは確か初めてサカーゼのお兄さんの練習を見に行こうとサカーゼと一緒にセオシアのとこの鍛冶屋に行ったときのことサカーゼのお兄さんとサカーゼとで話しているとき「うるせぇなぁ、ちったぁ静かにしろ!」とこっちを睨みながら怒鳴られたことがあった。
それ以降あの人にヒビってしまって行けなくなってしまったんだよなぁ。自分自身の小心さに自分で驚くぐらいだ。前世の時より更に小心さに磨きがかかっている気がする。
「あの頃の俺の声は確かに大きかったよ。でもさぁ…………あの怒り方は無いよ」
この話しの後、俺と話している人の一部が俺と話している時に微妙に顔をしかめていることに気づいてから直そうとしたときその声量での喋り方に馴染みすぎてかなりの時間がかかったのは記憶に新しい。
「そうだね。でもタルクに兄ちゃんの上達具合を見て欲しいな~。行けそうになったら言ってね。何時までも待ってるよ!」
「うん」
「じゃあコルレオとセオシアに声を掛けにいこうか。」
「そうだね」
俺は斜め前の方で話しているコルレオとセオシアに声を掛けた。
「お~い、2人共そろそろ帰る~?」
2人は同時にこっちを見て俺の言葉に「そうだな。(だね)」と返して歩いて向かって来る。
集まると俺とコルレオ、サカーゼとセオシアの家の向きが同じ2人に分かれて帰路に着いた。