目を覚まして最初に見た物は何時も家で見てきた白い天井·········ではなく2段ベットの上段の底。
それを見て一瞬困惑したがしばらくすると記憶がはっきりしてくる。
あぁ、昨日ようやく修剣学院に入学したんだった。·········それで今は学院の寮に居る········ということはキリト達は本当にいたんだ。昨日の入学式に彼等を見てからはずっと夢を見ているような気分になっていたけど昨日は確かにあった。夢ではなかったんだ。キリトは、ユージオは、ソードアート・オンラインのキャラクター達は確かにこの世界に存在する。
この世界に転生してからステイシアの窓や秘奥技に対面してそうだろうとは思ってきたしそれを前提に動いてきたけど、もしかしたら近いだけで違う世界でキリト達はいないとかそんな可能性も頭の中にずっとあったから不安だった。だけどその不安はもう無くなった。マジでうれし·····
「おい、目を覚ましたんだったらさっさと起き上がったらどうだ? ······ってお前、泣いているのか?」
気付けばベット側面方向に既に初等練士の灰色に白いラインが入った制服に着替えたコルレオがいて声を掛けてきた。最初は呆れたような顔をしていたが俺の様子に気付いてからは困惑した表情を浮かべた。
「え? それ本当に?」
思いがけないコルレオの指摘に驚いて勢い良く体を起こしながら目尻に指を当てる。
すると、確かに涙が流れているのを感じた。
「うわっ、本当だ」
涙脆すぎだろ俺········歳か? ·····歳だよな。実質41歳だからな、年取ると涙脆くなるらしいから仕方ないよな······?
「気付いてなかったのか······まあ、良いとにか·····」
コルレオの声を遮ってカーンと時告げの鐘から鳴った音が聞こえる。
今のは半刻を意味する音か、しか····
「とにかく! 速く着替えろさっきのが6時30分の合図だから朝食まであと30分しかないぞ」
話をぶったぎられた彼は気を取り直すように声を荒げつつも続きを言い切った。
「わかった!」
服は確かベットの下の物入れに入れてたなぁ。
掛かっている毛布を退けてベットから降りて記憶を頼りににベットの下から服を引きずり出す。
そして立ち上り、着替え始めつつ辺りを見回す。学院の寮では1部屋10人が寝起きしているがその内4人は既に着替えていて3人は着替えている途中、残りの2人はまだ寝ているようだ。寝ている2人をそれぞれの2段ベットの片割れが起こそうとしているがまるで起きる気配がない。彼等は何時まで起きていたのだろうか·······いや、単純に寝起きが悪いだけかもしれない。
そう考えている内に着替えが済む。アニメでは見慣れた服だったけど自分が着ることになるなんてな~、と考えつつ密かに感じる感動に浸っていると突然朝起きてから誰にも挨拶していなかったことに気付きちょっと慌て気味に皆に声を掛けていった。
『アヴィ·アドミナ』
昨日決まったばかりの寮長が公理教会への祈りを終わらせてから全員で何時も食前に言う聖句らしい言葉を唱和してから朝食を食べ始める。
今日の朝食は丸パン1つと何かよく解らないんだけどソースが掛かった茹で野菜、野菜スープらしき物と白身魚を茹でたものだ。
真っ先に手を付けたのはサラダ、塊のど真ん中に左手に持つフォークを突き刺し口内に運び入れる。
·······美味しい。ソースがクリーミーで茹で野菜に良く合っている。ソースの中になんか入ってるな········これは······木の実? 野菜のソースに木の実を使うとか聞いたこと無いけど、この食感は確かに木の実だ。茹で野菜のしっとりとした食感木の実のザクザクとした食感どちらも丁度良いバランスを保っていて邪魔し合わない。やるな学食。
寮の食事に舌鼓を打ちつつ周りの知り合いに気付かれないようにキリト達を探す。
居た! 10時方向·······おぉ·······原作に介入することだけを考えて早16年も待っていたからか凄く感慨深いな。
それにしても彼等とどうやって仲良くなろうか。原作改変をするための絶対条件なんだけど·······今の人生も人間関係は受身の姿勢で相手側にかなり依存した形だったから全然分からない。この問題に気付いたのは知らない人に会う機会がほぼ無い卒業後の事だったからなぁ。もっと早くに気付けていれば。
後悔を嘆いているとフォークが食器の底をカツンと叩く音がした。野菜を食べ終わっていたようだ。
