初めて仕えた神様は   作:メイドさん大好き

11 / 45
メイドさんの戦闘は華麗などとは縁遠いものである。


第十話

血の盃、血の誓い、血は魂の代価ともなりうる。

主に身命を賭して仕えるメイドさんは魂の代価たる血を捧げ、主には血を授かる。

神の血(イコル)】による【神の恩恵(ファルナ)】。

親愛なるヘスティア様。

私は愛が欲しかっただけなのです。

敬愛は飽きるくらいに貰っていました。

友愛もまた、良き友人がいました。

親愛は、私には家族はいませんでした。

家族と思える人などいなかったのです。

愛されるために何でもやってきました。

死ぬ気で勉強して、何度失敗しようと何度罵られようと、何度集られようと必要とされたことが嬉しかった。

でも、それは間違いでした。

ただの乞食共にやるものなんてひとつもなかったはずなのです。

私は勉強だけはできました。

私の知識があなた達の役に立つなら本望です。

私など必要ないでしょう、頑張ってください。

あなたならきっと全うできるはずです。

新しい私、ローズマリーさん。

 

「‥‥‥なんだ」

 

眠っていたのだろうか。

なんだか頭の裏に捩じ込まれているような不快感があった。

ベル君を追いかけてダンジョンに入って先回りしたのだ。

九階層の十階層に続く階段の前。

そこでベル君を待っていた。

待っている時に眠ってしまったのだろうか、それにしては魔法の効果時間は減っていない。

ダンジョンに入った時に使い、真っ直ぐに飛んできた。

まだ効果時間は五十分以上残っているように思える。

 

「‥‥‥何なんだ」

 

意味が分からない。

脳裏には得体の知れない不快感のみが残った。

内容など思い出そうとも思えない。

最近は一人になる機会がなくて聞く機会が少なくなっていたが、ソロで探索する時には微かに聞こえていたのだと思う。

久方ぶりの一人、変な白昼夢だと納得することにした。

 

「ローズ?」

 

「ベル」

 

足音はなかった。

考え事に身をやつしていた私にはベル君の気配を感じとることはできなかったらしい。

歩法を習得していたのは知っていたがあまりにも完璧である。

 

「速いね」

 

「当然でしょ。後輩には負けられない」

 

私が来るのはわかっていたらしい。

ベル君の顔には笑顔が浮かんでいる。

目は笑っていないし、ロングソードを握る手は強ばっているようだが。

 

「で、どいてくれる?」

 

「退かない。君こそ帰る?」

 

「やだ」

 

男の意地というものは非常に厄介なものだ。

ベル君は笑顔で私の言葉を拒んだ。

 

「男の意地ってやつ?」

 

「そうなるかな」

 

「‥‥‥厄介だねぇ」

 

なぜか理解できてしまう私がいる。

メイドさんを目指すベル君と通じ合うのは仕方ないことだが、異性である男の思いを理解できるのは複雑な気分だ。

中性的な見た目のベル君だけど、腹を括った男の子はカッコイイ。

 

「そういえばさ」

 

「何?」

 

「翼、どうしたの?」

 

「‥‥‥」

 

「うん。何となく分かった」

 

黒い片翼はカッコイイけどこういう洞窟だと邪魔だからね。

着脱可能的な感じで変身する時にあるかないかは選べるのだ。

メイドさんは不可能も可能にするのが使命だから仕方ないよね。

こんな意味では受け取っていないだろうけどベル君は納得してくれたようだ。

 

「条件は?」

 

「分かってる癖に」

 

もう大太刀は抜いている。

構えてはいないけれど、戦う意思は伝わっているはずだ。

ベル君の顔は苦笑に変わり、ロングソードを両手に構える。

すぐに目を閉じて真剣な顔に変わった。

 

「それでよし」

 

「お手柔らかに」

 

ベル君の姿勢は低くなり、剣の切っ先は私に向けられる。

私には鋭い視線を送られている。

 

「甘い」

 

「ッ!?」

 

キンッッ!!私の耳に金属音が聞こえた。

続く斬撃も、弾いて弾く。

確かに足音も気配もほとんど完璧に殺していると言っていい。

しかし、それだけでは不十分だ。

 

互いに一言も話さず、広間(ルーム)では金属がぶつかり合う音のみが支配している。

互いに小細工は一切なし。

メイドさん殺法と剣術がその戦いを支配していた。

一分が1時間に感じられるような、そんな世界である。

 

