学校生活4年で学んだ算術、帝国基本法、禁忌目録、漢字を範囲とした終了試験、落ちれば主に禁忌目録を覚えるための補修を食らって再試験になる。今年は誰も食らわなかったので分からないが先生に聞いたところそうらしい。
そんな試験ももう2週間も前の事。今日は学校に通う最後の日だ。
今は入り口に着いて校舎を眺めている。4年の間に飽きるほど見た校舎だけど、もう来ることが無いのだと思うと少し寂しさを感じる。
「なんかあっという間に4年過ぎたね」
「そうか? 俺は思わないが…………そうだな、思い返そうとするなら一瞬に感じるだろうな」
咄嗟に否定を返したコルレオだったが少し考える素振りを見せた後そう付け加えた。
思い返すなら一瞬かぁ、全くその通…………そうかな? 何時も、もうあの日からこんなに過ぎたのかあんなに過ぎたのか、とか思ってた記憶があるぞ。
いや、俺が時間の経過を気にしすぎてるなこれ。時間って意識すればするほど早く過ぎる感じするしこの4年に限ったことじゃないけど秘奥技の練習やら何やらで何時も時間の事を考えていたからなぁ。
「そうだね。それじゃあそろそろ入ろうか」
「ああ」
授業が終わり、試験が終わった。そうすると学校でする事で残るのは掃除のみになる。だから卒業する今日までの登校日は減ったし内容も先生の話と掃除だけになっていた。
今日はどうだろうと思っていたが変わった所と言えば先生の話が倍近く長くなったことぐらいで掃除は何時もと同じ内容だった。
「これから会わなくなる奴もいるからな、しっかり挨拶をしておくんだぞ! これで俺の話は終わりだ! 皆元気でな!」
あ、話終わった。じゃ、言われた通り挨拶をして回ろうかな何時もの3人以外とはそうそう会いそうにないだろうからね。
そう思うなり立ち上がり近場の友達から順に声を掛けに行く。
この学校で出来た友達だけでも高校や大学で出来た友達の総数より多い。理由は相手側が積極的に話し掛けてくれたからだろうけど少し不思議な感じだ。
多人数と楽しく話す、前世ではやったことのない事だったから結構楽しかった。前世は前世で別のタイプの楽しさがあったけれど、こういう人生の楽しみ方は前世では出来なかったからなんというか転生様々といった感じだ。
ゆっくりと考えながら声を掛けていくと思考に区切りが着く頃には既に友達全員への声かけが終わっていた。
見回すとコルレオとセオシアはもう挨拶を終えて集まって2人で話していて、サカーゼは俺達の中で最も仲の良い人が多かったからかまだまだ挨拶を続けている様子が見えた。
他の友達にはもう挨拶を済ませてしまってまた話し掛けに行きづらくなっていた俺はセオシアとコルレオの話に挟まろうと歩いて向かった。
「―――で、結局家業は継ぐことにしたのか」
「まぁね」
近づいていくと2人の会話が耳に入る。
家業って鍛治師を? マジか······父親が嫌いで最近まで他の道を探そうといろんなことに挑戦してたのに······何かあったのかなぁ。
「あれ? そうなんだ、でも······どうして?」
会話している2人の横から話しかける。
「あ、タルク君」
声をかけて初めて俺の存在に気づいたようでセオシアは少し驚いた顔をして声を出す。コルレオの方は特に驚いた様子もなくこっちに視線を合わせた。
「······で、えっと? 聞きたいのって、お·····僕が家業を継ぐことにした理由の事?」
あ、素がちょっと出た。でも口調を変え始めた当初は普通に喋ろるところですら戻って直してを繰り返していたのに今では驚いた時に一人称だけ、成長したなぁ。
「うん、そうだよ」
「それはね、簡単に言うと僕には鍛治師が向いているって気づいたからなんだ」
簡単に纏めすぎだと思うんだけど·······まぁ、こっちで聞いていけば良いか。
「これまでの挑戦も踏まえて?」
「うん、勿論」
挑戦した事柄によって差はあったけど、大体普通に出来ていたし一部はかなり上達が速い物も有ったのに、ここまで言い切れるのか········才能の程がちょっと気になる。
「お父さんの事は良いの?」
「あの挑戦のおかげで僕が鍛治の事を気に入っていたっていうのが知れたのとサカーゼのお兄さんが一緒にいるのがあるからまあ·······我慢できるよ」
そういえば最近までのセオシアが浮かべていた表情は暗いものが多かったけど、今の彼の表情はかなり穏やかな·······気がする。
「そっか」
あの人と同じ職場とか大変そうだね。頑張れセオシア。
「あ、そうだコルレオ君にタルク君」
思い出したとばかりにコルレオと俺に向き直って聞く。
「何だ?」
「どうしたの?」
「そういえば君達は2人とも剣士を目指しているんだったら修剣学院に通うんだよね」