これまで考え続けて良い案が全く出てこなかったからもう体当たりしかないか。今日の授業の何処かで頑張って話し掛けに行こう。それで今は朝食を楽しもう。
次は何を食べようか······パンは最後に食べたい、いやスープに浸けるのもいいかも········迷うなぁ。
取り敢えずこれを決めるのは保留にして魚を食べようかな。
右手に持つナイフで身を切り分けフォークを突き刺し口に運ぶ。
こっちも美味しい。程よい塩気が身に均等にいき渡ってきて魚が持っていた元々の美味しさを消さないどころか更に押し上げている。寮での食事っていうのも良いものだなぁ。
この学院で初等練士が行う授業はこの世界にある法を学ぶ法学、この世界における魔法的な物を学ぶ神聖術、この世界の歴史を学ぶ歴史学、剣の実技、神聖術の実技の5つだ。実技を除いた3つは中央校舎内の講堂で行われる。学院にはクラス分けという概念は無く授業は初等練士と2年生である高等練士の2つだけを分けて行われる。
確か今日は歴史学からだったなぁ。と昨日見た授業表の内容を思い出しながら教材を持って講堂へと進む。
授業の開始は9時で8時30分を告げる鐘の音はもう鳴った。つまり次の鐘の音で授業が始まる。自分の体内時計で正確に時を刻む自信は無いから前の鐘の音を聞いてから間を置かずに講堂まで移動している。今丁度中央校舎への入り口が見えてきたのであと少しだ。
こういう時に時計が有ったら講堂に行くために掛かる時間とか、今の時間もわかってこんな風に鐘の音に怯えずに済むのになぁ。とか考えていると講堂への扉が見えてくる。
扉を開けて中に入るとポツリポツリと人影が見える。
俺より早くに来る奴とかいるんだ·······俺みたいな理由なのか、初めての学院での授業に緊張して来てしまったのか、寮に居づらかったのか······どうなんだろうなぁ。
·······そんなことよりどこ座ろうか。見えやすいのは真ん中だろうけどそういうところって高等貴族達が座りに来やすそうだから端の方にしようかな······その方が良いな、そうしよう。
そう考えて歩き出し扉と真逆側の最上段の椅子に腰掛ける。
そういえばコルレオ達205号室の奴等は何処にいるんだろう。朝食を終えてからは学院内の建物を見るって言って俺だけ彼等と別れてから今まで会っていない。
········ん? 今思えばあの8人初対面の人間と仲良くなる事の練習台にするには打ってつけだったじゃないか!
アイツらとは気付いたら同室の奴等と打ち解けてたコルレオを介して仲良くなったけどそれじゃ駄目なんだよなぁあの時俺は何をしていたんだっけ?
あ、そういえばキリト達を見かけてからはずっと感傷に浸り続けてて学院の説明を聞いている時以外はずっと上の空に近い状態になっていた気がするぞ。思えばアイツらと仲良くなったなんだって言ってたけど何言ったのかまともに覚えてない·······ヤッバいな俺、間抜過ぎない?
俺が座るのは左端の最上段の席、だから目だけを右に動かすだけでこの講堂の練士の大半が視界に入る。1学年当たり120人だから見えているのは110人ぐらいだろうか。前世では都会とかなら昼間ただ歩くだけでも見かけることができるぐらいのありふれた人数ではあるが今生の俺の16年の人生においては最大規模の人数だ。
壮観だなぁと思いつつ流し見ていると性悪貴族のライオスとウンベールが見えた。原作にてキリト達は禁忌目録を破る事になるが奴等はその原因になった存在だ。常に自分達以外の人間を見下していてこの学院でルーリッド村と言う辺境からやって来て入学試験成績上位15人に入ったキリト達を死ぬほど嫌っている。
キリト達と関わるならアイツらの嫌味が俺の方にも飛んで来るようになるんだろうなぁ。少し、いやかなり憂鬱だ。
と考えていると授業の終わりを意味する鐘の音が鳴り響いた。
次の授業は実技か·····てことは移動しなきゃな。······移動·····移動か。これは話し掛けに行く丁度良い機会だなぁ。
取り敢えず一言でも何か話し掛けるんだ。考えて二の足踏んでても長い間考えて駄目だったんだから答えなんて出るわけがないんだから。
そう深々と考え込んでいるとトタトタと足音が聞こえる。
あ、もう動き始めている奴らもいるんだ·······キリト達は──―居ない!? ········あっ! 居た!