ベル君は強い。

少なくともレベル1の中では最強だろう。

技はまだまだ、しかし気迫は既にメイドさんの域に入っている。

殺気は隠せていない。

だから容易に場所が分かり、迎撃が可能になる。

どうやら修められているのはまだメイドさん歩きだけ。

その他の殺法は知らないのだろう。

 

「蝶‥‥‥?」

 

ベル君の視界に蝶が現れる。

ベル君はメイドさん殺法の真髄を知らない。

ベル君は、幻術を知らない。

 

「黒い羽根!?」

 

鴉、梟。

羽がベル君の腕に突き刺さり、血が吹き出した。

慌ててベル君は剣を振るい、見事に鴉に当てる。

鴉が消えて、蝶が現れる。

 

「ぐぅっ」

 

またもや蝶が黒い羽根に姿を変えてベル君に突き刺さる。

高みの見物は、気分はあまり良くないものだ。

ベル君の周りには鴉、私の傍には梟が飛んでいる。

 

「‥‥‥二式」

 

「ローズ!!」

 

青い梟は目立つ。

そんな梟を追うようにして幻術を解いて無防備に姿を現した私の斬撃など弾けて当然だ。

 

「よっと」

 

雑に手首を軽く切った。

そこから出るのは血ではなく、黒い粒子。

それを掴んで投げれば、爆竹のような爆発が起こる。

 

「‥‥‥!!」

 

「フンッ!」

 

「フグゥッ!?」

 

ぶん殴る。

ベル君は爆発で怯み、私は怯まなかった。

血反吐こそは吐かなかったようだが、痛みで思考が停止しただろう。

 

「‥‥まだァ!」

 

蹲りかけた。

膝をつきかけ、地面に手をついた。

正直、ベル君を舐めていたんだと思う。

どれだけ強くなってもまだまだ遊べる範囲にいると思っていたんだろう。

 

「よくやったッッ!」

 

振るわれたロングソードは見るも無惨に半ばから斬られた。

ベル君は目を丸くさせ、トドメに首元に手刀を振り下ろす。

 

まだまだベル君が弱い。

その評価には間違いないが、気迫と心は十分だ。

十二分になってもらわないと困るのでまだまだだが、最後には思わず興奮して声を上げてしまった。

常にメイドさんは冷静沈着に、そんな信条を無視してしまって恥ずかしい限りだ。

 

メイドさんの心得、冒険者の心得、それらは常に自分を律して高め続ける心を表している。

ベル君もわたしも同じであるはずだ。

 

「‥‥‥」

 

倒れているベル君は息はしている。

動かなくて細かい傷はあるけど死んではいない。

半ばから切ったロングソードはベル君の手からは離れていないようである。

 

「ベル君よ」

 

大太刀を腰に差す。

そしてベル君を背負う。

気絶しているから多少雑でもいいが、疲れているだろうから慎重に。

さながらヘスティア様を抱っこするように背負う。

ロングソードは危ないので回収済みだ。

 

「徹底的に折りたかったなぁ」

 

そういう意味ではある種負けだろうか。

すべては私がベル君を侮っていたのが原因、使えるものはなんでも使って勝つのもまた流儀の一つなのを忘れていた。

まだ、道具は揃えられていない。

だから全力では私も言えない状況であった。

 

「可愛いからいっか」

 

背中にいるベル君の寝息。

癖の強い髪はフワフワしていて少しくすぐったいけど逆に心地がいい。

眠っているベル君は穏やかに笑っている。

 

「‥‥‥えへへ」

 

超可愛い。

後でメイド服仕立てなきゃ。

 

 

 

 

 

 

 




ローズの戦闘で参考にしたかったのは義父梟。
したかったけれど彼みたいに凄く描写できん。
フロムの人型キャラのかっこよさは異常だよね。
剣聖一心や義父梟がカッコよすぎる。
大忍び梟もいいんですけどね。

ローズちゃんは割と脳筋ですが、幻術や搦手も使えちゃう子です。
普段は全く使わなくて、更に苦手なのである意味舐めプでした。
最初でロングソード切り飛ばして勝つことも可能でした。
ちなみに幻術はメイドさん殺法 其の漆です。
まぼろし冥刻って名前です。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。