2人とも······彼がそう言うようにコルレオも剣士を目指している。そして彼がその目標を考えるようになった原因は俺が昔からコルレオに他に話し相手が居ないからと剣に関する話をよくしていたからと思われる。彼の家系はずっと行政の仕事に就いていたと聞いているし俺の家系かって昔は剣を用いていたらしいが父さんの代では行政の職に就いているから多分そうだ。
「ああ、そうだ」
「うん、そうだよ」
彼が目標の内に剣士を入れ始めたのはかなり前だが最初の内は行政を目指すか剣士を目指すかで迷っていたようで二足わらじな状態を続けていたが今年の4月にようやく剣士を目指す事を決めたのだ。
それからコルレオは本格的に剣の練習を始めた。あの日から彼の実力は凄まじい速度で上がっていき今では秘奥技無しの1本先取のチャンバラごっことかやれば1本も取れずに負け続けるぐらいには差が広がっているし秘奥技の威力に関してもあっちの方が上となってしまっている。
俺は3歳の頃からずっと練習を続けてきたのにこうもあっさりと追い抜かれてしまうと何だか虚しくなってくる。
「学校終わってから学院までってあと7年ぐらいあるけど、その間って練習し続けるの?」
「そうだ」
「そうなるね」
「聞けば聞く程気の長い物なんだね剣士って。しかも練習も単調だから鍛治とあまり変わらないって感じるよ。剣士に憧れている人はこの学校にも沢山いるけど、実態を聞いたら残念がるかな?」
やっていることは棒に剣をぶつける事に型の練習、秘奥技の発動か·········俺の場合は練習する秘奥技の数が多いけど普通だったらそれも少ないからほぼ毎日同じことしかしないことになるのかそうとすると単調だね。
「どんな内容にしろ気にしないと思うぞ。剣士に憧れている者の大半は剣を正式に持てて振るえる自分を求めているだけだからな、俺含めて。まあ上級貴族は解らないがな。なぁ、タルク?」
俺の父親はよく上級貴族には気を付けろとは言ってくるが確か彼の父親の方は俺の父親よりも上級貴族に嫌悪を向けていた記憶があるからコルレオの脳裏には上級貴族への呪詛がこびりついているんたろう。俺ですら耳タコなぐらいだからなぁ。除外したくなくなるのはよく解る。
「そうだね」
にしても貴族か·····この区の学校って今では当然·······と言えば微妙だが取り敢えず対立などはなく貴族の子供と平民の子供が一緒に勉強しているけど昔は1部貴族が反発していて貴族だけの学校を造れとか言っていたらしい。でも5等やら6等でしかない貴族の力じゃ集まった平民側の力には敵わなくてその貴族達は降伏して馴染むか少ない貯蓄に怯えながら講師を雇って貴族の面目を保とうとする2つに別れたらしい。
この話は先生から聞いた話だが親にも確認を取ってみたところどうやら本当らしい。
まあそんなことが昔に起こったせいでこの学校に来る貴族の子供は入学前に親から姓を言わないよう言われる事もある。俺もその1人だ。昔は何故か解らなかったがこの話を聞いたときに気づいた。
別に姓を言って貴族であるとバレた所で何かされるとかそういうわけではない、隣の教室には姓を名乗っている奴がいたが虐めがあった様子は無かったからそのはずだ。
しかしそんな風な過去を作った貴族達はかなりの戦犯だと思うから俺としては反省を促してやりたいとは思う。
そうコルレオの声にかなり雑な返しをしながら考えていると
「お~い、皆~」
横からサカーゼが近づきながら声をかけてきていた。
「終わったんだサカーゼ」
セオシアは声を掛けられる前からサカーゼに気付いていたようでいち早く声を返す。
「うん。じゃあ前から言っていた通り今日は皆でパン屋に行こう!」
サカーゼは興奮気味に言った。
パン美味しかったなぁ、と少し前に食べたパンの味を思い返す。これまで散々食べてきた筈なのに飽きる予兆すら見せない味には脱帽ものだ。今は家で何時ものように秘奥技の発動姿勢を探している所だがパンの味が頭から離れていかない。
練習中に余計な事を考えるのはいけないなと思って練習の成果を思い返す事でパンへの意識を塗り潰そうと試みる。
最近では回数無制限ではないもののようやく両手剣の秘奥技も使えるようになった。それに予定していた通り知っている限りの大きな移動を含まない片手剣、体術2つの秘奥技は一通り使えるようになっているので今のところ順調だ。
しかし秘奥技連携や連撃系秘奥技に関しては出来る気配が欠片程も無いのでかなり心配だ。これからの7年でなんとかなってくれると良いんだが。
この2つに関しては天賦の才と謳われたユージオを手こずらせたものだがあっちは基礎含めて2年でこっちは基礎やっていてまだ7年もあるんだ。なんとかなる······と信じたい。
頑張れ······俺。
思考を切り替えたついでに湧き出た不安感をやる気に反転させつつ自身を鼓舞した。