足音で意識が引き戻されてキリト達の様子を確認すると椅子に姿が見えず慌てたがまだ扉を通った所だったので少し安心しつつ後を追う。
少し早足気味に追っていくと1分程で声が届く距離まで近づくことに成功して声を掛けようと口を開く──―が
どうやって話し掛けるんだ? それに授業後の休み時間しかも移動中に初対面の人間に何の脈絡もなく話し掛ける奴とかヤバくないか?
躊躇おうと後に回そうと俺の心が逃げの姿勢を取ろうとする。口が閉じようとする。
駄目だ。それじゃ駄目なんだ。やらなきゃならないんだよ······今ここで、彼等は優しいからどんだけバグったヤバいこと言っちゃっても忌避ったり何かしない! 一言、一言だ。何か言えば何とでもなるんだ!
閉じかけた口を開き直し声を出した。
「ねぇ·······そこの2人······顔が良く似ているね」
は? 何言ってんの俺??????
さっきまで熱くなっていた思考が一気に冷えきるのを感じていると話し掛けられた事に気付いた2人は
「「え?」」
と顔に困惑の色を浮かべて言う。
だよな。意味が分からないよな···完全初対面の人間に顔が似てるとか言われても····で何を言えばいいんだ? ·····取り敢えず謝罪だ! それで······それで?
「突然ごめん。それで君達は兄弟だったりする? さっきの授業から気になっていて居ても立ってもいられなくてね」
続けてしまった·······でもそれ以外に何を言うかが全く思い付かなかった。というかなんだこの理由付け·····気持ち悪いな。
「えっと····違うよ」
突然の事に驚いていた2人だったが少しの戸惑いを残しながらもある程度は気を取り直せたようでユージオの方が俺の質問に返答した。
「そうなんだね。答えてくれてありがとう。あと本当にごめん初対面でこんなことを突然聞いてしまって」
頭真っ白だったから見て思ったことをそのまま口に出してしまったんだろうなぁ。何て事を·····
「謝らなくてもいいよ。僕とキリトって本当に良く似ているからね」
申し訳なくなるぐらいの優しさだな·······本当にありがたい。まだ名前すら知らない奴なのにな。
こちらを気遣って放たれたであろう言葉に少しの申し訳なさとそれを越えるありがたさを感じながら俺はそう考えた。
「ありがとう。俺はタルク·リュベリアっていうんだよろしく。気安くタルクって呼んでくれよ。君達は?」
「僕はユージオこっちはキリトだよ。僕達の事もユージオ、キリトって呼んで。よろしくタルク」
普通上位12人の人の名前ぐらいは覚えるよな······張り出されてたわけだし。
「ユージオにキリト? ······あ、もしかして君達は傍付き練士の?」
高等練士の上位12人の上級修剣士の稽古相手やら掃除やら身の回りの世話をこなす入学試験上位12人初等練士の事を傍付き練士と言う。入学試験の結果が32位だったから俺からしたら雲の上のような存在だ。
「うん、そうだよ」
「あ、待って更に思い出した。ザッカリアでの剣術大会で圧倒的な勝利を飾ってた2人だ。貴族じゃないのにあの素晴らしい剣捌き、驚いたよ!」
ユージオの場合は剣を習い始めたのがまだ1年前ぐらいでしか無いので本当に凄い。
「え、剣術大会を見に来ていたのかい!?」
「剣術大会なら毎年見に行っているよ」
ドタドタという後ろから聞こえてくる音に遮られた。振り返るとかなりの数の初等練士達が移動しているのが見える。
「うわ、歩きながら話そうか。ユージオ」
「うん。そうしよう」
「それで──────」
それから授業の開始まで俺はユージオとキリトに質問を続けた。